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土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
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第41話 魔王、蹂躙する

 暗く深いダンジョンの奥底。

 血と炎と煙が立ち込める。

 悲鳴が上がった。

 人外の者たちの悲鳴が。


 もうもうと巻き上がる土煙を掻き分けて、リリアが歩み出る。

 強者のみが許される壮絶な笑みだ。

 彼女の周囲には漆黒の超自然的球体が従者めいて浮かぶ。

 リリアは手を伸ばした。

 その先には厚みを感じさせない魔法陣が3枚。

 目にするなりオークやオーガたちが武器すら捨てて背を向ける。

 恐ろしいバケモノから我先にと逃げ出したのだ!

 構わずリリアは重力球を撃ち込んだ。


「はーはっはっはっ! 怯えろォ! 竦めェ!」


 蹂躙するリリアを、魔王を止められる者などどこにもいない。

 地下6階にあった隠し階段を下りたリリアたちは、そこが最下層に近い地下11階とわかるなり、モンスターたちに急襲をかけたのであった。

 おかげで、カヌレ大ダンジョン地下11階は殺戮と破壊の大宴会場となっていた。


「姫様、あまりやりすぎてはダンジョンが崩壊しかねんぞ」


 悪役じみた高笑いをあげるリリアを、さすがにレイダーはたしなめた。

 ダンジョンの至る所に大小の亀裂が走っていた。

 リリアは鼻を鳴らして否定する。


「ここはダンジョンじゃぞ。やわな造りなわけがあるか。自己修復くらいお手のものじゃ」


 リリアは不意に言葉を切ると、


「まあ少しやりすぎたというのは認めざるをえんがの」


 彼女の視線の先にはぶるぶる震える獣人。

 ショコラは怯えながら「これは夢だこれは夢だ」と繰り返している。実際不憫だ。

 ただ、目の端に涙を浮かべてはいるが、矢をちゃんとつがえ、矢筒の矢も減っていることから、目立ちはしないものの戦ってはいるようだ。

 リリアは声のボリュームを少し落とす。


「のぅ。あやつにワシの正体を教えたほうが良くないかや?」

「いや、もっと衝撃を受けるに違いない。止めておく方がいい」

「ふむ。ならそうしておこう」


 そう言うやいなや、リリアは人差し指の先に重力球を生み出した。

 それを壁向けて撃ち込む。


『GRRR!』


 壁の向こうから悲鳴が上がった。壁貫だ。

 恐るべきことに気配だけで狙ったのだ。


「しかし、じゃ。レイダーよ、気付いておるか?」


 リリアは油断なく周囲を見渡す。

 モンスターたちの気配はない。全て倒したか全て逃げたか。あるいは。


「気付く? 何を?」

「殺気から襲って来る鬼どもや魔獣ども、ワシらを組織的に攻撃しておる」


 リリアは薄い笑みを浮かべて、奥へと向かって真っすぐ歩いていく。


「そして、この布陣、この波状攻撃、この引き際。見覚えがある」


 ひどく懐かしそうに言った。

 レイダーはリリアの言葉に不穏なものを感じた。

 彼なりの直感だったのだろう。


「それは――」


 どういうことなのか? とレイダーが尋ねようとした時だった。


「あれ……!」


 急に正気に戻ったショコラが前方を指差した。

 闇の向こうにぼうっと朧げに浮かぶのは、大きな扉であった。

 それこそトロールですら易々とくぐれるほどの大きさがある、両開きの扉であった。


「11階の出口だ! たぶん」


 ショコラは安堵のため息とともに胸を撫で下ろした。

 11階層から脱すれば、これ以上非現実的な戦闘風景を見ないで済むと思ったのだろう。

 リリアの圧倒的暴力はダンジョンの敵をすり潰すと同時に、ショコラの精神も摩耗させていたのだ。


 だが、このカヌレ大ダンジョン、そう易々と階下に行けるものではない。

 リリアたちの歩みが止まった。

 出口の前にシルエットが1つある。


 ショコラの耳がぱたんと倒れ、尻尾がふにゃりと萎んだ。

 レイダーのマフラーめいたボロ布が超自然の光を発する。

 リリアは挑戦的な表情を浮かべた。


「喜べ。当たりじゃ」




 それは人型のシルエットであった。

 だが、もちろん胴に腕と足があるという人型なだけであり、人間ではない。

 近しいのはゴーレム。だが、黒色の表面には金属質の光沢があり、大柄で、生物的な曲線のフォルムをしている。

 レイダーはリリアの言葉に訝しんだ。


「姫様、当たりとはどういう意味だ? あのゴーレムもどきと関係が?」


 ゴーレムもどきはリリアたちの姿を捉えると、ゆっくりと近づいて来る。

 眼窩にウィルオーウィスプめいた赤い光が揺らめいている。

 両腕には太いクローが3つ備わっている。


「おぬしですら知らぬのか?」


 リリアは少し驚いた。

 レイダーなら全てを知っているものだと、どこかで思い込んでいたからだ。


「あれは魔力が伝わりやすい蟲の外骨格を利用した傀儡じゃ。術師が注入した魔力で動く」

「傀儡……」


 傀儡と聞いてレイダーは嫌そうに顔をしかめた。


「うむ。ゴーレムより防御力やパワーは落ちるが、より滑らかに動く。注入した魔力量で強さが上下するのが難点じゃ。魔法防御も強い。ワシらはあれを傀儡蟲(くぐつむし)あるいは魔力で動く者(オーラバトラー)と呼んでおる」

「なんだか……ギリギリなネーミングセンスだな」


リリアはレイダーのつぶやきを決断的に無視する。


「あれを満足に動かせるのは魔族くらいじゃ。燃費が悪すぎる。人やエルフなら相当の腕がないと無理じゃ。ゆえにあの扉の奥には魔族がおる」


 傀儡蟲が両腕のクローを威圧的に鳴らした。

 鎧を着ていたとしても、人の手足など簡単に引き千切れるほどの鋭利さだ。

 11階層最後の刺客として相応の戦闘能力があるに違いない。


「しかし、なんとも下手な造りじゃ。装甲の繋ぎは甘いし、バリも残ったまま。仕上げせずに(のこ)で切ったものを、そのまま付けておるのかや? かーッ、見てみよあのクローを。面取りがブレておるではないか!」

「……詳しいな」

「ワシ、ゴーレム作りが趣味じゃったから」


 得意げな顔のリリアに、レイダーは「はぁ」と答えるしかなかった。


「とゆーわけで。満を持して出てきたところを悪いが、速攻で片付けさせてもらうぞ!」


 リリアは駆け出すと同時に重力球を放つ。

 魔法陣2枚を潜り抜けた重力球。

 傀儡蟲はそれを、対魔法防御が施されたクローで叩き落とそうとする。


 が、その目前で重力球が弾けた。

 漆黒の重力障壁となり、視界を覆い隠す。

 目くらまし!

 リリアがスライディングしながら傀儡蟲の下へと潜り込んだ。


「何の魔法防御を有しているかは知らぬが、至近距離では役に立つまいて!」


 彼女の手のひらには小さな重力球。

 それがランスめいた形状に変化!回転しながら傀儡蟲を天井まで突き上げ、一気に外骨格を抉り貫いた。

 砕けた外骨格の破片や中身を辺りにまき散らしながら、傀儡蟲の身体はダンジョンの天井に激突する。

 当然のごとく機能停止。


 無残な残骸がばらばらと降り注ぐ中、リリアは残心した。

 そして、広範囲に散らばる残骸の中から宝石を1つ拾い上げた。

 紫色の小さな宝石だ。

 だが、無数のヒビが入ったかと思うと粉々に砕けて散った。

 魔力の残滓(ざんし)を感じる。


「くくくっ」


 自然と笑いが混み上がってきた。

 同時に胸中に沸き起こる黒くどろりとした感情。

 懐かしくさえある。


「さて、フロアマスターが待っておるぞ。首を長くして待っておるぞ」


 リリアは両開きの扉を押し開けた。

 軋む音がやけに大きく聞こえる。

 扉の向こうには、広間があった。

 そして、彼女たちを出迎える者が1人いた。


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