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【第一部完結】青の射撃手≪トクソフィライト≫  作者: (2*8)⁴
一章 青の乙女と紅の将軍
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003

知ってる声に振り返ればダンフェがいた。


「よ。出立かい?」

「はい、明日に」

「なら丁度良い。探索クエストに行かねェか?」


探索場所は次に向かう予定の街から、少し手前にある洞窟。凶暴な獣の目撃情報もなく、探索経験の少ない初心者向けと言われる所。

ダンフェの腕前で行く様な所では無い。

不審な目を向けるエイガストに、ダンフェは少し離れた所に居る三人を指す。


「友人三人で初めての冒険、らしい。で、保護者が必要な訳だ」

「なるほど。俺の性格を利用する作戦ですね」

「おう。お前、面倒見良さそうだしな」


急ぐ旅でもなければ、高級な依頼を受けたい訳でもない。エイガストは詳しい内容を求めた。


「そうこなくっちゃな。じゃ、まずは顔合わせだ」

「言っておきますけど、探索をメインにしてないんで、俺も素人同然ですからね」

「商人やってりゃ、目が肥えてんだろ? 道端の草も売り物にできる。それに魔獣にあれだけ立ち回れるなら平気平気」


待っている三人と自己紹介する。

紺色のローブと三角帽子を被った法使メイジの女性は、ミンティ。短めのタクトを用い、火の魔法が得意だと言う。

革製の鎧を纏い、細身の剣と短剣を携えた剣士の女性は、ミランダ。三人の中で一番歳上でリーダーを務めるのだとか。

武器の代わりに本と腰鞄。軽装の細身の男性は、ライ。特徴的な腕章は魔療使ヒーラーの証。冒険をしたいと言った我儘に、二人が協力してくれたらしい。


洞窟ダンジョンの目的は、マッピングされていない道の開拓。その奥に隠されてるかも知れないお宝!」


力説したのは法使メイジミンティ。

手にしている麻紙の地図には洞窟の経路が記されていた。役場で公開されている情報を写したものらしい。

途中から記されていない道の先を、メンバーの中で一番楽しみにしている模様。


「薬草や獣素材の採集も醍醐味ですよね。明日は大きい鞄を持ってきます」

「あ、重すぎる荷物は体力を奪います。一日中背負える程度に留めて下さい」


見るからに体力の無さそうなライが、重量物を持って足場の悪い洞窟内を歩き続ける事は難しいだろう。そう判断したエイガストが助言を入れる。

了解したライは、もう少し小さい鞄を持っていく事にした。


「明日はよろしくお願いします」

「おう。ま、気楽にな」


この街にある、剣士を育成する施設で習っているミランダと、施設の臨時教員で雇われていたダンフェ。

そこで今回の依頼をされたらしい。


各々の準備の為に一度解散し、翌朝再集合……の前にエイガストとダンフェは、宿の一階にある食堂で顔を合わせていた。

洞窟内のルート確認、洞窟に関する直近の情報、三人の行動の許容など、先導する立場の情報共有の為に。


「役場に問い合わせましたが、毒などの有害な動植物は茸くらいでした。他に気をつけるとすれば、夜目がきく洞窟鼠もぐらあたりでしょうか」

「未踏の道だから何とも言えんが、洞窟の深さはあまり無ェはずだ。天気も気温も、数日は良好状態なんだと。野営も問題ないだろ」

「彼等主体の行動方針を取るんですよね」

「毎回、俺らみたいなお節介がいる訳じゃ無ェからな。彼奴あいつらだけで旅ができる様、ある程度やらせてやりてェ」


今回、報酬らしい報酬は無い。

洞窟の採集品を全員で分けてしまえば、宿に一泊できるかどうか。

その上で素人の教育と世話を含めて引き受ける者は、余程の物好きかお人好しなのだろう。


「よろしくな。先・輩」

「大先輩がなに言ってるんですか」


そんな軽口を言い合ってる内に料理がテーブルに並び、互いに奪い合うような食事に興じた。




現地付近までは馬で移動する。

街を繋ぐ連絡馬車でも良かったが、冒険感を出したいと言うミンティの希望により、貸し馬に乗る事になった。酪農が盛んな街で育った三人は、広い放牧地を管理する為に乗馬は得意だと言う。

順調に進み、馬で入れない所からは徒歩で向かう。馬は放置していれば勝手に帰る様に訓練されているらしく、どこで乗り捨てても良い。

踏み固められた道を辿って傾斜面を降りていき、林を抜けると地下へと続く洞穴が開いていた。誰かが設置したままの縄梯子なわばしごが穴の奥へと垂れ下がっている。


洞窟の中は薄暗い。ランタンを出して周囲を照らす。

道は程々に狭く、横に並べる広さは三人分もなかった。

先頭にミランダ、すぐ後ろにエイガスト。続いてライ、ミンティが並び、最後にダンフェが列をなして進む。地図係はライが担当している。


道中は何も問題なく進んだ。

小さな亀裂から光が差し込む岩肌に生えた苔は、抽出すれば傷薬になるので採取した。

天井から滴る雫の下に、受け皿を置くエイガストにミンティが何をしているのか尋ねると、翼手鼠(こうもり)の体液だったら錬金学者に売れると答えた。帰り道で回収する頃には、ある程度溜まっているだろう。

開けた空間に出たそこは明らかに整地されていて、以前探索に来た者達の形跡が残っている。今夜の野営場所に丁度良い。

洞窟の奥に光るものがあり、恐る恐る近づけば斑に光る猛毒茸。毒薬の原材料になるが、三人は要らないと断った。エイガストは採取した。





未踏の道の果て。洞窟の終わり。行き止まりに辿り着く。

円環状に開けていて茜色に変わり始めた空が見える。崩れた柱や複雑に紋様が彫られた石張りの床。中心には台座が置かれていた。

各々が気になる場所を調べながら会話する。


「これって、能力変換の紋様……?」

「あ。確かに似ています」


足元の紋様に反応したのはミンティとライ。

魔法を使うだけなら道具は要らず、能力変換を付与された道具を介すことで炎や風を起こすことができる。当然ミンティの(タクト)にも付与されている。

能力変換を付与した道具はどこでも買える代物なので、わざわざ洞窟に潜ってまで必要とする程、希少なものでもない。つまり、ハズレの道だった。


「これ何色だっけ? あたしのと違うから、赤属性じゃないみたい」

「僕の黄属性とも違いますので、青属性のようですね」


ミンティとライが会話をしている中、エイガストだけは台座の前に立っていた。

青色の長い髪の女性が、こちらに背を向けて台座に腰をかけている。


「こんにちは」

「ひゃッ?!」


肩を震わせて驚いた女性が振り向く。

想像以上に驚かれ、エイガストも目を丸くする。

互いに言葉を失くし、瞬きを繰り返す。


「どうしました?」

「いえ、こちらの方を驚かせてしまって……」

「?」


ライの問いかけに、エイガストが台座の女性を指すが、ライは首を傾げるばかりで。


(わたくし)が見えるのですか?」

「へ?」


彼女の問いかけにエイガストは困惑を隠せなかった。その様子に皆が集まってくる。

見えませんかと聞くエイガストに全員が台座を見るけれど、誰も女性の存在を確認する事が出来なかった。


「あ、すごい法使(メイジ)なら姿を消せるって聞いたことあるよ」

「そのすごい法使(メイジ)が、こんなところで私たちを驚かすの?」

「考えられませんねェ」

「お前、もしかしてさっきの毒茸に……」

「取り扱いはしっかり守りましたよ」


ダンフェの冗談を全力で否定する。

そんなやりとりを、青い髪の女性が笑って聞いていた。


「そちら、空の魔晶石ですね。宜しければ"青"を授けましょうか」


女性がエイガストの弓についている飾りの石を見て言った。

返答に困って固まっているエイガストの袖を引いて、ミンティが問う。


「何か言ってるの?」

「青を魔晶石にって……」

「良いじゃん。能力変換付与してもらえば。便利よ」

(あくい)らしきものは感じませんし、試してみても良いかもしれません」


ミンティとライは賛同する。もちろんエイガストの判断に任せると付け加えて。

弓と青い女性を何度か見比べて、台座に置くことを決意。台座に向かうエイガストとは反対に、全員が出入口の方まで退避する。

不服な視線を向けるエイガストに、皆は親指を立てて返事をした。


台座に座る女性に弓を渡す。

ぼんやりと足元の紋様が青く光り、女性に集中する。美しいと思える青い髪が、青い光でより一層深く輝く。

彼女が手にした弓に接吻(くちづけ)れば、青い光は弓へと移る。

ゆっくりと光が収束し、エイガストに弓を返した女性は、微笑んだ後、瞬きと同時に姿を消した。

弓に見た目の変化は見られない。

まじまじと弓を見つめるエイガストは、矢を射てみることにした。魔力を通して形を成す。いつもの白い魔法の矢。


「さっきの青色の光を想像してみて」


目を閉じて、ミンティの助言にエイガストが思い浮かべたのは、台座に座っていた女性の、真っ青な髪の色。

目を開けてみれば、白かった魔法の矢が青色に染まっていた。

キラリと岩陰に反射する光を見つけ、矢を放ってみる。落ちてきたのは小さな晶石。

今回の冒険で得た、小さな宝物だった。



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