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第49話 魔王、神父を助ける

振り返ればダンジョン周辺の出店街が遠くに見える。

周囲には高い木々も無く、拭き下ろしてくる風で背の低い草がさざ波のように揺れる。

暖かな陽の光。そして対照的なロープで縛られた女。

カヌレの街へと続く道を歩きながらショコラは尋ねた。


「この人、ほんとうに大丈夫なの?」


訊ねながら、短弓の矢尻でサージェントの尻をおっかなびっくり突いた。


「痛い!」


いとも容易く非人道的行為が行われる。

もっとも、人道などと言う概念はこの世界に存在しないが。

リリアはサージェントを縛るロープをぐいと引く。


「大丈夫じゃ。こやつ、極度の人見知りでのぅ。顔を隠さねば満足に人と話せん」

「話せますぅ!」


すかさず反論するサージェント。

しかし、魔王と魔王四天王では力の差は歴然である。


「目を見てかや?」

「それはちょっと……」


二の句が継げぬサージェント。

フロアマスターとしていきり飛ばした面影はまるでない。

鎧兜を砕かれて出てきたのは、ダウナーな雰囲気を漂わせる長身の女であった。

リリアは勝ち誇ったように鼻を鳴らす。


「そして、一度(ひとたび)グレートヘルムで顔を隠せば、ああいう風に盛大にいきり散らすんじゃ」

「うわぁ……迷惑」


ショコラがぐさりと致命の一言を言う。無邪気という名の鋭い一撃だ。

サージェントは瞳に涙を浮かべてぶるぶると震えるばかり。

カヌレの街に続くまで今後、幾度となく繰り返されるやり取りとなるだろう。


「とゆーかショコラよ。ワシが魔王リリアーヌと知って、よくもまあ普通に接していられるの」


リリアはふと思い出したかのように訊いた。

ダンジョンではあれだけ怯えていたのに、今ではそんな素振りすら見せない。

獣人特有のなんかだと思ったが、さてどうなのだろうか?

ショコラは鼻の頭にしわを寄せると、こめかみを両手でぐりぐりと押さえる。


「うーん。だって昔の人だし、あたしも良く知らないし。ヤバそうなのはわかるけど……まあいっか! みたいな?」


そして、あっけらかんとした顔で言った。


「それにレイダーの知り合いなんて変なのばっかだし!」


リリアは呆気にとられた。

目を細めると、くすりと小さく笑う。


「おもしろいやつじゃ。ワシはおぬしのそういうところが――」


リリアは途中で言葉を止めた。

何やら賑やかな集団が賑やかなことをしているのが遠方に見えたのだ。

具体的には、馬上の神父を引きずり下ろした野盗たち。

剣吞とした雰囲気を放ち、今まさに剣を振り下ろさんとしていた。

まるで――いや、そこはキリングフィールド化していた!




「レイダー!」


その声音は鋭く、まるで放たれたボルトのよう。


「御意!」


レイダーが地面を蹴った。

人間には決して真似できない跳躍力で、一気に野盗たちとの距離を詰める。

首に巻いたマフラーめいたボロ布が超自然的な光を放ち、尾を曳いた。


野盗の数は4人。

全員、グレートヘルムを被っており人相はわからない。

うち2人は剣を持ち、今まさに神父に手をかけようとしている。

後方の長柄を持った2人がレイダーの接近に気が付いた。


そして、気が付いたときにはすでに遅かった。

射程に入るなり、魔力の糸が野盗の両手両足を縛り上げる。


「まずは2人」


ゴキン、と鈍い音がした。

野盗の首が絶対に向けない角度を向いている。


「た、助けてください!」


レイダーを見止めた神父が、悲鳴にも似た声で助けを求めた。

剣を持った野盗がようやく振り向いた。

レイダーは魔力の糸で紡いだネットを射出。

野盗の身動きを封じる――が、


「信仰の前に面妖な魔法が効くと思うてか!」


驚くべきことに、野盗の1人が《捕縛3》で強化されたネットを破いて立ち塞がる。


「我がスキル《魔力喰らい》の前では魔法使いなど赤子同然!」

「なるほど。なら物理で行かせてもらう」


レイダーはネットを射出。

絡めとったのは道端に転がっていた頭ほどの大きさの石!

レイダーの右腕が大きくしなる。

魔力の糸で絡めとられた石は即席のフレイルとなり、恐るべき速度で野盗の左側頭部に襲い掛かる!

意表を突くその攻撃に、野盗は反応することができなかった。


激烈な衝突音とともに、グレートヘルムがその中身ごとバリスタめいて吹き飛んだ。

崩れ落ちる野盗。

そして、レイダーは名も無き魔剣を抜くと、ネットに捕らわれた野盗に突き立てた。

あっという間に死体の山が出来上がった。


「おい、大丈夫か?」


地べたにへたり込んでいる神父にレイダーは手を伸ばした。

手を伸ばしつつ魔力の糸が神父へと伸びる。


「神よ……幸運をありがとうございます。もう終わりかと思いました……」


馬上から引きずり降ろされた時に切ったのだろう、頬が血で真っ赤になっている。

神父は血を拭いもせずに後ろを振り返る。

野盗とは異なる恰好をした男が2人、事切れている。

馬も死んでいる。


「嗚呼、なんということか。代わりに彼らは主の元へ行ってしまいました。私を助けるために……」


神父は沈痛な面持ちで顔を伏せる。

レイダーはボロ布をぐいと口元まで上げる。乾燥薬草を吸うのは後にしたほうがよさそうだ。


「あんたが無事ならこいつらも本望だ」

「そうでしょうか」


ここで痛ましそうな顔の1つや2つをしたならば、説得力があったかもしれない。

しかし、どう考えても厄介な事件に巻き込まれたとしか思えない。


「ああ。で、神父様。事情を説明して頂けるかな?」


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