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土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
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第38話 魔王、発見する

「ARRRRRR!」


 突如として襲いかかるのは巨大な蛇のモンスター! 紫王蛇(パープルバイバー)だ!

 迷宮の壁に空いた穴より、奇襲をかけてきたのだ。

 しかし、いくらモンスター化しているとはいえ所詮は蛇である。


「ヘビ風情が。俺を襲おうなど片腹痛い」


 レイダーが右手を向けると、マフラーのように巻いたボロ布が超自然的光を発した

 スキル《捕縛3》による魔力のネットを放つ。

 魔力のネットは紫王蛇(パープルバイバー)を絡み取り、その身動きを封じる。

 そこへショコラが矢を放つ。


「やーッ!」


 紫王蛇(パープルバイバー)の頭に矢が突き刺さった。

 レイダーの補助があるとはいえ、正確に射抜く弓の腕は凄い。

 紫王蛇(パープルバイバー)は即死した!




「GARRRRRR!」


 突如として襲いかかるのは巨大な蟹のモンスター! 巨大鋏蟹(シザースキャンサー)だ!

 迷宮の壁に空いた穴より、奇襲をかけてきたのだ。

 しかし、いくらモンスター化しているとはいえ所詮は蟹である。


「横にしか動けないとは嘆かわしいな。それ、楽にしてやろう」


 リリアが右手を向けると、その手のひらの中心に光すら飲み込む漆黒が生まれた

 濃密な魔力を練り上げて生み出した重力球を放つ。

 魔法陣1枚を潜り抜け加速した重力球は巨大鋏蟹(シザースキャンサー)の重力を数倍に変化させ、身動きを封じる。

 そこへリリアは追加の重力球を放ち、甲羅を一撃のもとに粉砕する。

 クロスボウの矢すら弾く甲羅を容易く砕くほどの破壊力。

 巨大鋏蟹(シザースキャンサー)は即死した!




 リリアたちは器物損壊罪を恐れることなく、さらに壁や地面を砕いて地下へと降りる。

 時間を優先した結果である。

 代償として、そこに冒険は一切ない。

 魔族を見つけるという目的のみを追求した、まさに合理的手法だ。

 しかし、地下6階に達する頃、とうとうリリアは口をへの字に曲げた。


「歯ごたえがない」


 彼女の後ろには砕けた石材と肉片、血だまりが続いていた。

 地下6階に降りるなり、襲い掛かってきたモンスターだったものたちだ。

 皆、無謀にもリリアたちに襲い掛かり、そして容易く斃された。


「大ダンジョンとは名ばかりじゃな。ワシが統率すれば難攻不落の要塞が出来上がるというのに。勇者すらやっつけられるぞ」


 リリアはまだまだ奥へと続く迷宮を睨みつける。

 だが、1つ言い訳をするなら、ここはまだ地下6階であることだ。

 冒険者ランクで言うならば、Bランク相当の冒険者たちが探索するエリアである。

 まだ序の口。

 それ以上の強者たちはさらなる階下へと向かう。

 そして、ダンジョンの本当の恐ろしさを知るのだ。


「そうは言うが、姫様はこんな穴倉にずっと引きこもれないだろう?」


 レイダーは鋭い指摘をする。

 SCSのニュースもクッキーもヌードルも毛布もない地下生活だ。

 魔王が耐えられるわけないと思ってのことである。


「何を言う。大戦の折、ワシがどれだけ地下要塞や塹壕を作ったものか」


 しかし、リリアは引きこもることができると明言は避ける。

 魔王的リスクヘッジだ。


「んん? なんの話?」


 はてなマークを大量生産するショコラが首を傾げる。

 リリアはちょっとだけ背伸びをすると、ショコラの頭をなでた。


「ショコラは気にしなくてよい」

「うん!」

「そう――気にしなくてよいぞ」


 リリアはちらりと天井を見た。

 正確には天井にできた大穴の縁を。

 重力制御魔法が生み出す虚無の剣で穿った孔が、僅かに顫動している。

 これはいったいどういうことか。

 そう、ダンジョン自体が自己修復をしているのだ。


「さすがは混沌の神々。この空間に作用する魔力は相当のものじゃな」


 リリアは極めて不愉快そうに言う。


「あまり長居はしたくないのぅ」


 自分こそ混沌の神々の祝福を受けた存在であるというのに。


「何か言ったか?」


 レイダーが真っすぐ見てくる。


 ――耳敏(みみざと)いやつめ。


「空耳じゃ。ワシは何も言っとらん」


 鼻を鳴らし、おもむろにリリアは壁に背中を預け――

 リリアの姿が消えた!


「な!」


 一瞬の出来事にレイダーすら反応が遅れた。


「壁に食べられた⁉」


 ショコラが口元に手を当て、悲鳴じみた声で叫ぶ。

 まさかダンジョン相手に魔王が不覚をとってしまったというのか?

 あるいは何者かによる攻撃か?

 否。


「違う違う。食われとらん」


 壁からにょきりと手が伸びた。


「ぎゃー! おばけ!」


 ショコラはとっさにレイダーの腕に抱き付いた。

 無論、おばけなどではない。

 こっちに来いと言わんばかりに手招きするが透けてもいないし、実体がある。

 そして中指にはめられた指輪。


「姫様か?」

「うむ。さすがにちょっと驚いた。こっちに来てみるがよい」


 どうやって? 壁をすり抜けろと?

 さすがのレイダーも躊躇う素振りを見せた。

 しかし、あまりにも手招きするので、意を決して壁に手を伸ばす。

 感触はない。


「幻視による擬態か? それとも新手の魔法か?」


 警戒しつつレイダーは壁を通り抜けた。

 つま先に当たった小石が転がる。

 そこは便所ほどの広さしかない空間であった。

 そして、正面には古びた鉄製の扉が、威圧感を放ちながら待ち構えていた。


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