表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
45/93

第45話 村長、吊るされる

乾いた風が吹き流れる。

そこには僅かながら獣と血の臭いも混じる。

荒れた大地には茶色く丈の短い草が生え、緑を失った木々がそれを見下ろす。

あとは枯れ果てて砂埃とともに失せるのみだと告げるかのよう。


『オォーン!』


比較的近くで野犬が咆えた。


ここは暗黒馬鈴薯生産拠点ペニエ。

教会勢力のポテト派により完全制圧された異端の拠点である。

先を尖らせた丸太が乱杭歯のように並び、近づく者を威嚇する。


その入り口には大きな(やぐら)が立てられている。

固定台座のクロスボウが4つも設置された恐ろしい櫓だ。

そして、櫓の外側にはいくつものフックが備わっている。

これは禁を破った咎人(とがびと)を吊るすためのものである。

罰を与えるためではない。


――()の偉大な予言者は扇動の罪で吊るされた48時間後に、舞い降りる天使と主の御言葉を聞いた。

その故事に倣い、咎人を吊るすことで更生させるためのものである。


「うぅ……っ!」


呻き声だ。

そして櫓には1人の男が吊るされていた。

ペニエの村の村長であるラング村長である。

一体なぜ彼がこんなことに?


「ごきげんよう、村長」


言葉遣いは丁寧ながら、ねっとりと絡みつくような話し方だ。

金襴緞子(きんらんどんす)な法衣を身にまとった、ビスケ神父である。

ペニエの村を騙して制圧し、馬鈴薯の生産基地に変貌させた悪徳神父だ。

彼は傍らに2人の神官戦士を連れている。護衛である。


「うぅ……」

「ふむ。挨拶もできないのかね? それは困るな。今から聖なる問答をしなくてはならないのに」


村長が櫓につるされたのは2日前。

それより満足に食事も水も飲んでいないのだ。

彼の精神は蝕まれ、体力も気力も風前の灯火であった。


「村長、別の宗派に使者を出したな?」

「知りません」


ビスケ神父はぎろりと睨む。


「一昨日、何人かの村人が責務を放棄して、逃走したのだ。使者を出したのだろう?」

「知りません」


ビスケ神父は神官戦士に視線で命じる。

神官戦士は手にする長い木の棒で村長のわき腹を突いた。


「痛い!」

「使者を出したのだろう?」

「知りません」


実際、村長は知らなかった。

村長のあずかり知らぬところで、ポテト派の圧政に耐えられなかった村人たちが、決死の脱出劇を行ったのである。


「強情だな。ちなみにだが、その村人たちは主のもとに逝ったよ」

「エ?」

「罪を償うためにね。全員ね」


つまり全員死亡したのだ。


「あなたが送ったようなものだよ」

「うぅっ……知りません」


ビスケ神父は演技めいた仕草でため息をついた。


「ほんとうに強情だね。まぁいい。もう少し頭を冷やすといい。もしかしたら貴方にも天使の御姿と主の言葉が降りるかもしれませんしね」


ビスケ神父は再び神官戦士に命じた。

神官戦士は懐から木の皿と革の包みを取り出した。

皿を村長の足元に置くと包みの中から、おお! なんということか!

湯気が立つ、ふかした馬鈴薯である!


「村人たちが精魂込めて作った馬鈴薯37号だよ」


馬鈴薯の甘く優しい匂いが立ち上り、村長の鼻をくすぐる。

自然と口が開き、涎が垂れる。

しかし、吊るされている村長に与えられたのではない。

そのふかした馬鈴薯は、夜に野犬が食べるのだ。

これはその有様を見せつけることで精神を破壊する、なんとも非道な拷問である。


「明日、また来ます。その時には話してもらいますからね」

「やめろぉ……やめてくれぇ……」


ビスケ神父は返事をすることなく、踵を返して去っていく。

村長は力なく項垂れ、無限にも思える一日を過ごすのであった。



◆◆◆



「ハァー……! ハァー……!」


暗い森の中を男が1人走っていた。

衣服は至る所が切れ、血が赤く滲んでいた。

体中を激痛が襲うが足を止めるわけにはいかない。


「ジューン、ホテイル、ゴロウ……」


彼が口にしたのは、一緒にペニエの村から脱出した仲間たちである。

皆、足の速さと山歩きには自信があったが、生き残っているのは彼だけだ。

脱出する途中で、危険な野犬や殺人モンスターにやられてしまったのだ。

そして何よりも、一番執拗に彼らを追撃したのは神官戦士たちであった。


「くそっ、くそっ……!」


涙はすでに枯れた。

傷つき倒れる仲間を見捨てるのはどれだけ辛かっただろうか。

だから何としてでも村を襲った災厄――教会勢力ポテト派の蛮行を伝えなければ!


「あった! やっとだ! やっと……!」


森を抜けると希望があった。

カヌレの街近郊にある村、そこにある教会の尖塔が見えたのだ。

もちろんポテト派ではない。

害獣除けの粗末な囲いを乗り越え、男は教会へと走る。

そして、最後の力を振り絞り門扉を叩いた。


「助けて! 助けてください!」


門扉に備えられた覗き穴が開いた。

教会に勤める下男が顔を覗かせた。


「あなたは……?」


男の装いに、あからさまに不審がる。


「ペニエの村の村人です! 神父様! 神父様! 村を助けてください!」


男の気力もそこまでだった。

気を失い崩れ落ちる。

ほどなくして赤らかな明かりとともに、教会の扉が開かれた。

燭台を持つ下男は、気を失った男を見るなり顔色を変えた。

男の背には幾本もの矢が刺さっていたからだ。


「神父様……これはいったい」

「ただ事ではありませんね……」


下男の後ろにいた神父の表情が強張る。


「みなさん、急いで治療の準備を!」


慌ただしくなる教会。

希望の糸は辛うじてつながったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ