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土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
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第43話 魔王、わからせる

 剣が独りでに引き抜かれる――その柄には魔力の糸が繋がっていた!


 サージェントが阻止しようとするがもう遅い。

 鞘から剣が引き抜かれ、大きく弧を描いてレイダーの元へと引き寄せられる。

 それはまるで大怪魚の一本釣り!

 魔剣と思しき怪光を放つ刃先が天井に触れ、火花が散る。


「たわけ。誰を相手にしているつもりじゃ?」


 リリアは嗤う。


「魔王自らが率いる小隊(パーティー)じゃぞ」


 然り。

 壁に掛けられた超自然の青い炎が同時にすべて揺らめいた。


「こちらはショコラですら矢をつがえているというのに、おぬしはぴーちくぱーちく喋ることしかせん。そんな輩にワシらが後れをとるわけがなかろうて」


 サージェントはリリアの迫力に気圧され、後退る。

 決して侮ってはいけない相手であることを失念していた。

 200年前にまんまと出し抜いた経験が原因か。

 否、そんなバカな。


「レイダーよ、やれ」

「仰せの通りに」


 レイダーは右腕を、魔力の糸を横薙ぎに振るった。

 サージェントの剣がまるで意思を持っているかのように、所有者本人目掛けて襲い掛かる。

 バリスタめいて放たれた魔剣を、サージェントは紙一重で躱す。


「人の武器で小癪な真似をッ!」


 サージェントの手中に光る魔法のダガーが生まれた。

 魔族独特の詠唱破棄。

 投擲モーションもなく、光の尾を曳いてレイダー向けて発射される。


「その手品で掴んでみせろよ! エェ?」


 しかし、ショコラが放った矢が魔法のダガーを空中で撃墜する。

 驚くべき弓の腕前だ!


 あっさり防がれ、呻くサージェント。

 そして、そのまま後方へ二連ジャンプし、大きく距離を取る。

 金属鎧を着ているとは思えないほどの俊敏さだ。

 このサージェントの行動、糸の範囲外へ逃げようという魂胆だろうか。

 だが、この生まれた隙をレイダーは見逃さない。


「それで四天王を名乗るか。甘いな」


 続けざまにレイダーが腕をしならせる。

 標的を捉え損ねた剣が軌道を変え、再度サージェント目掛けて斬りかかる。

 狙うは着地の瞬間。

 最も無防備で回避ができない瞬間だ。


 が、


 突然魔力の糸がぶつりと切れ、魔剣が重力に引かれて落ちた。

 いったい何事か⁉


「ははッ! この俺が何の策もなしに、お前らを12階層に招き入れると思ったか! ばかめ!」


 部屋の端々に置かれた怪しげな置物たち、その目が鬼火めいた光を放っている。

 それらを起点に地面が輝きを放つ。

 部屋の後半に生まれたのは幾何学文様の魔法陣!

 レイダーの魔力の糸を断ち切ったのはこの魔法陣である。

 その名も魔法封じの結界。


「この結界は魔王城と同じ代物で術者以外の全ての魔力を封じる。いかに姫様とて破れはせん! 俺の勝ちだ!」


 サージェントは勝ち誇ったように高らかに宣言する。

 重力制御魔法が生み出す、圧倒的破壊力の重力球さえ封じてしまえば魔王とて無力。

 魔王に叛旗(はんき)を翻した者ならではの発想だ。

 この魔法陣こそ、過去にSランク冒険者パーティー『鉄龍騎士団』を壊滅せしめたサージェントの秘策である。

 ショコラがすぐさま矢で置物を射ろうとするが、


「置物はただの媒体、破壊したとて結界自体は崩せん!」

「うるさい! おらー!」


 構わずショコラが矢を放った。

 しかし、サージェントの言う通り、狙い違わず矢は置物を破壊するが結界は消えず。

 砕けた鳥のような馬のような置物の生首がせせら笑う。


「獣人風情が無駄なことを。なぜならこの広間自体が結界と化しているのだ! ふははは! 魔法もなしにこの広間を破壊できるか? 俺の知能と策略が恐ろしいか?」


 サージェントの両手に魔法のダガーが生まれる。

 魔法を禁じて魔法を撃つ。

 設置した本人は魔法を発動できるという反則めいた結界だ!


 レイダーは無言で佇む。

 ショコラは困ったように弓矢を構えている。

 そして――リリアだけは笑みを浮かべた。


「な、なんだ? 何がおかしい?」


 狼狽えるサージェントに向かってリリアは静かに告げた。



「茶番はお終いじゃ――」



 滅紫色の魔力が吹き荒れ、リリアの側頭部に2対の角が生まれた。

 リリアの右拳に重力球が発生!

 リリアの左拳に重力球が発生!

 2つの重力球は人の頭ほどの大きさへ膨れ上がる。


「ばかめ! 重力球とて魔法、俺には届かん!」


 サーヴァントが咆える。

 しかし、リリアは構わず重力球を胸の前で互いにぶつけた。



 その瞬間、重力バランスが崩壊し――音が消し飛んだ。



 リリアを中心に閃光と熱風と衝撃波が生じ、同心円状に伝播してゆく。

 石の床が捲れ上がり、壁が崩壊、天井が崩落。

 遅れて雷鳴にも似た轟きが鳴動する。


「な、なんだ⁉」


 押し寄せる衝撃波を前に、サージェントはとっさに守りの魔法を展開する。

 人の魔力では扱えぬ六重防御障壁!

 しかし、守りの魔法ごとサージェントは、殺しきれなかった衝撃波を受けて吹き飛ばされた。


 赤熱した土埃が舞い、視界を覆う。

 常人ならば死んでいただろう。

 口の中に血の味が広がった。


「ばかな……!」


 血の混じった唾を吐き出し、膝を付くサージェントは周囲を見た。

 大小の瓦礫が転がる無残な有様の広間を。

 現実が信じられず、もう一度繰り返す。


「ばかな……!」


 魔法封じの結界は消滅していた。

 今のは重力バランスの崩壊による衝撃波であり、魔法ではない。

 その証拠に対魔法防御が仕込まれた白銀の鎧は砕け、下地が露になっていた。


「そんなこと……そんなことが……ありえん……」


 声が震えていた。

 ハッと息を呑み、サージェントは正面を見た。

 ゆらりと、土煙の向こうに揺れめく黒い影を見止めた。

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