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第87話 魔王、乱入する

灰色の空。

降り注ぐ雨。

炎は消えたが、未だ燻る煙。

先を尖らせた丸太で組んだバリケードは無残にも倒れ、折り重なるようにして兵士が横たわる。


新王国辺境、ビスコッティ平原を覆うのは草木などではなく鈍色。

そして、ウィルオーウィスプめいた赤い光。

ゴーレムの行軍は地平の彼方まで続く。


戦場を見下ろせる小高い丘に、その少女は仁王立ちで佇んでいた。

その謎めいた姿は、戦場でやけに浮いている。

フードマントを羽織り、金髪をその中に押し込んだ小柄な少女だ。

その顔には怪しげなキツネのお面。

なんと謎めいた存在であろうか。


「むぅ。人のコレクションを雑に扱いよって」


キツネ面を付けた謎の少女がぎりぎりと歯ぎしりする。

声には怒りの感情がありありと現れていた。


「どこの誰かは知らぬが許さん」


謎の少女は見下ろすばかりで、何も動こうとはしない。

辺境伯軍が潰走する様を黙って見続ける。

動きたくても、動けないのだ。

はたしてフードマントを羽織ったキツネ面の少女は、いったい何者なのか⁉


「姫様、ニュースのやつらは黙らせてきたぜ……ニシシ。これで俺の仕事は終わりかなァ?」


ボロ布めいたフードマントを着た男が、SCSの受信機を地面に放り投げた。

先ほどまでカヌレに映像を届けていた、ニュース番組の機材一式だ。

人外の、大きな爪痕が残っている。

これで、戦場でどれだけ暴れようが、顔を知られることはない。


「まったく。通信兵はわかるが、なぜ民間のニュース番組がこんなところに来る? 理解できんな」


サバイバルカラーのフードマントを目深にかぶった男が、肩をすくめた。

怪しげな3人組だ。


「ご苦労。これで面を外すことができるな」


少女はフードを上げると、面の紐をほどいた。


おぉ……見よ!

キツネ面の下から出てきたその御顔を。


なんとキツネ面を被り、戦場の端に佇んでいた謎の少女はリリアだったのである!

男たちもそれぞれフードマントを脱ぎ捨てた。

レイダーと穴倉のアマンである。

つまり、リリア率いる魔王軍である!


「さて状況を整理しようと思うんじゃが」


リリアは落ちていたテキトーな木の枝で描いてみせた。

大きな丸が2つと小さな丸。

吹き出しで『偽物』と『愚かな人間』と『ワシら』と書き足す。

各勢力の位置を、簡単に図で表したらしい。


「魔王を自称する不届き者が、魔王八卦衆なる素人集団を率いてイキっておる」


開口一番そう言い放つ。


「姫様、お言葉が汚いぞ」

「いやァ、全然普通の言葉遣い。な、姫様」


レイダーの咎めるような視線と、アマンの道化めいた視線がぶつかり合う。

2人の性格が如実に表れている。


「どうでもよい。とにかく、不届き者がワシのコレクションを私兵めいて使っておる。見るが良い! ワシの傑作ゴーレムたち(マシンナーズ)が、全てデストロイモードになっておるではないか!」


リリアはびしっ!と指を突き付けるが、正直配下の2人からしたら些細な問題だ。

人がゴーレムを相手取るのは大変だろう。

しかし、自分たちは魔族である。

ビームを撃ってこようが大した問題では――


「おぬしら、あのゴーレムの造り手が誰かを忘れておらぬか?」


呆れたようなリリアの言葉に、レイダーとアマンはピクリと眉を動かした。

戦場で悲鳴が上がった。

半人半馬ゴーレムが、巨大なランスめいた武器をもって戦場を駆けていた。

ゴーレムなのかと首をひねる代物である。


「たしかに。魔王が作ったゴーレムと言われたら……」

「なかなか厄介に思えるねェ」

「ちなみに、あのゴーレムたちが撃っているビームは、昔注入したワシの魔力なんでよろしく」


ゴーレムたちが光線を斉射。

果敢に応戦していた辺境伯軍の殿(しんがり)が爆発四散する。

すでに戦場となったビスコッティ平野の9割近くが、ゴーレムによって支配されていた。


「姫様、どこがどうよろしくなのでしょうか?」

「ニシシ……八卦衆なんかよりヤバいねェ、それ」


リリアは決断的に無視をした。

代わりにゴーレムのスペックを実に楽しそうに話し始める。


「遠距離はビーム! 機動力はスレイプニルタイプで補う! 各機の出力はトロール並で、魔力炉を並列稼働じゃ。しかも、簡単な魔法防御機構も備わっておるんじゃ! 全機じゃぞ、全機! すごいじゃろ!」


レイダーは天を仰ぎ、アマンは薄ら笑いをしながら「スゴイスゴイ」と手を叩いた。

まったく興味がない様子である。

リリアは少々納得がいかないといったように、眉間にしわを寄せる。

しかし、すぐに自分がこんな辺境へ、遠路はるばるやって来た理由を思い出す。


「話を戻すが、とにかくワシらの目標はただ1つ。自称魔王をワシがぶん殴る。オーケー?」


レイダーとアマンは頷いて返す。

いろいろと言いたいことはあるが全て飲み込んだ。


「まずは全てのゴーレムを土くれに還す。それから魔王八卦衆なるコバエどもを叩く。そして――」


リリアは指を差した。

重厚なゴーレムの戦線、その向こうに陣らしき箇所がある。

そこが自称魔王たちのいる場所に違いない。


「さて。自称魔王に、『魔王』を名乗ることがどういうことなのか。その身をもって知らしめるぞ」


たった3人の魔王軍は各々笑い、戦場の中心へと向かって進み始めた。

先に記しておく。

彼らは新王国の危機を救いに来た勇者などではない。

限りなく個人的な理由でやって来た魔族である。

彼らは、とても英雄譚(ヒロイックサーガ)では使えないような、悪役めいた笑みを浮かべていた。


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