第78話 魔王、同業者と会う
「ワシがこの時代に作る、新しき魔王軍に入らぬか?」
リリアが本題を切り出したその時であった!
「殿にお客ですワン」
コボルト(ポメラニアン)が三度応接間へと入ってきたのだ。
その後ろには黒い板金鎧を着こみ、さながら重戦車めいた戦士が立っていた。
顔の半分を覆う改造兜を付け、自身の背丈よりも長大なメイスを背負っている。
なんと物騒な装いか。
「また客か! だから通す前に通していいか確認をしろとあれほど」
「すまないが、私が通すよう強引に頼んだのだ」
重戦車めいた戦士が静かに言う。
威圧感のある不吉な声だ。
リリアは眉根を寄せ、レイダーと視線を交えた。
なぜならこの不穏な戦士からもまた、混沌の神々の気配を感じたからだ。
(まさかこやつも魔族?)
リリアは口には出さず、様子を覗う。
戦士はバヤリスを上から下まで観察するかのように見た後、ずかずかと彼の目前まで進み出る。
未だリリアと会話中だというのに割り込みをし、決断的に無視したのだ。
実に失礼だ。
「私は魔王八卦衆が1人、名をヌガーと申す。魔王陛下の命により、お前を我らの傘下に加えに来た。なお、これは要請ではなく命令だ。拒否は認めん」
「魔王の傘下……だと?」
バヤリスは困惑する。
なぜなら、つい先ほど同じような内容の話を聞いたからだ。
「姫様、少しよろしいですか?」
蚊帳の外状態のレイダーが小声で言う。
「なんじゃ?」
リリアは、スナックめいた茶菓子へ伸ばした手を止めた。
「いつの間に魔王八卦衆などというものを組織したのですか?」
「ワシが知りたい。おぬしのほうこそ、ワシの名を使って勝手に組織したのでは?」
「姫様がいるのに、わざわざ俺が出ることもない」
「じゃろうな」
皆までは言うまい。
リリアとレイダーが小声で言葉を交わす合間にも、魔王八卦衆ヌガーはバヤリスに詰める。
「さあ返答は如何に?」
有無を言わせぬ圧迫具合だ。
だが、バヤリスも魔族である。多少の圧で怯むような男ではなかった。
「そもそも魔王八卦衆ってなんだよ。俺、そんなもの知らないぞ?」
聞き慣れない単語にバヤリスは訝しむ。
悪質なキャッチセールではないかと思ったのだ。
ヌガーは露骨なまでに、馬鹿にしたような表情を浮かべる。
「なんと無礼な! いいか、甦った魔王陛下のもと、魔王軍は再組織されたのだ!」
リリアはスナックめいた茶菓子へと伸ばした手を止めた。
初耳である。
再組織の最中だと思っていたら、もう完成していたらしい。
「姫様、知らぬ間におめでとうございます」
「ありがとう。じゃが、軍と呼べるほど戦力はないぞ」
「でしょうね」
この状況をどこか楽しんでいる節さえある。
一方で口調とは裏腹に、レイダーは内心憤慨していた。
リリア以外の者が軍を興すなどあってはならない。
それが魔王を騙るならばなおさらだ。
――どこの馬の骨とも知らぬ輩に、俺の計画を狂わせてなるものか!
ボロ布の先端が、レイダーの感情に合わせて薄く光り始めた。
そんなことは知らず、ヌガーは両手を広げ、大仰な態度で言う。
「だが、陛下はまだ万全ではない。よって陛下を補佐するのが、我ら最高幹部たる八卦衆なのだ!」
「ご高説アリガトウゴザイマス」
「うむ。お前も魔族ならば、魔王陛下のもとに集うのは当然の話! コボルトどもを率いて我らが戦列に加われッ!」
終始威圧的な話し方である。
とてもじゃないが、勧誘しに来た者のそれではない。
バヤリスは無言で椅子から立ち上がった。
そして、机をぐるりと回って、魔王八卦衆ヌガーの前にわざわざ立つ。
見よ! その鍛えられた肉体を!
バヤリスはウサギマスクと下着以外、何も身に着けていないのだ!
レイダーはリリアの顔を両手で挟むと、強制的に別の方向へ背けた。
「姫様。教育上よろしくないので、コボルトの方を向いていてください」
「ワシ、そんなのを気にする歳じゃないんじゃが……」
バヤリスは正面からヌガーを見据える。
雰囲気で自ずと、彼が何を言おうとしているのかが読めてしまう。
「やだよ。俺はここでスローライフするんだし。悪いがお姫様、貴女の誘いも断らせてもらう」
リリアはワザとらしく肩をすくめてみせた。
去る者は追わずというのが、リリアの魔王軍勧誘のモットーなのだ。
だが、魔王八卦衆ヌガーはそうはいかない。
「我らが軍門に下らぬと?」
「お断りだね」
「そうか」
突如としてヌガーは背負っていたメイスを抜き、振るう!
一振るいしただけで暴風めいた風圧が応接間に吹き荒れ、石造りの壁が粉砕された。
外の湿った空気が流れ込む。
スナックめいた茶菓子が盛大にひっくり返る。
「な、なにィ⁉」
バヤリスはメイスの一撃を、ブリッジして紙一重で躱した。
並みの人間あるいは魔族なら直撃し、凄惨な結果となっていただろう。
今の回避は、バヤリスが全裸に近い状態だからできた芸当なのだ。
さすがのリリアとレイダーも突然の出来事に驚いたようだ。
2人してコップを掴んで、腰をやや浮かせている。
「待て! いきなり襲い掛かるとはどういう了見だ⁉」
回避したバヤリス本人はもっと驚愕していた。
ヌガーはメイスを構え直す。そこに油断は見受けられない。
「不確定要素は排除する。これも魔王陛下のご命令だ。悪く思うな!」




