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第83話 冒険者、好き勝手させねぇ!

シュトレンは悶えるように身を(よじ)らせると、


「あなた、強力な残滓を感じます。インタビューさせていただいてもよろしいでしょうか? とても入念かつ念入りに」


言うや否や、いきなりシュトレンの顔面に炎の塊が叩きこまれた。

しかし、直撃する直前、空中に魔法陣が生じる。

炎の塊と魔法陣はぶつかり合い、対消滅する形で双方失せてしまった。


「チッ! 魔族かなんだか知らねーけどよ」


エレーヌが柳眉を逆立てて進み出る。


「いきなり出てきて、好き勝手言うんじゃねえよ。このファッキンクソ野郎が!」


彼女の周囲には、火の精霊が臨戦態勢で周回している。

火の粉がちらちらと舞い、エレーヌの髪が熱風に揺れる。


「いきなり攻撃とは、なんて恐ろしいことでしょうか……」


精霊魔法による攻撃を迎撃したシュトレンは、もちろん無傷である。

覆面が多少焦げた程度だ。

シュトレンは自分自身を抱き、ぶるるっと震える。


「ぞくぞくします」

「ザッツマザーファッカー!」


再びの炎魔法!

エレーヌが拳を突き出すのに合わせて、火の精霊が体当たりを仕掛ける。

直撃しようものなら、いかに魔族といえ松明になることは必須である!

しかし、シュトレンは前へと大きく跳躍。

錐揉み回転しながら精霊の体当たりを躱すと、エレーヌへと突っ込んでいく。


「やめてください。もう少しで死ぬところでした」


その手にはおどろおどろしい色をした魔力球!

アブナイ!


「エルフの嬢ちゃん! 加勢するぞ!」

「ギルドに喧嘩売ることがどういうことか、思い知らせてやる!」


威勢のいい声が割って入る。

なんとグレートソードを担いだ壮年の剣士とドワーフが、シュトレンを挟み込むようにして斬りかかる。

腰に巻いたベルトの色は茶色。

Aランク冒険者だ!


シュトレンは急停止からの跳躍回避。

空中で三回転半を決め、曲芸めいた動きで囲みから脱する。

人間業ではない。


「そうなのです。ワタクシ、魔族ですから」


脱しながらシュトレンは仕掛ける。

空間がぶれ、まるで透明なビックサイズボストロールにでも跳ねられたかのように、Aランク冒険者たちが吹き飛ばされたのだ。

不可視の衝撃波である。

しかし、受け身を取りダメージは最小に抑えている当たり、さすがはAランクである。


「素晴らしいです。とてもお強いです。ワタクシ、びっくりしました」


着地したシュトレンは、すかさず大きく拍手。

感心したような、しかしどこか相手を下に見ているような物言いだ。

エレーヌのこめかみに青筋が浮かんだ。


「クソッたれのファック野郎が!」


キレた。

土煙を割ってエレーヌが飛び出す。

拳には赤い炎が、ごうごうと渦巻いている。


火の粉を散らしながら放たれた渾身の殴りを、シュトレンは紙一重で躱す。

エレーヌはそのまま身を捻り、右拳を突き出した。

超至近距離から炎の槍が、幾本もシュトレン目掛けて放たれる。

しかし、炎の槍は着弾寸前に揺らめき、消滅する。

シュトレンが空間を操作し、精霊の干渉を一時的に断ち切ったのである。


「精霊使いは面倒な相手です。リンクを切るのが一番手っ取り早いです」

「ファック!」


エレーヌはピアス――精霊魔法の触媒に触れた。

その行為は、彼女のポリシーに反する精霊を呼ぶ。

スキル《精霊通信》を発動し、より強力な精霊と瞬間的にリンクをつなげるのだ!


闇霊(シェイド)!」


闇の精霊がエレーヌの求めに応じ、具現化した。

それは彼女の影から黒い闇となって伸び、シュトレンの全身を覆い隠して視野を遮った。


「あーやめてください。前が見えません」


おどけるようにシュトレンは言う。


「ああそうかよッ! そのまま一生前を見れなくしてやらァ!」


エレーヌの影から闇の精霊が、槍めいた姿をとって伸びる。

そしてそのまま、シュトレンにまとわりつく闇ごと、彼を刺し貫いた!



その時、不思議なことが起こった。



「そろそろ時間です」


シュトレンが、すぐ隣に立っていたのだ。


「エ?」


エレーヌは驚きに目を見開き、視線を交互させる。

貫かれたシュトレン――だった影が、闇の精霊と共に自壊していく。

この場にはエレーヌ以外の冒険者たちもいる。

その誰もが今、何が起こったのか把握できなかった。


「魔力の残像で分身をつくっただけです。それが何か?」


シュトレンの鋭いサイドキックが、エレーヌをくの字に折って吹き飛ばす。


「キャン!」


子犬の鳴き声のような悲鳴をあげて、エレーヌは石畳を跳ねた。

そのままゴロゴロと転がり、ミレットの目前で止まった。


「エルフはとても脆いですね」


シュトレンは続けて、パチンと指を鳴らした。

瞬間、広範囲に魔法の雷撃が放たれた。

その色は黒く超自然的である!

超自然的雷撃の嵐が、無慈悲にも周囲の冒険者たちを駆け巡る!

付近にいた冒険者たちは皆、感電して倒れ伏した。



BTOOOOM!!!



さらに追い打ちをかけるように、カヌレの街の至る所で爆発音だ!

石畳が爆ぜ、石材や木片が吹き上がる。

しぐれ通りや常闇通り、目抜き通りの建物がいくつも爆破炎上崩壊する。


「あーすみません。言うのを忘れていました。実はこの街に私の仲間が数人、潜り込んでいます」


シュトレンは見上げた。

冒険者ギルドの屋根の上には、大きな荷を背負った黒装束が3人佇んでいた。

顔の下半分を布で被っているせいで人相はわからないが、彼らの耳は長く尖っている。

エルフはエルフでも、混沌の眷属に連なるダークエルフである。


「もっとも、魔族ではありませんので、攪乱と破壊工作のみ任せております。要するにワタクシは囮です」


シュトレンは優雅に一礼すると、垂直に跳躍。

何かしらの魔法で強化されているのか、一跳びで屋根まで上がる。


「……シュトレン様。市の施設の爆破、完了しました」


黒装束のダークエルフが跪く。


「とてもご苦労様です。おかげさまで目的を達することができました」


カヌレの街には黒煙が幾筋も昇っている。

それらは警備兵の詰所や役所など、市の重要施設ばかりからだ。

悲鳴や怒号が、風に乗ってシュトレンの耳に届く。


「あーとてもいい。とてもいいです。気持ちがいいです……うっ」


ダークエルフたちは揃って嫌そうな顔をした。

シュトレンは小刻みに身体を震わしたのち、


「そろそろ潮時です。冒険者たちが続々と集まってきています。雑兵といえど、相手をするのは面倒ですからね。撤退としましょう」



「まぁそう慌てるな」



――いつからだろうか。


怪しげな風貌の男が1人、腕組み仁王立ちで佇んでいた。

サバイバルカラーの重装旅人装束を着ている。

マフラーめいて首に巻いたボロ布、風に靡くその先端からは超自然的な光を発している。


シュトレンは訝しんだ。


「あなた、誰ですか?」


男は答える。


名も無き(nobody)ただの魔族(raider)だ」


レイダーは殺気に満ちた、鋭い視線をシュトレンに向けた。


「姫様の――魔王の命により、お前を尋問する」


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