表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/93

第51話 魔王、古巣を滅ぼしに行く

北より流れてきた分厚い雲が蜷局(とぐろ)を巻き、空が黄土色に染まった。

吹き止まぬ生暖かい風が、褪せた下草を揺らしながら、壊れた荷車を抜け、緩やかな傾斜を下っていく。

旅人たちが、自分たちの足で踏み固めただけの街道を。


「じゃあ! 先に帰るね!」


戦利品がしこたま入った袋を担いで、ショコラが大きく手を振った。

リリアは多少の寂しさと、かなりの心配が入り混じった視線を投げる。

この能天気な獣人が怪我無くたどり着けるだろうか。

一方は異端な宗派とはいえ教会に喧嘩を売る行為をして大丈夫なのか。

二者は別々に相手のことを考えていた。


――哀しいかな。


レイダーからすればどっちもどっちなのだが。


「道中気を付けるのじゃぞ。危なくなったら袋は捨て置け」

「うん! ばいばーい!」


ショコラとはここでお別れである。

ダンジョン攻略のために組んだパーティーであるからして、今から行う私的な目的にショコラを連れて行くわけにはいかない。

冒険者ギルド(ミレット)への言付(ことづ)けも頼んだ。


――まぁ大丈夫だろう。

どんどん小さくなっていくショコラの姿を見ながら、リリアは頬を緩めた。


「じゃあ私もこれにて……」


ロープで縛られたマンのサージェントがさり気なく離れようとする。

リリアはノールックでグイと引っ張り、それを妨げる。


「ぐぇ!」

「誰がおぬしを解放するものか」


リリアはジト目でサージェント見る。


「おぬしも一緒に来るのじゃ」

「えぇ……縛られたまま? 魔法も唱えられないのに⁉」


サージェントの腕には複雑なルーン文字が刻まれた腕輪が付けられている。

これはリリアが自作した魔力封印の腕輪である。

この腕輪がある限りサージェントは魔法を唱えることはできず、魔族としての超人的身体能力も発揮できない。


「そうじゃ。神父の弾避けとして立派に働くがよい」

「そんなぁ……あんまりですぅ」


リリアの冷酷な宣言に涙するサージェント。


「……いや、ワシを裏切っておいて、あまつさえ襲い掛かってきておいて、その言い草はどうかと思うぞ」


呆れ顔でリリアは言う。

サージェントは俯き気味に、様子を覗うように上目遣いでリリアのことを見ると、


「ほら、それはその場のライブ感というか……」

「ライブ感で人を殺そうとするでないわ!」

「だって……魔王を倒した勇者を倒せば、実質私が(かしら)になれるチャンスだったし……」

「おい、理由が救いようのないほどド外道じゃが、理解しておるのかえ?」


リリアはため息を一つついた。

ロープを持たぬ手でこめかみを押さえると、


「やっぱりおぬしはペニエで松明にしてくれる!」

「お慈悲を! 姫様! お慈悲を!」

「ええい! どの口が慈悲など言うか! この口か⁉ この口か!」


リリアはサージェントの頬を両手でつねり上げる。

なんとも恐ろしい拷問か!


ブレッドマン神父はそんな2人のやり取りを困惑したように眺める。

聖職者として仲裁すべきか悩みに悩んだ末、声を潜めてレイダーに尋ねた。


「リリアさんはなぜこのような仕打ちを……? わずかに邪悪な気配はしますが……」

「あんたに話せないくらいの根深い理由がある」


魔王と裏切者の腹心など言えるわけがない。


「おっと、隣人を愛せよとか言うなよ。姫様に訊かれたら、神父様といえども首と胴体が離れるからな」


ブレッドマン神父はやはり聡明な人らしい。

レイダーの言葉から、あまり深入りしないほうが良いと判断したようだ。


「見て見ぬふりをします。神も事情を汲んでくれることでしょう」




不穏な空模様は変わらない。

リリアたち一行はペニエの村へと向かっていた。

足取りは軽やかではない。

二度と通らぬと思っていた道を再び歩くのは、妙な抵抗があるからだ。


「……気を付けてください。私がペニエの村へ向かっていることは、ポテト派にはバレております。必ず待ち伏せがあります」


ブレッドマン神父は緊張した面持ちで言う。

聖職者として気丈に振舞っているようではあるが、隠し切れぬ恐怖が見え隠れする。

たとえ同職とはいえ、神官戦士とはそれだけ恐怖の対象なのだ。


「そう怖がらんでもよい。ワシがついておる」

「そうでしょうか……」


ブレッドマン神父はなおも不安そうに見る。

得体のしれない女を囚人よろしく連れた少女に信頼を寄せるなど、聖職者であっても厳しいのだろう。


「カカッ! ワシをただの冒険者と思うでないぞ。芋を信奉する阿呆に後れは取らぬわ」


リリアが笑い飛ばしたその時であった。

不意に道を影が過った。

サージェントが驚き、盛大にこけた。つられてリリアの態勢が崩れる。

メイルが擦れる金属音がした。

レイダーが自然な動きで、ブレッドマン神父をカバーする位置へと体を移す。


「おお! 神よ!」


道端に不自然に生えていた茂みの中から、武装した2人組が飛び出してきたのだ!

帽子のようなケトルハットを被り、チェインメイルの上からサーコートを着ている。

そのサーコートには、なんと妙に写実的なデザインの馬鈴薯が描かれている。

メイスと盾を構えたポテト派の神官戦士だ!


「ブレッドマン神父、お命頂戴する!」


ポテト派の待ち伏せだ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ