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土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
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第42話 魔王、裏切者と対峙する

 扉の向こうは、闘技場を連想させるような円形上の広間であった。

 壁にはいくつもの燭台。

 しかし、揺らめく炎の色は青く、超自然的を感じる。

 また、広間には何もないわけではなく、壁際に置物が置いてある。

 鳥のような馬のような形の土器だ。

 異様な雰囲気を放っており、薄気味悪くもある。


「リリアーヌ……まさか生きていたとはな」


 静かな、しかし確かな怒気を孕んだ声が響いた。

 広間の中心には、白銀の板金鎧を着こんだフロアマスター、サージェントが佇んでいた。

 剣は抜いておらず、腰の鞘に納めたままだ。


「それはワシの台詞じゃ。まさかとは思うておったが驚いたわ」


 リリアが決断的な歩みをもって広間へと入った。

 淡々と言う姿はとても驚いているようには見えない。


「ほめてやろう。よくもぬけぬけとワシの前に出て来れたものよのう。この裏切者めがッ」


 リリアの足元から魔力が吹き出し、揺らめく。

 サージェントは冷静に言い返す。


「裏切者? 見切りを付けた泥船から脱出するのは当然のことでは?」


 グレートヘルムの奥から向けられた視線は鋭い。

 にらみ合う2人。

 そこへ、レイダーがリリアの傍らに立った。


「何か遺恨があるように見れる。普段なら首を突っ込みはしないが……しかし、俺たちが置いてきぼりというのも面白くない。姫様、説明して頂けるか? あいつは?」


 首に巻いたボロ布の先端がチリチリと光を発している。


「あやつは元魔王軍四天王の1人。前に言うたであろう、我が四天王には裏切者がおると」


 リリアは一旦言葉を切った。そして、口に出すことすら心底嫌そうに続ける。


「あやつがその裏切り者じゃ。魔王城の警備担当だったというのに勇者側に寝返りおった。おかげで裸同然の魔王城はあっさり陥落じゃ」


 そこには自嘲もあったのかもしれない。

 遠い目をするリリアは口元を緩めた。


「木っ端魔族が故、名前も忘れてもうたがな」


 サージェントは嘆かわしいと言うかのごとく、ため息をついてみせた。


「リリアーヌよ。俺はサージェントだ」

「素顔のみならず本名すら口に出せぬとは。堕ちたものよのう。このような穴倉の奥深くで粋がるのがお似合いじゃ」

「貴様ァ……」


 あからさまにサージェントは頭に血が上っている。

 間接的に倒したと思っていたリリアが生きていたことにか。

 あるいは裏切者と罵倒されることにか。


「何が裏切り者だ。誰もかれも俺のことをバカにしやがって……生き残ればいいんだよ。生き残れば勝ちなんだよ! エェ? 違うか! エェ⁉」

「ではおぬしの負けじゃな」


 たった一言にサージェントが狼狽える。


「な、何を⁉」

「わしはあの戦いを生き抜いて今ここにいる。そして、おぬしは今ここで死ぬのだ」

「戯言をッ!」


 サージェントは両の拳を握りわなわなと震わせる。

 未だ襲い掛かる気配はない。

 それよりも長年ため込んだ鬱憤を晴らすほうが先だと、サージェントは無意識に優先したのだ。


「レイダー、ショコラ。すまぬ。ここまで力をかしてくれたというのに。こやつは魔王軍に引き入れるのは無理じゃ。今ここでワシが引導を渡さねばならん」


 リリアの視線は鋭く、そこには明確な殺意が色濃く表れていた。

 ヘルタイガー盗賊団を消し飛ばした時と同じように。


「仰せの通りに」


 レイダーは恭しく頭を下げた。

 元よりリリアに異を唱える気などない。

 レイダーは利用するつもりとはいえ、率いるのはリリアだ。

 彼女の魔王軍に不穏分子を入れるなど、自分の汚れ仕事が増えるだけである。

 四天王と知ったその時から、リリアが見逃しても処理をするつもりでいた。

 したがって、


 ――いたって問題なし。


 つんつんと背中を突かれた。

 さすがのリリアとて元四天王を前に振り返りはしない。

 リリアの背中を突いたのはショコラである。


「ちょっと待って。魔王? え?」


 彼女は顔面蒼白になり、耳はぺたりと倒れている。


「いかにも。ワシは魔王リリアーヌ」

「ほんとぅ?」


 その聞き方は、疑うというよりも嘘であってほしい言ったほうが正解か。

 リリアは目を細めて笑う。


「ふふっ。嘘か真か、おぬしの好きな方にとるがよい」


 とても意地悪そうに。




 サージェントは肩を揺らした。


「引導を渡すだと? お前が、この俺に?」


 そして、嘲るような口ぶりで人差し指を突き付ける。


「笑わせてくれる。200年前ならまだしも、今のお前はチカラを相当失っているくせに」


 リリアの片眉がピクリと跳ねた。


「それがどうした? 所詮、四天王など露払いよ。元よりワシとの実力差は明確じゃ。それが多少埋まったところでどうというのじゃ?」


 煽りや怒りは一切ない。

 淡々と事実を述べるかの如くリリアは言う。

 サージェントは突き付けた指を下ろすこともできず、黙り込む。

 リリアが一歩踏み出た。


「それに、じゃ。ワシらはすでに得物を抜いているというのに、おぬしはまだ剣すら握っておらん。戦う以前の話とは思わんか? なあ、レイダーよ」


 レイダーが首に巻いたボロ布が超自然の光を発する。

 サージェントは気が付くのが遅れた。

 この従者めいてリリアの傍に立つ男が、魔族に類するものであるということを!


「貴様! いったい何を⁉」


 レイダーが右腕を思いっきり引いた。

 既に彼の手からは魔力の糸が、地面を這うようにして伸びている。

 その先はどこに繋がっているのかというと――サージェントの剣の柄である!


「ばかな⁉」


 独りでに引き抜かれる自分の剣を見て、サージェントは驚愕した。


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