閑話 緑の転々茸
熱病に冒された人数分の薬を作り終え、気づけば夜中も良い時間だった。
使用した器具を川で洗う、人間のエイガストと山猫人のアウヤウ。調剤法で話し合う間に二人は随分と仲良くなっていた。
洗った器具の入った桶を抱えて調剤作業をする小屋へ戻り、全開にしていた全ての窓を閉じる。少しは薬臭さが薄れただろうか。
乾いた布で器具を拭きながら棚に戻す。
作業台の上に何もなくなれば、終わった事を実感する。
「アウヤウさん。アレ、気になりません?」
「なう」
片付けたからこそ余計に目立つ。部屋の隅に無造作に置かれた、時々動く麻袋。
パール曰く、綺麗な緑色の転々茸だと言う。
エイガストが知る限りでは転々茸の傘の色は紫か青で、それはアウヤウも同じだった。
「俺、いくつか分析薬持ってますけど」
エイガストがそう言うと、アウヤウは器具を両手に持って企むような笑みを浮かべた。
「やぅ?」
「やりますか」
先ず転々茸を、傘と柄と足に分ける。
更にそれを、生と加熱と粉末に分ける。
アウヤウの使う、小さなものなら直ぐに乾燥させる事が出来る魔法が便利だと思って、どうやってるのか聞いた。黄と赤の属性が必要と言われ、今のエイガストには無理な事が判明しただけだった。
転々茸を溶液に浸したり、溶かしたり、煮込んだり、混ぜたり。
徹夜で眠気を感じながらも作業がやめられず、空は明るくなりつつあった。
分析薬に反応したのは二種類。火を通した傘の部分が薄い青色。赤い溶液に溶かした足が薄い黄色。
それぞれの効果を一覧から導く。
眠りと麻痺。色の薄さからどちらも微弱の効果を示している。
「……ん? 加熱?」
猫の耳を何度か動かした後、アウヤウは火を止めて煮ている転々茸の鍋に蓋をした。
窓を開けるエイガストの後ろで、厚手の布を敷くアウヤウ。
布の上で横になるアウヤウが尻尾で招き、エイガストは隣に寝転ぶ。
朦朧としていたのは徹夜の為か転々茸の効果か。
気化した毒の効果が薄れるまでの数時間、二人は眠りへと落ちていった。
アウヤウから不要と押し付けられた緑の転々茸の毒液は、後日エイガストの手によって安眠用アロマと痛み止め軟膏に変貌する。