表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/93

第73話 魔王、発つ

PPPPP!


携帯型PHS端末がうるさく鳴り響いた。

精霊が早く出ろと急かす。

だが、あいにく持ち主はベッドの中だ。

毛布から手だけを伸ばして携帯型PHS端末を探している。


そうこうしていると今度は携帯型PHS端末が震えだす。

まだかまだかと精霊の気が荒くなっている。

ようやく毛布から伸びる細腕が、携帯型PHS端末を掴んだ。

通話ボタンを押し、耳に当てる。


「あい……」

『おっとごめんごめん! やっぱ寝てたんか!』


電話をかけてきたのはドワーフ訛りがキツめのプラムである。

先日、彼女の依頼で廃坑道に潜ったのち、携帯型PHS端末の番号を交換したのである。

そして毛布にくるまるのはリリアである。

寝惚け眼(ねぼけまなこ)をこすりながら、プラムの声量に耐えられず端末を耳から離した。


「うん……ふぁ……なに……?」


いかに魔王とはいえ寝起きは弱い。

特に夜更かしした次の朝ならばなおさらだ。


『ごめんなー、ちょっと話があるんやけど』

「あぃ……」

『昼間くらいにあたしの工房に来てくれへん?』


リリアからの返事はない。

プラムはしばしの間、無言で待つと、


『いや寝てるやろ⁉』

「寝てない……」


リリアは毛布をのけるとのそのそ起き上がる。

長い金髪は寝癖などでぼさぼさになっている。

片目は瞑ったまま、もう片方も虚ろである。

そして、なんとポンチョめいたパジャマを着ている!


「……かまわんぞ」


半分寝ているのである!


『よし! さすが教会騎士様や。話が分かって助かるわ』

「……んぬ」

『じゃあよろしくやで! 道のり忘れたらミレットに聞いてやー』

「……うん」

『じゃああとでな』


――通話終了。


携帯型PHS端末が静かになる。

リリアはぼーっとした顔で手の中にある携帯型端末を見る。


「プラム……工房……昼……」


辛うじて頭の中に残っている単語を反復する。

そして、リリアはそのまま毛布の上に倒れ伏した。

すーすーっと静かな寝息が聞こえる、そんな穏やかな朝のことであった。



◆◆◆



そして時は流れて昼前。


身支度を手早く済ませたリリアは街へと繰り出した。

もちろんプラムの工房へと向かうためである。

フードマントではなく動きやすい私服だ。

少し前にレイダーに強請って買ってもらった町娘風の服である。


『混ぜ物無し。小麦パン。つまり最上級。しかし、とても安い』


宣伝用SCS(精霊通信器)がパン屋の作業風景を、軽快なリズムと共に流している。

現在進行形での作業を見せることにより混ぜ物無しを謳うのだ。

だが、それは過去の映像をリピート再生だ。

もちろん市民には秘密である。


PPPPP!


携帯型PHS端末に着信。

リリアはポケットから取り出すと、足を止めずに通話に出た。


「もしもし」

『姉御、こんにちは!』


Bランク冒険者パーティー『デスモスキートクラン』の7色モヒカンである。

リリアに何度も吹き飛ばされた結果、リリアの舎弟という立ち位置である。

あるいは魔王軍の現地協力員。


『限定のクッキーが売ってるんですが買いましょうか!』

「いや、今日はよい」


携帯型PHS端末越しに激しい動揺の気配が伝わって来る。


『どうしたんですか姉御……もしや体調不良ですかッ⁉』

「違う。まぁ気にするでない。切るぞ」


――通話終了。


ふぅと小さく息をつき、ポケットに突っ込む。

道の端にずらりと並ぶ屋台の声かけやキャッチを一瞥。


「うるさい街じゃな」


リリアは独り言ちた。

特に嫌っているというわけではない。市民なら誰もが思う感想だ。

COP(コートオブプレート)入荷』『新台特価』といった看板。

商業施設がひしめく香草区を通り抜ける。


リリアは職人たちのストリートへと入った。

鉄を叩く音。

親方が小僧を叱る声。


「ここか」


裏路地へ入ると目当ての工房があった。

取っ手に掛けられた『閉店』の看板。

躊躇いなくリリアは扉をノック。返事も待たずに開けて入り込む。


すぐに工房かと思いきや売り場があった。

真ん中に丸テーブル。

そして、そのテーブルに身体を預けているのはプラム・シトラスだ。


「やぁ、ちゃんと来てくれたんやな」


ドワーフ訛りがキツい。

彼女はコップ片手に手招きした。


「呼ばれたからのぅ。ただ、用件を聞いておらんから酒は遠慮するぞ」

「大丈夫、弱アルコールのリンゴ酒やから」


プラムは自分の対面に空のコップを置いた。

そこに座れということらしい。

リリアは促されるまま対面に座った。


「それにしても……」


リリアは売り場内を見渡した。

店の壁や棚にはいくつもの手足(、、)が並べられていた。

金属光沢が眩しい。


「これは……義手かや?」


プラムは頷いた。


「せやで。魔力で動く義手や。うちは義手、義足の工房やねん」


プラムは立ち上がると、手近にあった義手を手に取った。

鉄製と思しき右手だ。つなぎ目部分から配線が血管のように垂れている。


「といっても、メインの魔力伝達関係は外注やけどな。魔力のないドワーフじゃ、エルフには勝てんしな」


からからと笑いつつ、プラムは義手の肘部分にあるレバーを引いた。

装甲が跳ね上がり、クロスボウめいた発射機構が現れではないか!

しかも二連装!


「ふおおおおおおおッ!」


目を輝かせ、思わず前のめりになるリリア。

彼女の反応に、プラムは満足気に胸を張る。


「その代わりに外装やフレーム、こういったギミックなんかを扱ってるんや。あたしはそういう職人。ね。すごいやろ」

「スゴイ!」


200年前にはなかったものである。

さすがの魔王も心が躍るのは無理も無かろう。

だが、リリアはふと我に返る。

居住まいを正し、咳払いを1つした後、


「で、ワシを呼び出した理由は何かや?」


プラムは答えない。

空のコップにリンゴ酒を注ぐ。

7分目でまで注いでからリリアの前に置いた。

プラムはまだ答えない。

リリアは肩をすくめるとコップに口を付けた。


「リリアはさ。魔族を探してるんやったよな?」

「うむ」

「理由は聞かんけど」

「言うつもりも無いな」


プラムは早い返事に苦笑してしまう。

彼女もまたコップに口を付け、喉が鳴る。


「ミレットは言ってた? そーゆー危険な依頼って、基本的には流れてこないって」

「言ってはおらん。しかし、薄々、な」

「Sランク冒険者しか対処できんしね。ま、どうやらあんたは魔族とサシでやっても勝てるっぽいけど」

「事実じゃ」


プラムはコップを置くとぐいと顔を近づける。

鼻先が触れそうになるほど。

リリアは動じない。


「知り合いの村からの依頼があるんやけど――訊く?」


リリアの口元が、にやりと吊り上がった。


「ふむ。聞いてやるかの」



2日後――リリアは1人でカヌレの街を発った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ