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第71話 魔王、残虐ファイトを目撃す

「GRRRRRRRRRRッ!」


咆哮を上げて人狼は超大モグラへと踊りかかった。

超大モグラは反射的にスコップを振るう。

切っ先が人狼の腹部を裂いた。


「AAA!」


飛び散る赤い鮮血。人のそれと変わりない色だ。

たたらを踏む人狼。

しかし、恐るべき光景がそこにあった。

なんと裂傷が、しゅうしゅうと白い煙を上げて塞がっていくのだ!


「AARRGH!!!」


つまり無傷である!

今度こそ人狼が超大モグラとインファイト距離に詰めた。

そして、高級ダガーよりもなお鋭い鉤爪を振るった。

右!

左!

超大モグラの分厚い毛皮がいとも容易く切り裂かれる!


『AGGGHHHHHHH!』


吹き出す血は同じく真っ赤である。

だが、超大モグラもやられているばかりではない。

スコップと爪を振るって応戦する。

しかし、悲しいかな。人狼は傷を受けてもその(しり)から傷が塞がっていく。

人狼が超大モグラの腕にかみついた!

そして肉を噛みちぎる。


「ARGHHHHHHH!」


なんたるスプラッタめいた血みどろの殺し合いか。

リリアは言葉を無くしてその凄惨な光景を見ていた。

レイダーやプラム、それに大モグラたちも動けずにいる。


人狼が、毛が残った肉塊を吐き出す。

そして鉤爪を大モグラに立てると、今度は首筋に噛みついた。


――声にならない絶叫。


それが致命傷であった。

太い血管を嚙み切ったのか、血が横穴の天井近くまで吹き上がった。

超大モグラの手からスコップが落ちる。超大モグラは絶命。

だが、まだ終わりではない!


「AARRGH!」


人狼は超大モグラの死骸をストンピング!

念入りにととどめを刺したのち、まるで何かを探すかのように死骸を弄る。


「アマン……おぬし、意識はあるのかや?」


リリアの口調は固い。その手には重力球が生まれていた。


いざとなれば――


口元を真っ赤に濡らした人狼が振り返る。

ギロリと大モグラたちに向けて凄んだ。

大モグラたちは生命の危機を感じたのか、我先にと穴に飛び込み、横穴の奥へ走り、逃げ出す。

そして――大モグラたちの気配は消えていた。

ボスを失った大モグラたちは、ほどなくしてこの坑道跡から逃げ出すことだろう。


気付けば、返り血で真っ赤になったアマンがそこにいた。

へらへらとした笑みを浮かべている。


「変身は疲れるから、長時間できないんだよねェ」


パチンと指を鳴らした。

頭上に大きな水の塊が生まれ、返り血を一気に洗い落とす。

肩を回しながら横穴から坑道へと戻り、リリアへと近寄った。

生臭い匂いが鼻を突く。


「ちょっ! リリア! そいつ大丈夫なん⁉」


プラムが怯えた様子で叫ぶ。

だが、リリアは特に気にした様子もない。

なぜなら彼女は魔王なのだから。


「よくやった……が、正直……引いておる」


飛び散った血肉とアマンとを交互に見て、リリアは本音を漏らした。


「引かないでくれよ、お姫様」


アマンは大げさにおどけてみせた。


「魔王軍の直参にはこういう妖怪変化(シェイプチェンジ)を扱う色物はいなかったのかい?」


リリアはきょとんとした顔をしたのち、カカッと快活に笑った。

そして目を細めた。


「気付いておったか」

「そりゃねェ」


アマンは脱ぎ捨てたポンチョを拾った。

まだ生臭さが残るというのに構わず羽織る。


「俺だって実は魔王軍の一員……あ。元魔王軍が正解か……ニシシ」

「つまり、おぬしはここに任務でいたというわけじゃな」

「そ。それも、お姫様に関わる名誉ある重大任務ってこと」


アマンの言葉に、さすがのリリアも訝しんだ。

念のために振り返る。

レイダーは武器を収めて佇んでいる。

プラムはウォーピックを握ったまま、先と変わらずだ。

どうも巨大生物2匹の肉弾戦はバイオレンス過ぎたらしい。

おそらく話し声は届かないだろう。


「ワシに、じゃと?」


アマンは頷き、真鍮製の鍵を取り出した。

ところどころ、赤い血肉がこびり付いている。


「なんじゃその鍵は?」

「ニシシ……あんたの趣味部屋の鍵だ」

「な……ッ⁉」


予想外の言葉にリリアは口をパクパクとさせた。


「正確には、姫様の玩具を全部押し込んだ部屋の鍵」


魔王の趣味。

リリアが趣味で作ったゴーレムたちのことである。

理解が追い付かない。


「あんたが勇者に敗北してから、大慌てで大量のゴーレムをこの坑道に隠したってわけ。ほら、趣味を全世界に公開されるのは恥ずかしいだろ? で、穴倉のアマン――つまり俺に白羽の矢が立ったってこと」


リリアは額に手を当て、深々とため息をついた。


「……マジか……ワシの……むぅ」


指の隙間から見える頬はうっすらと赤くなっている。

アマンは構わず喋る。


「そしたら、あのファッキンクソモグラが襲撃してきて、鍵も食われちまってな。さてどうしようかな、と困ってたところに救いの手が」


リリアは手の平を突き付け「もう良い」と無理やり黙らせる。


「ニシシ……まさかお姫様の作品を守るために、お姫様のチカラを借りることになるとはね」

「ええい、黙らんか……」


リリアの言葉に勢いはない。

恥ずかしい半分、土くれに還ったと思っていた趣味の作品が残っていて、喜んでいるのだ。


「まぁよい。アマン、ご苦労であった」

「滅相もございません」


アマンは気取って一礼してみせた。

ポンチョなどではなく礼服ならば様になったはずだ。


「それともう1つ」とリリアは続ける。

「はい?」


リリアはニヤリと口端を吊り上げた。


「おぬし、魔王軍に入らぬか?」

「いいね、それ。加わるよ、姫様」


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