表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/93

第54話 村長、解放する

煙が立ち上り、炎が燃え盛り、土砂が絶え間なく降り注ぐ。

(やぐら)は爆発四散し、村と下界とを隔てる壁はなぎ倒されている。

家も畑も忌々しい教会も、全て黒煙に飲み込まれていた。

男はおぼつかない足取りで進み、愕然とする。


「こ、これはいったいどうなってるんだ……?」


瘦せこけ、憔悴しきったその男はペニエの村のラング村長である!

櫓の爆発四散に巻き込まれたというのに生きていたのだ!

いったい、いかようにしてか⁉


黒王号が櫓に突進をかけた際、神官戦士たちと同様に村長も吹き飛んだのだ。

縄で吊るされていた分、振り子の応用で村長は空高く吹き飛ばされる。

それは高さにして地上10メートル以上!

待っているのは落下による粉砕激突死だ。


しかし、その時奇跡が起こった。


空高く吹き飛ばされた村長。

彼の下に、たまたま同高度まで飛ばされた櫓の残骸が重なったのだ。

村長は脅威的なバランス感覚を発揮!

まるでサーフィンめいて村長は残骸の上に着地する。

さらにリリアの隕石落とし(メテオストライク)で発生した上昇気流に乗ることで、地上へと無事に帰還したのである。

おそるべき豪運だ。


「村が……ポテト派の要塞が消し飛んでいる」


村長の周辺には倒れてピクリとも動かない神官戦士たち。

死んでいるのか生きているのか、見ただけでは判断できない。

しかし、村長は彼らのことを「ざまあみろ」とも思う余裕もない。

それほどまでに村を襲った大破壊に衝撃を受けていたのだ。


「うぅ……そこの村人……助けて」


だから呻き声も耳には入ってこない。


「助けて……」


幾度とない助けを求める声。

ようやく気が付いた。

瓦礫の下に、縄で縛られた女が転がっていたのだ。


――ナンデ?


村長は腰を抜かしかけた。

神官戦士ではない。

掟を破って櫓に吊るされた村人だろうか。


「た、助ける!今助ける!」


村長は自分とてほとんど体力がないにもかかわらず、女を引きずり出す。

しかし、見ない顔だ。

お団子を頭に2つ作った髪型をした、ダウナーな感じの女である。


「あ、ありがとうございます……」


視線を合わせようともしない。

村長は櫓の残骸を利用して女の縄を切る。


「あと、この腕輪も……」


村長は一瞬不審に思うも、言われるがまま腕輪を切った。

魔力封じの腕輪を!


「あんた、見ない顔だが……ペニエの者か?」


女は答えない。

長身で、やや猫背の女だ。

村長を無視して、女は手首をさすりながら周囲を見渡した。

煤で黒くなったグレートヘルムが転がっている。


「なぁ、あんたもポテト派に捕まっていたのか?」


女はグレートヘルムを拾い上げると、被った。


「あのクソ魔王めがああああああ! よくも縛られた俺を牛に繋いだまま突撃させたな! いったい何回、地面をバウンドしたことかッ!」


途端に背筋が伸び、言葉遣いが乱暴になる。

ダウナーからヤカラへと豹変したのだ!


「ひぃ!」


怯える村長。

しかし、女は彼のことなど眼中にもない!


「ぶっ殺す! 今度こそ俺の手でぶっ殺してやる! 俺の本気を見せてやる!」


女が地面を蹴った。

瞬間移動、と村長は思った。

たったひと蹴りで、あっという間に女は村――いや、爆心地の中へ飛び込み、姿が見えなくなった。


「いったい今のは……怖い」


村長は唖然とする。しかし、いつまでもそうしてはいられない。

彼はペニエの村の村長なのだ。

村長も女の後を追うように、村の中を目指して歩き出した。



◆◆◆



村はまさに地獄めいた凄惨かつ、残虐な破壊ショーの大開演状態であった。

悲鳴と呻き声のアンサンブル。

神に許しを請う神官戦士たち。

そしてそれらを蹂躙し、破壊の限りを尽くすリリア。

恐ろしい。


そんな村に侵入することなど、赤子の手を捻って泣かすよりも容易い。

レイダーとブレッドマン神父は一切の障害なく、村の中央――クレーターとなった村長宅の残骸付近までたどり着いた。

焼けた馬鈴薯の香ばしい匂いが漂う。


「ここまでは手はず通りだな」


物陰から顔を覗かせたレイダーは周囲を見渡す。

混乱の極みだ。

元よりリリアと黒王号(黒毛の牛)が陽動をかけて、レイダーたちがポテト派の頭を押さえるという算段であった。

打ち合わせの際、多少派手にいくとは言っていたが――

レイダーは口元を緩ませる。


「ただ、姫様の暴れ具合は俺の想像を少し超えているな」

「いや、村が全壊してるのを少しというのは如何なものかと……」


ドン引きするブレッドマン神父。

先ほどから顔色が優れない。


「神父様は言葉遊びが好きなようだな。これくらいよくある話だ」

「あー……もういいです……すみません……」


教会騎士の称号を授けるといった相手が、破壊と乱暴の限りを尽くしているのだ。

頼まなければよかったと心の片隅に浮かんだのやもしれない。

レイダーはブレッドマン神父の肩を叩いた。

そんな事を気にしている時間はない。


「俺たちは俺たちの役目をこなすぞ。気は進まんが」


レイダーは物陰から立ち上がる。

灰と赤熱した塵が舞う中、堂々と歩み出る。

首に巻いたボロ布が風に靡き、その先端が超自然的な光を発する。

隕石落とし(メテオストライク)は未だ止まない。

散発的な地響きが聞こえる。


ほどなくして、レイダーの行く手を遮るかのように数人の神官戦士が現れた。

そして彼らの中心には、意匠を凝らした兜を被った神殿騎士がいた。


「異端者どもめ……よくも我が神を愚弄してくれたな」


彼の声には静かな、しかし明確な怒りが込められていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ