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エイガストは金の針を使ってアイゼルトの石を除去ができると提案した。アイゼルトはしばらく金の針を弄った後、除去する事を断った。油断すると石に意識を乗っ取られるが、たっぷりと魔力を宿す石は強い魔法を使うのに便利なのだと言う。

危険ではあるがコルトを倒すには必要な力でもあるため、アイゼルトの石はコルトを倒した後に除去する方針で決まった。


エイガストはイヴァルを背負い、落ちない様に紐で縛る。アイゼルトはジュリアーナを同じ様に背負い、灯りを持つゼミリアスを先頭に地下室を出て一番近い外への扉を目指す。

途中、通路にある調度品がひとりでに浮かび上がって襲ってくるも、(あらかじ)防護壁(シールド)を張る様にアイゼルトから指示があり、難なく扉まで到着する。

扉の鍵は締められていて、頑丈な材質と強化の魔法で体当たりした程度では破れそうにない。

アイゼルトは前に出て剣を構える。柄に嵌まる魔晶石が仄かに光り、刀身が色づく。魔装具の剣。途切れる事なく、今まで魔力を通し続けて刀身を作っていたとしたら、アイゼルトはエイガストやゼミリアス以上に魔力を保有しているのかも知れない。

剣を構えて扉へと駆け、防護壁(シールド)の外に出る。それを狙ったかの様に、周囲の燭台がアイゼルトに向かって飛来する。アイゼルトは飛んできた燭台ごと、立ち塞がる扉を叩き斬った。そして扉が復活する前に、全員外へと走り出る。

外に出てしまえば、コルトは手出しが出来ない。


「エイガスト殿! ゼミリアス殿!」


屋敷を囲う鉄柵の外からウォルカ将軍の呼ぶ声が聞こえた。

少し離れた場所では鉄柵を壊す作業をしている。

エイガストはウォルカに魔療使(ヒーラー)を呼んでもらい、重症のイヴァルと気絶したジュリアーナを引き渡す。


「ここからは(われら)が引き受けます。皆さんは安全な場所に」

「嫌だね。お前(ウォルカ)将官(あのへん)はともかく、それ以外の奴らは足手纏いだ」


ウォルカの言葉を遮ってアイゼルトは拒否する。幼い子供に足手纏いと言われた兵士たちは明らかに敵意を向けるが、ウォルカは軍服を着ていないにも関わらず、アイゼルトが的確に実力のある者を当てたので驚きを隠せずにいた。


「しかし貴殿等は一般民です。危険な仕事は軍の」


尚も引き留めようとしたウォルカに、アイゼルトは魔力を周囲に放った。強い魔力に耐えきれなかった兵士はその場にへたり込み、至近距離にいたウォルカは膝を折る事はなかったが肝が冷えていた。


「エイガスト時間が惜しい、行くぞ」

「す、すみません」


フンと鼻を鳴らし一人でさっさと屋敷に戻るアイゼルトを、ゼミリアスの手を引いてエイガストは追いかける。ゼミリアスはビックリしたと笑って言える程度だったらしいが、エイガストにはさっきの魔力はちょっと怖かった。

ウォルカはアイゼルトの魔力に耐えられた兵士の三人を指名し、後を追う様に指示を出す。追ってきた三人をアイゼルトが拒否しなかったと言う事は、相当な腕を持っているのだろう。


「アイゼルトさん。彼等の方が俺より頼りになると思うんですけど……」

「そうだろうな。だからお前はあいつ等と一緒にコルトの本体を倒して欲しい」

「本体?」

「あの男は操られてるだけでコルトじゃ無ェ。さっきは繋がってる魔力の糸から引き摺り出してやろうとして失敗した」

「コルトの本体ってどんなです?」

「蜘蛛だ。中々にデカいんだが、かくれんぼが異様に上手くてな。どっかに隠し部屋でもありそうなんだが、屋敷中に糸が張られてるせいで上手く魔力が辿れ無ェ。そこで、エルフェンの目だ」


指名されてキョトンと首を傾げるゼミリアスに、アイゼルトは繰り返して「そうだ」と頷いた。


「魔力を見るのはエルフェンの得意分野だろ。人型のコルトに繋がってる糸を辿って、エイガストと一緒に本体をやっつけてくれ」


再び屋敷の扉の前に立った。

脱出の際に斬り捨てた扉は元に戻っており、中に入るにはもう一度強い力で抉じ開けるしかない。コルトはこちらに対しての油断をやめた。最初の様に鍵を開けたところで、簡単に中には入れないだろう。


「さて、もう一発喰らわすか」

「魔力は温存した方が良いでしょう。ここは僕にお任せを」


兵士の一人がアイゼルトを引き止める。策があるのかと問われれば、ヒューイと名乗った彼は扉の前に黒い球をいくつか並べ、全員が扉から距離を取ってから小さな火の魔法で点火すると、大きな爆発と共に扉を吹き飛ばした。


「爆薬か。やるねェ」


複数の薬剤を特定の割合で混合すると急速な燃焼を引き起こす爆薬。そこに着火する事で大きな爆発を引き起こす。国が厳重に管理し、認可無く調合すれば重たい罰則が一族に科せられる為、一般で目にする機会は滅多にない。エイガストは初めて嗅ぐ硝煙の臭いに心が逸る。

硝煙に身を潜らせながら全員が屋敷へと足を踏み入れると、弾け飛んだ筈の扉が再生して再び固く閉ざされた。同時に暗くなった玄関ホールの燭台に火が点る。

ホールの中央にはコルトが立っていた。


「早速お出ましか。んじゃ、任せた」


アイゼルトの身体強化した瞬発力は、一歩でコルトの懐に潜り込む。コルトは魔力を固めた短剣で、横に薙ぐ剣筋を軽く受け流し、二手に別れて屋敷の奥へ誘導するゼミリアスの行く先へ刃を飛ばす。

兵士の一人ミエールがそれを斬り払い、通路を立ち塞いでコルトの追撃を阻止する。


「行って下さい」

「気をつけて!」


アイゼルトとミエールをその場に残して、エイガストとゼミリアスは二人の兵士と共に奥へと駆ける。


「アイゼルトさん、援護します」

「おー。なら一つ頼みがある。あいつの体は俺の親父でな、出来るだけ傷つたくない」


あのまま振り抜けばコルトの体を切り裂けたアイゼルトが、剣筋を鈍らせた様に見えたのはミエールの気のせいではなかった。

無茶を言うアイゼルトに、ミエールは少し困った様子で答えた。


「……努力します」

「悪ィな」



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