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土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
39/93

第39話 魔王、悪用する

 ほのかに錆の臭いがする。

 巧妙に隠された偽装の向こうにあったのは古びた鉄製の扉。

 表面には『開けるな。危険』と、古のルーン文字が刻まれている。


「これはいったい……」


 レイダーに続いてショコラがおっかなびっくり入ってきた。

 その尻尾はぺちゃんこだ。

 しかし、ショコラは扉を見るや否や、


「うわ! 未発見の扉!」


 急に元気を取り戻すとレイダーを押しのけて扉にかじりつく。


「そのようだな……で、姫様はいったい何をしてらっしゃる?」


 リリアもまた扉に張り付き、鍵穴を凝視していた。

 すぐさまレイダーは訂正する。


「いや、何をしているのではなく、いまから何をしようと?」


 疑問というよりは呆れの色が濃い。

 リリアは振り返る。


「何をするって……のう、ショコラよ」

「うん。もちろん、ね」


 2人はあからさまに悪い笑みを浮かべていた。

 企み事をする者の笑みだ。


「扉の向こう、何があるかわかるかや?」

「魔法のせいでよくわかんない。スキルが妨害されてる」


 不穏な会話だ。

 レイダーは数瞬迷ったのちに訊く。


「姫様、まさか扉を開けるつもりで?」


 急ぎ最下層に行き魔族を探すのではなく、デッドウェイトになり得るお宝を優先するということか?

 先ほどのリリアの物言いとは正反対の行動に困惑を隠せない。


「レイダーよ。おぬしは知らぬじゃろうが、かつて魔王国の法律には閉じたるものは開けよという文言があってな……」


 レイダーは何も言わず、じっとリリアを見る。

 瞳だけで問いただす。


「まぁ、あれじゃ。金は大事じゃぞ」


 リリアは気難しい顔を作る。


「国家の運営も軍隊の運営も金がかかる。魔王城の維持もそうじゃ。我が現・魔王城も綱渡りで存続しておる」

「家の件は姫様が倹約せず、欲望のままに飲み食いしているせいでは?」

「あーあー聞こえん聞こえんなー」


 リリアは鍵穴に向けて手をかざす。

 じわりと滲み出た魔力が滅紫色の輝きを放ち、鍵の形を作る。


幻想鍵(マスターキー)


 リリアの魔法と鍵穴にかかった魔法が相互干渉し、激しく光る。

 無論、魔王の魔法に耐えられるわけがない。

 あとは物理錠をどう開けるかだ。


「まかせて!」


 ショコラが腰の袋から、名状し難い鍵開け道具を取り出した。

 それらを鍵穴に刺し込み、手慣れた手つきでガチャガチャと操作する。

 ほどなくして錠が落ちる音がした。

 リリアとショコラは、イェーイ! と互いの拳を合わせる。


「んふふふっ。ワシとショコラで開けられぬ扉はないぞ」

「ねー。わかる」


 両手に重力制御魔法を展開して、リリアは重い鉄の扉を触れることなく軽々と押し開けた。

 古びた埃っぽい空気がなだれ込んでくる。


「なんじゃ……これは?」


 リリアは扉の向こうを見て唖然とした。

 彼女たちの前に現れたのは、金銀財宝でもマジックアイテムでも魔石でもない。


 階段だ。


 遥か地下へと続く階段が現れたのだ。

 それはまるでぽっかりと空いた深淵。

 リリアの明かりの魔法でも、階段の先を照らすことができないほど深い。

 レイダーの表情が曇った。これは想定外だ。


「姫様、どうする?」


 この階段、明らかに危険な香りしかしない。

 いったいどこへ繋がっているのか見当もつかない。

 リリアは階段の先を見据えていた。


「どうするじゃと? もちろん降りるに決まっておる」


 有無を言わせぬ物言いであった。

 同時に目配せをする。

 ――何かあればショコラを連れて脱出せよ、と。


 階段を前にショコラは怯え、小刻みに震えている。

 レイダーは頷くと魔力の糸を1本、ショコラの腰に巻きつけた。

 もしもの時は一本釣りの要領で後方へ引っ張り上げるのだ。

 それを確認すると、リリアは一歩踏み出した。


 引き返すという選択肢は端っから無い。

 なぜなら、この階段の先から一際大きな魔の気配を感じるからだ。



◆◆◆



 揺らめく炎の明かりが地下迷宮を照らす。

 金属が擦れ合う音と複数の足音がした。


「うわぁ……えげつねぇな」


 松明を持ち、先頭を行く戦士然とした男が顔をしかめて呟いた。

 リリアたちが隠し階段を降り始めて数分後、別の冒険者パーティーがやって来たのだ。

 図らずもリリアたちの殺戮の後を追うような形である。

 4人パーティーらしい。

 戦士が2人に盗賊が1人、魔法使いが1人といういかにもダンジョン探索を目的としたパーティーだ。


「盛大にぶっ殺してるな……しかも殺しただけで剥ぎ取りも無し」

「うわ、巨大鋏蟹(シザースキャンサー)まで……」


 松明を持つ戦士はモンスターの死骸の傍にしゃがみ込むと、しげしげと見る。


「さっきから不可解なんだが……射殺しているのはわかるが、他のはどうやって倒したんだ? まるでわからんぞ」


 板金鎧よりも強固な甲殻がひしゃげ、砕けている。

 メイスやフレイルでも不可能な破壊痕である。


「どうやら相当お強い冒険者サマが通ったんだろな。うわっ!」


 足下が暗かったせいで盗賊が巨大鋏蟹(シザースキャンサー)の鋏に躓いた。

 盗賊はよろけ、壁に肩を強かにぶつけた。



 そこは、リリアたちがすり抜けた壁である。



「痛ぇ」


 盗賊は苛立たしげに壁を殴った。


「おいおい、気を付けろよ」


 冒険者パーティーは巨大鋏蟹(シザースキャンサー)の身を少々剥ぎ取ると、さらに奥へと向かう。


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