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土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
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第44話 魔王、そしてケリをつける

 赤熱した土埃が舞い上がり、破片や瓦礫がしきりに降り注ぐ。

 プラズマが発生し、稲光のように土埃の合間を走る。

 およそ人がいてはならない空間。


 レイダーと彼の腰にしがみつくショコラは、周囲に展開された重力障壁により無事である。

 だが、洒落にならない破壊的行動を前に言葉を失っていた。

 仁王立ちするリリアが、尻餅をついたままのサージェントを悠然と見下ろす。

 リリアはフードを上げた。

 押し込めていた美しい金髪が、闇の中のスポットライトめいて溢れ出す。


「怖いか?」

「な……!」

「くくくっ。ワシが怖いか?」


 リリアは一歩近づく。


「魔法封じの結界も、そのガラクタの鎧も、ダンジョンの奥底でフロアマスターをしておるのも、全て全て全てワシが怖いからじゃろ?」

「な、なにを!」

「身体は正直じゃな。ほれ、震えておるではないか」


 サージェントは無意識に自分の腕を掴んだ。

 じっとりと汗が浮かんでいた。


「いつの日か――甦ったワシが仕返しに来る。そう考えると、怖くて怖くてたまらなかったんじゃろ?」


 サージェントは尻餅をついたまま後退る。

 しかし、リリアが距離を詰めるほうが早い。


「ま、待て! 俺を殺したところで何も変わらん! 過去の過ぎた話だ、考え直せ!」


 リリアは何の感慨も浮かべない表情で、無慈悲に告げた。


「命乞いの機会は200年前に失っておるぞ」

「う……うおおおおおおーッ!」


 破れかぶれだ!

 ばね仕掛けのようにサージェントが立ち上がった。

 魔法のダガーを連射しながら、自身も手に光の剣を生んでリリアに突っ込んでいく。

 いかに魔王とて刺せば死ぬ!


「愚か者め」


 だが、魔法のダガーはその全てが重力障壁により防がれる。

 生じた斥力に弾かれ、あらぬ方向へと飛ぶ。

 そして、リリアが伸ばした手の先には超自然的な漆黒の球体。

 幾何学的文様をした魔法陣が10枚展開された。

 まるで砲身めいてサージェントへと伸びる。


「うおおおおおおーッ!」

「さらばじゃ」


 放たれた重力球は魔法陣をくぐる度にその速度を増す。

 サージェントは重力球を叩き切ろうと、大上段から光の剣を振り下ろす――が、無駄である!

 刃が高密度の重力により捻じ曲がる。


「バカなーッ!」


 悲鳴と共に、サージェントは重力球の直撃を受け吹き飛ぶ。

 勢いそのままに背にした扉を突き破り、遥か闇の向こうへと消えた。

 遅れて着弾の余波が荒れ狂う暴風となって押し寄せる。


 土煙が全て流され、視界がクリアになる。

 カヌレ大ダンジョンを、長きにわたって采配していたフロアマスターが倒された瞬間であった。

 リリアは未だ眼光鋭く、闇の向こうを見る。


「姫様、ご苦労様です」


 労いの言葉をかけたのはレイダーだ。

 首に巻いたボロ布からの発光は止まっている。

 リリアはレイダーの方を向かず、まっすぐ扉の向こうに視線を向けたままだ。


「うむ。元部下の不始末を付けるのは上の責任じゃからな。しかし……あれが元四天王とは。あの程度で四天王とは。ワシは耄碌(もうろく)していたのかもしれぬ……」


 気のせいだろうか。

 どこか気落ちしたような雰囲気が漂う。


 微妙な雰囲気の変化に気付いたようで、レイダーとショコラは互いに顔を見合わせた。

 ショコラはすかさず肘でレイダーのわき腹を付く。

 お前がなんとかしろ――と。

 レイダーは肩を竦め、軽く咳払い。


「そんなことはないと思うぞ」


 リリアの小さな肩に手を置いた。


「本性とは表面だけではわからん。あの木っ端魔族が、腹に抱えるものを隠すことが上手かっただけかもしれん」


 レイダーは不意に口元を緩めた。


「次から気を付ければいいだけだ」

「そうじゃな。うむ……そうじゃな」


 リリアは視線を僅かに下げた。

 ダンジョンコアと思しき禍々しい混沌の気配が感じられる。

 直に魂を撫でられるような不快感。

 負の感情だ。

 手勢を倒されたためであろうか。


「混沌の神々の(しもべ)め。さぞ、くやしかろう」


 間近にいるレイダーにも聞こえないほどの小声でリリアはつぶやいた。

 その口端は僅かに上がっている。

 笑みだ。


「姫様?」


 レイダーが怪訝に思い、声を掛ける。

 が、


「帰るぞ。ここにもう用はない」


 リリアは踵を返した。


「用はないのじゃ」



◆◆◆



 陽の光が目に染みる。

 たかだか1日程度、ダンジョンに潜っていただけだというのに。

 しかし、たかだか1日でダンジョンは様変わりしてしまった。

 フロアマスターはいなくなり、下層の難易度は大幅に低下。

 Sランク冒険者パーティーが本気を出せば、幾日もかからずに制覇してしまうやもしれない。


 とはいえだ。

 そんなこと魔王には関係ない。


「うむ。どこぞの警備担当とは違い、しっかり仕事をしておるの」


 ダンジョンの入口を警備している警備兵に、リリアは実に偉そうに言葉をかける。

 また、多少の嫌味はあるに違いない。

 レイダーとショコラは互いに顔を合わせ、呆れたように肩をすくめた。

 あえて言うまい。


 警備兵は1、2、3、4と人数を数えた後、愛想笑いなんかを浮かべつつ、


「まぁ、仕事ですから」


 どこか事務的な口調で返す。

 それから警備兵はちらりと視線を向けると、意を決したように尋ねた。


「で……その方は?」


 訝しむのも仕方がない。

 なぜならその女は顔面をボコボコに腫らし、ロープでぐるぐる巻きにされ、その端をリリアが掴んでいるのだから。


「うむ。捕虜じゃ」


 リリアは笑顔で物騒なことを言う。


「ダンジョン内で狼藉を働いたからぶっ殺すのじゃ」


 物騒すぎるワードは時として冗談と思われる。

 警備員は触らぬ神に祟りなしといったように、深くは触れようとしなかった。

 しかし、その女はリリアが冗談を言うタイプではないことを知っている。

 本気で言っているのだと知っている。

 ゆえに、サージェントはさめざめと涙したのであった。


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