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第57話 魔王、再戦する

東の空が白み始めてきた。

村の至る所から煙が上っている。

崩れた建物、倒壊した教会、そういった凄惨な破壊の跡に加えて、何人もの神官戦士が倒れていた。


黒王号(巨大な黒毛の牛)と重力球の暴力を前に、ポテト派が送り込んだ神官戦士たちは壊滅した。

皆、地べたに這いつくばり気絶している。

死人がいないのは神の奇跡か、あるいは土地神だった影響が作用したのか。

とにもかくにも立っているのはリリアくらいなものである。


いや!


まるで放たれた矢の如きスピードでリリアに向かって迫る影が1つ。


「リリアァァァァァァァヌ!」


憎悪のこもった咆哮を上げるのは、グレートヘルムを被った長身の女。

サージェントだ!

そこにはダウナーさの欠片もない。

リリアはうんざりしたように振り返る。

実際、面倒であった。


「懲りん奴じゃ。どうやって枷を外したか知らぬが……懲りん奴じゃ」

「ほざけっ!」


サージェントの周囲に魔法で生み出した剣が浮かぶ。

その数3つ。

敵に向けて自動追尾する強力な魔法だ!


「またワシに挑むじゃと? なぜわからん。おぬしでは決して勝てない相手だと」


リリアは嘆かわし気にため息をついた。


「勝てる勝てないかじゃねぇ! 俺がお前を超えるために!」


サージェントが魔法の剣をクロスボウめいて放った!

しかし、リリアは特に焦る様子も無く、右手を伸ばす。

その手には漆黒の重力球。


放つためではない。


リリアは引力を生じさせると、付近の瓦礫を引き寄せる。

そして、魔法の剣の射線を遮るかのように展開させた。

瓦礫と激突し、ガラスが割れたような音をたてて魔法の剣が砕け散る。


「猪口才なァーッ!」

「サージェントよ。祭りは終わったのじゃ」


斥力により瓦礫を開放、サージェント目掛けて打ち込む。

サージェントは紙一重で回避すると跳躍。

一気に距離を詰める。


「おぬしがメインの物語はもう終わったのじゃ。そんな輩が、この話の最後の最後にボス面して出てくるでない」


サージェントはリリアをインファイトに持ち込んだ。

右!

左!

彼女は素早い短打をリリアにお見舞いする。

だが、リリアはそれを正確に捌いて反らす!

サージェントの攻撃は掠りもしない。


「興覚めも甚だしい」


リリアは吐き捨てるように言うと、手のひらに重力球を生み出した。

サージェントもまた手の内に魔法の剣を生み出す。

鋭い突きだ。

リリアは紙一重でそれを躱すと、サージェントの足元目掛けて重力球を放った。


「ぐぉっ!」


強烈な重力に囚われ、サージェントは身動きもできずに這いつくばる。

手にする魔法の剣を振るうことすらままならない。

リリアは右手を振り上げた。

その手にはいつの間にか握られた馬鈴薯!


「のぅ。サージェントよ。おぬしは何が気に入らぬのだ? おぬしを駆り立てるものは何なのじゃ?」


激突音と共に馬鈴薯が砕け散った。

リリアはしゃがみ込むとサージェントの顔を覗き込む。


「ワシはわからぬ。おぬしの考えがわからぬ」

「それは……!」

「それほどまでに上に立ちたいというのかや?」


サージェントは答えない。

高重力に捕らわれた今は、答えられないのかもしれない。

ふむ……とリリアは唸る。

何かを決断したかのような力強い光が瞳に浮かぶ。


「その野望、ワシが叶えてやろうか?」


魔王は嗤った。


サージェントはその表情が見えない。

しかし、彼女は得体の知れない感覚を覚えた。

背中を何か冷たいものが這いずり回るような不快感を。

それが恐怖であると、サージェントは気付かなかった。



◆◆◆



山の稜線に沿って光が滲み出てきた。

文字通りペニエの村は崩壊していた。

だが、人的資源は損なわれていない。

村長宅があった村の中心に村人たちが集まっていた。


ポテト派の支配から逃れたとはいえ、村が焦土と化していては意味がない。

村人たちは久方ぶりの解放感と同時に、今後の不安を感じ取っていた。

そして、自然と視線は下を向く。

皆、暗い表情を浮かべていた。


「これは……これは……!」


覚束ない足取りで歩み出てきたのは村長だ。

灰が薄く積もった地面に膝を付き、茫然と眺める。


「……終わった。全てが終わった。何もかもがなくなってしまった」


これを因果応報と言う。

櫓に吊られていたはずの村長が戻ってきたことに、村人たちが気付いた。

あっという間に村長の周囲を取り囲む。


「な、なんだ……?」


不穏な空気が満ちた。

皆、絶望と怒りが混じった様相で村長を睨みつけていた。


「あんたが教会なんて誘致しようとするから!」


今怒鳴り声を上げたのは村長派だった村人だ。

選挙戦では村長から袖の下を貰ったというのに。

恐ろしいリンチが始まるまで秒読み段階。

あわや村長はマッシュされた馬鈴薯めいたものになってしまうのか。

しかし――


「たわけ。そんなこと関係あるか」


呆れ果てた、少女の声がした。

村人たちが振り返る。

そしてモーゼが海を割るかの如く、左右に分かれた。


「お社様……」


薄闇でもなお眩しく輝く金色の髪。

リリアである。

半歩後ろにはレイダーがおり、彼の手にはロープが握られている。

その先には、固く縛られ、猿ぐつわを嚙まされた長身の女に繋がっていた。

リリアは村人たちをぐるりと見渡すと、


「おぬしら全員、村長の言うことに従ったではないか。自分たちは正しいことをしていると、誇らしげな顔で」


村人全員がびくりと肩を震わせた。


「それこそ貴様らが、この村の者全てが撒いた種じゃ。村長1人に押し付けるのはムシが良すぎる。違うかや? おぬしら全員が不幸になるべきではないかや?」


静かな怒りがあった。

図星だ。村人たちはバツが悪そうに視線を反らす。

村長が転がるようにリリアの元へと、土と灰に塗れながら這い出た。

そして、乞う。


「お社様、お助けを……なにとぞお助けを……」


リリアは鼻で笑った。

せせら笑った。

嘲笑した。


「たわけ。ワシは助ける気などない」


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