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第86話 魔王、戦争に突入す

ガナッシュ新王国王都トルテ。

城の地下にその部屋はあった。


ぼぅぼぅぼぅと、次々に蝋燭の明かりがついていく。

部屋の中心には巨大な円卓。

そして、その中央には巨大な水晶スクリーン。

街にあるSCS(精霊通信器)の受信機とは、比べ物にならないほどの大きさだ。


ここは秘密作戦指令室。

新王国にとって無視することができない有事の際に使用される、秘密の部屋である。

そこにいるのは新王国の大貴族が8名。

しかし、王はいない。

これこそガナッシュ新王国の実状である。

王は君臨すれども、(まつりごと)は貴族たちが決める。

おお、知られてはいけない傀儡政治の一端なのである。


「全く何事だ。緊急招集など、ここ数年と起こったことがないぞ」

「この秘密作戦指令室を使うほどのことかね?」


大貴族たちは口々に文句を言う。

皆、なぜ呼ばれたのか知らされておらず、機嫌が悪い。


「現在、魔境との国境線――ビスコッティ平野にてガトー辺境伯軍が交戦中です」


受信機を操作するオペレーターめいた兵士が、無感情に答える。


「交戦中? なにとだ?」


眉をひそめて大貴族が尋ねるも、答えが返ってくるより先に、


「映像、出ます!」


大型SCS(精霊通信器)に光が灯った。

一瞬の砂嵐。

画面いっぱいに映るのは、鈍色の土人形(ゴーレム)だ!


「なんだこれはッ⁉」




ゴーレム。

魔力で動く土人形。


地平を埋め尽くさんばかりの、何千という数のゴーレムが一糸乱れぬ動きで前進し、蹂躙する。

バリケードがあろうが、人がいようが、塹壕があろうがただ踏み潰すだけ。

勇猛果敢な辺境伯軍がまるで相手にならない。

ゴーレムの額には赤いクリスタル。

それがきらりと光った。


超自然的な光線が放たれ、設置されたバリスタを焼いた。

バリスタは爆発四散。

付近の兵士が爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。

一体のゴーレムの攻撃を皮切りに、他のゴーレムの額も赤く輝く。

何千体もまとめての斉射だ!


「突撃! 突撃だ!」


馬に乗った指揮官らしき騎士が、剣を振り回していたが――光線が着弾。

彼の隊は丸ごと蒸発。

地面に穿たれる大穴!

ガトー辺境伯軍は、正体不明の武装勢力と開戦から1時間も経たずして、戦線崩壊した。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


前線の兵士たちが逃げ始める。

恐怖に負けてしまったのだ。


「こ、こんなのに勝てるわけないだろ……」


SCS(精霊通信器)の大型送信機を操作する精霊使いが、声を震わした。

現実とは思えない地獄めいた光景に、汗が止まらなくなる。

恐ろしさのあまり、発狂寸前だ。


「おれは逃げるぞ!」


通信兵である彼は、身を潜めていた荷馬車の荷台から、転がり出るように飛び出した。


――そこに影が落ちた!


振り返る精霊使い。

巨大な拳を振り上げる大型のゴーレム!


「うわああああああああッ!」



BTOOOOM!!!



悲鳴が響き、映像が途切れる。

大貴族たちは言葉を無くして、ただ砂嵐を映すSCS(精霊通信器)を見ていた。


「……なんだ? 辺境伯領で、いったい何が起こっているんだ?」


答えられる者は、この場に誰もいない。

しかし、これから起こる終末めいた未来を想像するのは、容易かった。



◆◆◆



『ガトー辺境伯領にて、武装勢力との全面衝突が確認されました。敵戦力は……え? ちょっと……なによこの映像』


カフェテラスの屋外席から、通りを挟んでSCS(精霊通信器)のニュースが見れる。

普段なら街行く人々はチラ見をする程度だが、今回ばかりは足を止めて眺める人が多い。


「えらいことになってるわね……」


紅茶を飲みながら、豊満な胸のミレットはつぶやく。

今まで、他人事だと思って聞き流していたニュースであった。

しかし、先日の魔族の襲撃が、自分たちが無関係ではないことを知らしめる。

カヌレでもっともホットなニュースであった。


グレートヘルムを被ったキャスターから、映像が切り替わる。

映し出される映像は、精霊の混乱もあるのか画質が悪く、手振れもひどい。

しかし、大量のゴーレムが列をなして進軍している様子はわかる。

率いているのは――魔王なのだろう。


「魔王……か」


ミレットはコップを両手で包むように持つと、小さく息を吐いた。

ブルーになるのも無理はない。

何の前触れもなく、唐突に人類と魔族との戦争が始まったのだ。


前回は勇者がいた。

今回はいない。

皆、心の内に不安を抱えている。

ミレットも同じだ。


しかし――


再び映像が変わった。


『あれはいったいなんでしょうか?』


映像がズームされる。

丘の上に誰か立っているのだ。

フードマントを羽織った小柄で、まるで少女のよう。


「ん?」


妙な既視感にミレットの眉間にしわが寄る。

フードマントは、自分を撮るSCS(精霊通信器)の送信機に気付いたのか(数百メートルは離れているにもかかわらず!)顔を向けた。


フードマントから美しい金髪が零れている。

キツネめいたお面を付けているせいで、顔がわからない正体不明。

そして、彼女は受信機に向かってダブルピースをした!


「ぶぼはっ!」


たまらず紅茶を吹き出すミレット。


「ぜーっ! ぜーっ!」


慌てて店員が布巾を持って来た。

ミレットはそれを受け取り――しかし、拭うこともせず、そのまま地面に叩きつけて叫ぶ。


「なんであんたがそんなところにいるのよッ!」


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