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第88話 魔王、撃滅する

潰走し、逃げる兵士は自分の目を疑った。

戦場で鼻歌混じりの少女とすれ違ったのだ。

恐怖のあまり幻覚が見えてしまったのか。

それとも――



美しい金色の髪が風に靡く。

リリアは懐かしむように、独り言ちる。


「200年前……こういう風にゴーレム軍団を使えば、少しはマシな結果だったのかのぅ」


今さら、答えなどないというのに。

リリアは腕組仁王立ちで、ゴーレム軍団の前に立ちはだかる。

あくまで辺境伯軍と交戦するよう命じられているのか、積極的にリリアを襲おうとはしない。

たまに光線の流れ弾が飛んでくるが、それらはリリアが展開した重力障壁が自動で防いでいる。


「さて。ワシのゴーレムには生半可な魔法は効かぬ。ほら、バリアーってかっちょいいじゃろ?」


レイダーとアマンは特に同意も否定もしない。

というかゴーレムに興味がない。

レイダーにいたっては咥え乾燥薬草すらしている始末だ。

リリアは構わず話を続ける。


「というわけで、圧倒的暴力で沈黙させる。オーケー?」


何かあると暴力で黙らせてきたリリアのことだ、あらためて驚く2人ではない。

多分そうなるだろうな、とむしろ予想通りである。

ただ、どれだけの暴力で黙らせるのかまでは、レイダーもアマンも想像していなかった。


「おぬしら、もう少し下がっておらぬと余波で怪我するぞ」


リリアの手の内に膨大な魔力が集まって来る。

普段、重力球を放つ時とは比べ物にならないほどの量だ!

口の端から、滅紫色をした魔力の燐光が漏れる。

生み出したのは漆黒の球体。

光すら飲み込んでしまうほどの濃密な重力球。

厚みを感じさせない魔法陣が24枚、まるで砲身めいてゴーレムたちへと真っすぐ伸びる!


「さぁ、受けてみよ! ワシが放つ電光石火の一撃を! 無残に潰れるがよい! ワシのコレクションたちよ! ワシが魔王として成し遂げた暁には――」


その時浮かべたのは、破壊の喜びがそれとも淋しさか。


「また作ってやるからの」


稲光めいた光が走った。


重力衝撃砲メガバズーカランチャー!」


重力球によって生み出されたエネルギーが、超重力渦巻となって放出!

射線上にある全てのものを分解、破壊していく。


恐るべき威力の前にゴーレムの装甲などあってないようなものだ。

直撃は言わずもがな、付近のゴーレムもエネルギーの余波によって次々と崩れていく。

そのままリリアは射線を右から左へ、戦場全てを薙ぎ払うように放つ。

圧倒的火力をもって、文字通り数千ものゴーレムを一掃していく。


「ま。こんなものかのぅ」


24枚の魔法陣が収縮、魔力の残滓となって消え失せた。

リリアは背伸びして周囲を見渡した。


空気が焼け爆ぜるような音がする。

それに合わせて、不吉な光がバチバチと虚空で明滅する。

草木も石ころも何もない、本物の更地が出来上がっていた。


ゴーレムは全滅。

今、ビスコッティ平野に来た者がいたならば、ここが戦場であることすら気が付かないだろう。

リリアは満足げにうなずき、そしてジト目で振り返る。


「おぬしら、仮にも魔王軍じゃろ。そんな様子では情けないのぅ」


レイダーは若干身を引き、しかし咥えていた乾燥薬草が地面に落ちていることから、驚きようが窺える。

アマンは頬を引きつらせながら尻餅をついていた。

魔法という範疇に納めていいのかわからない、圧倒的破壊の限りを見せつけられたのだ。

ドン引きするのも仕方が無かろう。


「さすがに……世界の終わりを見たかと思った……」


レイダーは水溜まりに落ちている乾燥薬草を見ながら、心の声を漏らすかのように言った。

懐から包みを取り出そうとして……止めた。

マフラーめいて首に巻いたボロ布の先が、超自然的な光を発する。


「ニシシ……やっぱり、魔王ってのはスゴイねェ。でも、そんな魔法が使えて、なんで大戦には負けたんだい?」


とても失礼な質問をするのはアマンの性格故か。

訊きながら、アマンはずっと着ていたポンチョを脱ぎ捨てた。

胸には『満月な』と威嚇めいたタトゥー。

リリアはちょびっとだけ鼻の頭に皺を作る。


「嫌な記憶を思い出させるではない。勇者は今の魔法を、剣で叩き切ったんじゃぞ」


自分がやったことより、もっとすごいことをする者がいる。

いや、いた。

ただその事実に、リリアは不服顔をしてしまう。


「さてさて。おぬしらに重力球を叩き切るような真似ができるかのぅ。ワシはとてつもなく興味があるぞ」


レイダーやアマンに向けての言葉ではない。

いつの間にか、リリアたちの前には5人の魔族が佇んでいた。

魔王八卦衆。


「グランデ」「ショット」「サイフォン」「カラメル」「ブッセ」


自己紹介するとは、なんと礼儀正しい魔族たちか。

ヌガーやシュトレンとは一線を画する力がある。

力ある者ならば、ほんのわずかな間に察することができるだろう。


「カカッ! 自ら名乗るとは、ちゃんとわきまえた者たちもおるではないか!」


あからさまに敵である相手に向かって、リリアは快活に笑った。


「ではワシも名乗るとしよう。ワシは魔王、魔王リリアである。おぬしら、木っ端魔族のくせに頭が高くはないかや?」


内ゲバだというのに、リリアは実に楽しそうだ。


「偽物に頭が高いと言われたくはない」


グランデと名乗った軽鎧の魔族が不服そうに言う。

彼はすでに剣を抜いている。

びっしりとルーン文字が掘られた魔剣だ。

リリアは実に尊大な態度で言い放つ。


「ならば見せてみよ。木っ端魔族ではないという証を。そして、ワシも見せてやろう。魔王という言葉が、ワシの為にある言葉だという証を」


その言葉が戦いの合図となったのか――

魔王八卦衆たちは一斉に飛び掛かった。


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