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閑話 贈り物


セイクエット国とシルフィエイン国を繋ぐ往復船。

一節(ひとつき)以上の航海を終えてコゥメイは船を降りる。次の出航は三週間後。それまでの間はのんびりと過ごす予定だが、寮部屋の掃除や食料の買い出しに溜まった手紙の受け取りとその返送と、やらなければいけない事で一週目は潰れるだろう。


所属する商会の寮棟の受付で、預けていた鍵と共にいくつかの手紙と荷物を受け取り、中身の選別と送り主を確認していた時の事。以前世話になったエイガストと言う人から上等な布が贈られてきていた。


「綺麗……」


珊瑚の赤い色を中心に色とりどりの刺繍がなされた可愛らしい模様を、自分で選ばない柄だと思いながらコゥメイは指でなぞる。同梱されていた手紙には、船上での感謝とこれからの無事をコゥメイの母国語であるサディエン語で綴られていた。


部屋の掃除を済ませて外出の準備をする。

エイガストからの贈り物は、細く畳んで腰や頭に巻いたり、広げて肩に羽織る事も出来る。持っている服をクローゼットからベッドに何着も放り出し、しっかりと磨いた鏡の前で試行錯誤を重ね、頭から被って装飾と帽子で固定する事にした。

ただ買い物をするだけだと言うのに、気合を入れすぎただろうか。窓の偽硝子に映る自分の姿を見る度に、服装を気にしている事に気づいて、その浮かれ具合に苦笑する。


上乗な気分のまま近所の市場ではなく繁華街にまで足を伸ばし、気づけばもうすぐ夕暮れの時間。帰宅する前に休憩がてら茶店に立ち寄った。

現在ではどこの国の港街でも定番になっている薔薇茶を注文。コゥメイが幼い頃まで原因不明だった古傷病。その特効薬として使う薔薇(しょうび)の実を、紅茶と混ぜて船乗りたちは愛飲している。コゥメイの父親もこの茶によって救われた者の一人で、船を降りた今でも飲み続けている。

特効薬の開発にはエイガストの父親が協力していたのだと知ったのは、エイガストと別れた後に王から聞かされた。


そして今回はコゥメイ自身が助けられた。いつか出会うその時に彼が困っていたならば、助けになりたいと密かに願う。

ティーカップに注いだ鮮やかな薔薇色の液体。華やかな甘い香りとは裏腹に口の中に広がる酸味は、コゥメイの心情とよく似ていた。


第五章はこちらで終了となります。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回の更新は七月ごろを予定しております。


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