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第89話 魔王、彼の者と対峙する

「ぐわーッ!」


重力球が直撃し、カラメルと名乗った魔族が吹き飛ばされた。

暗黒魔法を扱う恐るべき魔法使いであったが、重力制御魔法の前では無力。

全ての魔法攻撃を防がれ、逆に反撃を貰ってしまったのだ。

一撃である。


「ぐわっはっはっはっ! 木っ端魔族めが!」


リリアは悪役フェイスで高笑いをする。

その間にもサイフォンと名乗った魔族からの魔法攻撃を、重力障壁でいなす。

攻撃がまるで通らず、サイフォンの顔に焦りが浮かぶ。


「バケモノか!」

「否、魔王である」


突き出した手から魔法陣が砲身めいて伸びる。

その数5枚。

放たれた重力球は魔法陣をくぐる度、速度を増す。


躱しきれない!

そう悟ったサイフォンは守りの魔法を展開するが、


「無駄じゃ」


重力球は守りの魔法を呆気なく破壊し、サイフォンに直撃。

錐揉み回転して吹き飛ばされたサイフォンは、数度地面をバウンドして、動かなくなる。


「魔王八卦衆を容易く2人も倒すだと……」


グランデと名乗った魔族が、一歩後退る。

残る魔王八卦衆は3人。

とてもイーブンとは言えないほどの戦力差がそこにあった。

だが、それはリリアがいるからこそ。

こんなところで無駄な時間を浪費するわけにはいかない。

魔王を名乗る者が逃げないとは限らないのだ。


「姫様、ここは俺たちで十分だ」


リリアの横から、レイダーがずいと前に出る。


「じゃあ……俺もカッコつけようかなァ。ニシシ……俺たちだけで十分だぜェ」


薄笑いを浮かべるアマンも、レイダーと同じく前へ踏み出る。

リリアは満足そうに頷いた。


「よかろう。露払い、頼んだぞ」


リリアの足元に、影よりもなお暗い漆黒が生まれた。

魔王八卦衆が何かアクションを起こすよりも早く、漆黒がリリアを飲み込んだ。


空間跳躍。


向かう先は言わずもがな。

魔王八卦衆と魔王軍がその場に残された。


「どうした? 魔王のもとに向かわなくていいのか?」


レイダーの言葉に、魔王八卦衆は体を強張らせた。

あんな暴風雨を自分たちで止められるのか?

答えは自ずと見えてくる。


「所詮はその程度か」


レイダーは懐から包みを取り出した。

中には乾燥薬草の束。

銘柄はナナツボシ。

1本咥え、火をつける。


「貴様らなど、姫様の手を煩わせるまででもない」


白煙が1つ、空へと昇っていく。


「なるほど。見覚えがある者もいるな」


レイダーは言う。

ショットと名乗る頭巾を被った正体不明がいた。

ブラウニの森でレイダーを挑発した謎の男だ。


「貴公と再び相まみえることになるとはな」

「バカを言え。オーガをけしかけておいて、今さら何を言いやがる」


乾燥薬草に含まれる成分により、レイダーの感覚が研ぎ澄まされていく。

残る3人の魔王八卦衆の、不穏な動きを見落としはしない。

三下とはいえ、魔族。

シュトレンもそうだったが、油断はできない相手である。


とはいえ、


「2対3か。三下相手なら余裕だな。新旧魔王軍の力の差、見せてやろう」


肩を突かれた。

レイダーは振り向く。

アマンが後ろ頭を掻いていた。


「レイダーさんや、ちょっといィかい?」

「なんだ?」


嫌な予感。


「さっき変身したばっかりだからサ。次の変身にはもうちょうい時間いるんよ」

「は?」

「俺、戦いはからっきしだから、よろしく頼むねェ」

「は?」


じゃり……と小石を踏む音。

レイダーは悪びれもせずに言うアマンから、視線を前へと向けなおす。

魔王八卦衆は各々獲物を構え、レイダーへとにじり寄る。


「マジかよ……」



◆◆◆



「ぐわーッ!」


メージと名乗る魔族は果敢に応戦するも、リリアに敵うはずがなかった。

必殺の蛇腹剣も、無残に破壊されてしまった。

クレーターがいくつもある魔王軍本陣にて、メージは地べたを這いつくばり、ゴホゴホとせき込む。


いったいこれはどういうことか。


空間跳躍により、魔王軍本陣に急襲をかけたリリア。

反撃の態勢が取られるよりも早く、ペニエの村でも放った重力制御魔法『隕石落とし(メテオストライク)』で、本陣を消し飛ばしたのだ。

後詰として控えていたオーガやダークエルフからなる部隊も、圧倒的暴力の前では無意味であった。

無慈悲である。


「まったく。おぬしらは勢いだけかや? もっと気合いを入れぬか」


重力球を手で弄びながら、リリアは尋ねる。

実力としては魔王四天王にすら及ばない。

精々が前線指揮官クラスの戦闘能力であった。


「な、なんて奴だ……小娘のくせに。シャレにならねぇ……」


息も絶え絶えなメージは、力を振り絞ってなんとか起き上がる。

彼の魔王陛下への忠誠が、最後の力を与えてくれたのだ。

そして、息を呑んだ。

ワンインチ距離にリリアがいたからだ。


「ワシを小娘と呼ぶとはいい度胸じゃな」

「ひっ!」


リリアの重力球を纏ったパンチが、メージを再び吹き飛ばした。

顎を捉えた重い打撃音。

メージは錐揉み回転しながら周囲の調度品を巻き込み、破壊し、陣幕を吹き飛ばして転がる。

そして、ぴくりとも動かなくなった。


あえて残しておいた陣幕だ。

その向こうにいる者と会話をするために、あえて隕石落とし(メテオストライク)の範囲から外した。

リリアはまっすぐ歩いていく。

陣幕に手をかけると、一思いに引っ張った。

彼女の瞳に映り込んだのは、黄金色の鎧に身を包んだ偉丈夫。


魔王。


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