第69話 魔王、嘆く
前門の大モグラ、後門の大モグラ。
それぞれ数は3匹ずつ。リリアたちを相手するには力不足過ぎる。
先手を取ったのはリリアである。
右手を振るい、重力球を放つ。
大モグラの頭部に命中、首の骨が折れて、即死!
しかし、間髪入れず前後から襲い掛かる大モグラ。
『GRRRRR!』
レイダーの首に巻かれたボロ布が超自然的な光を放つ。
左手から魔力の糸が伸び、大モグラ2匹の首に巻き付いた。
ピンと張られる魔力の糸。
「悪く思うなよ」
レイダーは右手で魔力の糸を無理やり引いた
糸が引っ張られ、大モグラの頭部があらぬ方向を向いた。
残り3体!
リリアとアマン目掛けて2匹の大モグラがピッケルを投擲する。
「うおぉ! 危ないねェ!」
飛び退くアマンとは対照的に、不動のリリアは左手を伸ばす。
ちょうど中間地点に生まれた重力障壁が、飛来するピッケルを飲み込んだ!
慄く大モグラ。
一方で余裕の表情のリリア。
「本当はこのまま大規模破壊魔法と行きたいのじゃが……鏡返しじゃ」
そのままリリアは左手を返した。
まるでバリアめいて、重力障壁からピッケルが勢いよく吐き出される。
その先端が大モグラのそれぞれ頭と胸板をカチ割った。
「ひゅー! やるねェ」
アマンがその時向けた――腹に一物がある表情を、リリアは見ていない。
それと同時だ!
「おらぁ!」
プラムがウォーピックを大モグラに叩き込んだ。
『AGRR!』
頭蓋を破壊され、致命傷である。
噴水めいて血飛沫を上げる大モグラから、プラムはウォーピックを引き抜いた。
「なんや、魔族が苦戦するからどんなもんやと思ったら、そんな強い相手やないやん」
プラムは拍子抜けした様子だ。
ふぅと息をつき周囲を見渡せば死屍累々と伏せる大モグラたち。
いや! あと1匹!
胸板をぶち抜かれた大モグラが起き上がったのだ!
敵わないと相手だと悟り、自身が出てきた穴へと逃げ込もうとする。
しかし、飛来した何かがその短い足に絡みつき、大モグラは転倒する。
「ニシシ……逃げるのはよくないねェ」
アマンがポーラを投げたのである。
ポーラとは重りを糸の両端に付け、今のように相手の足に絡めることで動きを封じる卑劣極まりない暗器である!
リリアは手のひらに魔法の剣を1本生み出した。
サージェントが使っていたのと同じ魔法である。
それを投擲する。
『GR!』
短い断末魔の悲鳴を上げて大モグラは死亡した。
あっという間に大モグラの惨殺死体が6つ出来上がる。
土とカビ臭い坑道に、血の匂いが充満する。
「ニシシ……さすが魔族退治にやって来たお姫様一行。これくらいの敵じゃ、勝負にもならないねェ」
ぱちぱちと拍手しながらアマンは、背中を合わせて追撃がないか警戒するリリアたちに寄ってきた。
風を切る音をたてて、リリアは鋭いパンチ!
アマンはそれをひらりと紙一重で躱した。
「危ないなァ」
「危ないじゃないわ! おぬし、どういうつもりじゃ?」
詰め寄るリリアにアマンは小首を傾げた。
「どういうつもり、って言われてもなァ」
「とぼけるでない。今の戦い、一切戦おうとしなかったではないか」
レイダーは無言だが、プラムは激しくうなずいている。
今の大モグラの襲撃でアマンはポーラを投げること以外、一切していないのだ。
戦おうとする素振りすらなかった。
「あー……なるほどね」
アマンは頭を掻く。とても芝居がかった仕草だ。
そして次に放った言葉は思わず耳を疑うものであった。
「言うの忘れてたけど……俺、こういう荒事ってからっきしなんだよね。チョー弱いの」
荒事が苦手な魔族などいるわけがない。
混沌の神々は、誰にでも祝福を与えるわけではない。
超人となるにはそれ相応の能力があるのだ。
「信じられん」
リリアは胡乱げな視線を向ける。
「俺、ほとんど魔法使えなくてね。明かりとか水を出すのがせいぜい、みたいな。あと体術とか武器とかも上手くないんだよねェ。そういう訓練受けてないし」
開いた口が塞がらないとはこのことか。
「んな……ばかな……」
リリアはそう絞り出すのが精一杯であった。
「マジマジ。今の俺ならたぶんBランク冒険者よりも弱いぜ」
「え、つまりあたしでもぶっ倒せるってことなん?」
プラムがウォーピックを構えながら尋ねた。
今この場でぶっ倒せば、さっさと帰れるとでも思ったのかもしれない。
アマンは両手をホールドアップさせて薄ら笑い。
「ニシシ……たぶん。ね。あ、でも止めてくれよ。今殺すのは止めてくれよ。みんな困る」
どうやらマジの話らしい。
リリアは思わず天を仰いだ。
「や、役に立たん……おぬしとて魔族の端くれじゃないのかや」
「下っ端なんてそんなもんだぜ、お姫様」
アマンは大モグラの死骸を1つ掴み上げた。
血が滴る死骸を、大モグラたちが飛び出てきた穴へと放り込む。
この穴は大モグラたちの通り道であり、テリトリーだ。
こんな所に死骸を放り込めば、あっという間に侵入者の存在に気付く。
子分ではなく、アマンが言う巨大な大モグラが。
「だから頑張って俺を大モグラの前に連れて行きつつ、雑魚の露払いをよろしくってこと」
つまり、彼が行っているのは宣戦布告である。




