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【第一部完結】青の射撃手≪トクソフィライト≫  作者: (2*8)⁴
一章 青の乙女と紅の将軍
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002

「乾杯!」


食堂にてダンフェとエイガストがグラスを交わした。

「この街の食事で迷ったらここ」と豪語するダンフェに注文を任せたものが並べられる。

主食はパンとチーズ。土豆(ラッカセイ)と肉団子と赤茄子のソースを使ったものが多い。

新鮮な乳を使ったスープを見て、酪農地を通ってこの街に来たことを思い返す。

いくつか味を見たエイガストは、鞄から小さな袋を取り出し、取り皿の隅に小さく盛る。


「お、塩か。いいな! 俺にもくれ」

「良いですよ。お安くしておきます」

「金取んのかよ」

「これでも商人ですから。でもまだ売人手続きしてませんので、今回は特別ですよ」


冗談を言いながらエイガストが盛った塩。

それを付けた肉団子を酒で流し込んだダンフェから、おっさんみたいなため息が出た。

馬車を押し続けた重労働の体には、強い塩気が身に染みる。


「ダンフェさんは、ずっと傭兵を?」

「まァな。お前くらいン歳には、兵士になりたくて何度か試験受けたりしたけどよ。ダメダメ、ありゃちょっと腕に自信がある程度じゃ無理だ」

「じゅうぶん強かったと思うんですけど……」

「世辞使っても何も出ねぇっての」


昼間のダンフェの戦いぶりを思い出して、エイガストは言った。

率直すぎる言葉に決まりが悪いダンフェは話題を変える。


「で、お前は? 商売人にしちゃずいぶん若いな」

「父が商人なんです。東方の街を拠点に色々学んで、二年ほど前から行商を始めました。傭兵業は移動ついでの兼業です」


そこからは互いに行った街の事を話した。

西のとある街では強さを競う盛大な祭りがあり、腕に自信のある者が種別問わずに集まるとか。集まった面子を見てダンフェは参加を見送った話。

北東の港町は魚を生で食べる習慣があるとか。意外と美味しく頂けたと言うエイガストの話。

十年に一度だけ浮き上がる南の島が来年なので、すでに色んな奴が準備しているとか。観光にしろ探索にしろ、人と金と物が大きく動く話に、エイガストは興味をそそられた。


「けど、その南の海では最近まで中型の魔獣が暴れていたらしいぞ」

「良かった、もう退治されてるんですね」

「ああ。なんでもスフィンウェル国の将軍が単騎でやったんだと」

「海中の、魔獣を?」


海中を強調して聞き返すエイガストにダンフェは肯定する。

今エイガストが訪れているこの国は、世界最大の軍事国家スフィンウェル。要請があれば外国にも軍事力を貸しているという。

空を飛ぶとか水中でも呼吸ができる魔法がある事は知っているが、陸の上とは違う戦いを強いられて尚且つ、一人で倒す将軍の強さにエイガストはおののいた。


「核の位置が分かり易い所だったってのもあるかもな」


ダンフェが眉間をトントンと叩いてみせる。

魔獣の核は頭部にある事が多く、まず狙う所ではある。

しかし稀ではあるが、頭部に持たない魔獣もいる。


「昼間のみたいに上顎は厄介だったな。頭部からは微妙に外れてやがるし、外からは見えねえ。視認できた時は喰われる直前だ」

「頭部を丸ごと破壊する魔法も、連発は難しいですしね」


法使(メイジ)の強さは自身の魔力や道具に左右されがちで、皆が皆、強い魔法を放てる訳ではない。

昼間の法使(メイジ)が使った風の魔法も、魔獣の体表全体を覆って切りつけるものだった。核が表面に出ている魔獣相手には有効な手段ではある。

だからこそ見えてる位置に核があると、狙う場所が定められて戦いやすい。


「魔獣って、どうして現れるんでしょうね」

「さあ? 考えたことも無え」


現れたら倒すだけだしな、とダンフェ。

魔獣は唐突に現れる。子連れどころか、巣の存在すら確認されていない。

時折残される魔獣の爪や牙、それは高値で取引されている。魔獣を倒す事は危険ではあるが良い収入にもなっていて、生業にしている人も少なからずいる。

何故、と考えてしまうのはエイガストが直接の被害も、魔獣退治を生業にもしていないからだろうか。


会話も一段落し、テーブルに並んだ皿が空になったのでエイガストは立ち上がる。


「では、先にあがりますね」

「おう。この街にはどのくらい居るんだ?」

「そうですね……六、七日くらいでしょうか」


市場調査や取引などに掛ける日数を指折り数えて、エイガストは答えた。

とはいえ、ダンフェも同じこの二階の宿を利用し、日雇い探索クエストを受けるらしい。

しばらくは顔を合わせるだろう。





翌朝。

エイガストは外にある井戸を借りて顔と体を拭き、ついでに洗濯をする。少なくなった石鹸を見て、そろそろ新しく作らなければと思う。

フード付きのシャツとパンツ。短剣を腰に携えた軽装にし、弓籠手と弓は鞄の中。

見た目の大きさよりもずっと多くの物をしまえる上に、内容量よりも重さが軽減されている魔法の鞄は、旅立ちの日に父がくれた代物。価格を知ったのはしばらく経ってからで、かなり奮発した物をもらってしまったと驚愕すると共に、深い感謝をしていた。


朝食をとって、商店街を経由して街役場に向かう。

売買をするための許可証の発行と、公的機関で素材の鑑定書を発行してもらうために。

鑑定してもらう品は、鉱石や獣の爪と数種類の薬草。

この街では薬草以外の品は役場が管轄らしく、買取価格を確認して換金する。

行商のエイガストは五日間の短期売買許可証を発行し、薬草の鑑定書と共に薬品を扱う商会への紹介状を手に役場を後にした。




「うーん。素材は良いんですけどねェ」


医薬品の販売を中心とした商会、ユーアン。

この街で調剤された薬品を精査し、市場に卸す役割を担っている。

エイガストが持ち込んだ薬草は、調剤する前の素材でしかないので値段は期待できるものではない。


「ですので、製薬所をお借りして内用液を作らせて頂きたいとお願いに参りました。もし人手が足りていないのでしたら、滞在中は雇って頂きたいとも」

「ほお、調剤の技術がお有りですか」

「はい。東方の街で少し経験があります」

「わかりました。少々お待ち下さい」


ユーアン商会の抱える数件の製薬所へ連絡。すると丁度、人手を欲しがっている製薬所があり、さっそく案内される。

到着するなり「腕を見せてくれ」と奥へ連れて行かれ、息つく間も無く調剤作業に入った。

エイガストが手持ちの薬草から作ったのは、どの街の薬屋でも見かける一般的な風邪の内用液。

手順、分量、手際、薬液の色。自分の腕を試される時はいつでも緊張する。薬を扱うのだから当然ではあるのだけれど。

よしの結果に胸を撫で下ろし、薬は適正価格で買い取られ、滞在中の朝のみ雇ってもらえる事となった。



街には商店通りと呼ばれる店舗が並ぶ通りの他に、各地から来た行商人が集まる露天通りと通称()ばれる広場がある。各々が地面に敷き布を広げ、値札を付けた販売品を並べている。

そんな中に交じってエイガストも商品を売っている。

今回扱っている物は香辛料や酒漬けの果実。染糸と、それに使用された染料。

客がいない手持ち無沙汰の合間には、染糸を使用して織紐を編んで商品を追加している。要望があれば好みの模様で編み上げることもある。


「綺麗な色ね。これはなんていうの?」

「こちらはオーバクという木の粉末です。こちらを使って染めた糸が、この黄色です」


興味を持った客には説明を。会話の中から靴紐の色変えが流行っていると知り、この日は織紐よりも靴に合わせた組紐の方を頼まれることが男女問わず多かった。

翌日からは組紐を編む量を増やすことにする。


「なァ、これ買い取ってくれないか?」


護衛費用を物品にて支払う雇用主がいる。

多くの傭兵は役場で換金するのが定番だが、場合によっては高く買ってもらえる露天商に買取を頼むことがある。

声をかけてきた戦士がエイガストに出してきたものは、大きな獣の角と皮。珍しい訳でも高級なものでもない。皮に至っては未加工だ。それでも役場の買取価格より少し高いが相場内の金額を提示すると、男は少し悩んだ後にエイガストに売ることを決めた。


「どの国の硬貨で返金しましょうか? 今日のレートですと……」

「それじゃあ……」


国境に近い街の露店では複数の硬貨で取引する店が多い。エイガストもそれに(なら)っている。

戦士はこれから行く先の国の硬貨を希望し、エイガストはそれで支払うのだった。




朝は製薬所で調剤、昼は露店通りで販売。

そんな生活を数日過ごし、そろそろ次の街へと行こうかと、露店通りからの帰り途中に待合広場に立ち寄り、護衛や輸送の依頼を漁っていると声をかけられた。

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