表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
36/93

第36話 魔王、ダンジョンに挑む

 そこは暗闇が支配していた。

 前も後ろも上下も分からぬほどの濃い闇色。

 聞こえてくる呼吸の音は誰のものか分からず、不穏そのものだ。

 突如、ぼぅっと炎が生まれた。

 揺らめくオレンジ色の明かり。

 サバイバルカラーの旅人装束を着たレイダーが松明を掲げる。


「ぬぅ……」


 小さく唸り、レイダーは眉根を寄せた。


「暗いな……」


 いかに松明とて全体を照らすにはやや光量が欠けるのだ。


 レイダーはマフラーめいたボロ布を口元までぐいっと上げた。

 彼の後ろに続くのは2人。

 リリアと獣人のショコラである。

 短弓を背負い、斥候冒険者スタイルのショコラはともかく、リリアはいつものフードマント姿だ。

 しかし、その隙間からCランク冒険者を現す青いベルトが垣間見えた。


「ワシが明りの魔法で照らしてやっても構わんぞ」

「その方がいいかもしれん」


 リリアは指をパチンと鳴らした。

 反響する音と共に、柔らかな光が周囲を明るく照らした。

 彼女たちの前には、岩盤をくり抜いた洞窟のような道が奥へと続いていた。

 まるで巨大な怪物が開ける口のように。



 ここはカヌレ大ダンジョン。

 混沌の神々が作りし、超自然の地下要塞である。

 数多の冒険者が一獲千金を夢見て挑むも、巨大すぎるが故に全貌は誰にもわからない。

 少なくとも判明しているのは、地下12階にて待ち受けるフロアマスターの存在だ。

 だが、リリアたちは大ダンジョンの全貌などどうでもいい。

 金品や貴重品、魔法のアイテムなどもどうでもいい。

 目的はその魔族と思しきフロアマスターなのだから。


 濁った空気に紛れて鼻を突くのはカビの臭い、獣の匂い……。

 地下1階に入るなり襲って来る臭気に、思わずレイダーは顔をしかめた。


「こんな所に好き好んで潜る冒険者たちの気がしれないな」


 乾燥薬草を取り出すと、松明で火をつける。

 薬草独特の臭いが加わった。

 光量の調節を終えたリリアが聞いてきた。


「さて、どこから下に降りるのかや?」

「地下へ降りるための階段がこの先にあるみたいだが……」


 正直、ショコラは見ていて気が気でなかった。

 よくよく考えればこの2人は昨日Cランクに昇格したばかり。

 その次の日にはダンジョンにアタックをかけるなんて、常識では考えられない。

 何やら良からぬことが起こりそうな気がしてきた。

 だが、ショコラは首をぶんぶんと振って怖い考えを打ち払う。

 なんとかなる。たぶん。

 獣人特有の前向きな思考だ。


「とりあえずあたしが地図持ってるから、行けるとこまで行こ」


 ショコラはバックパックから分厚い本を取り出した。

 地図だけではない。

 経験をもとに罠の位置など全てが書き込まれた一冊だ。


「階層が浅いところはモンスターも弱くて安全。でもガラクタばっかり。たまに隠し部屋を見つけていっぱいお宝持って帰る人もいるけど、だからみんなもっと下に行くの」


 リリアとレイダーはショコラが広げた地図を覗き込む。

 びっしりと書き込みがされている。

 入口から矢印が続き、1から6階までずっと引かれている。


「あたしたちBランクは6階くらいまでは寄り道無しで行くの。それくらいからモンスターとか強くなるからちょっと怖い。で、この矢印が最短ルート」


 矢印はうねうねと曲がり、長い。

 地下要塞の異名は伊達ではない。


「レイダーと話したんだけど、今回はとりあえず矢印の先まで行こうと思う。ダンジョン慣れしないといけないからね!」

「何を言うか。ワシは最下層まで行くつもりじゃ」

「無茶言わないで……」


 自信満々な魔王を前にショコラは震えた。


「まぁそういうでない。ふむ。ここなら良さそうじゃの」


 リリアは何やら確かめるように足踏みする。

 何が良いというのだろうか。

 レイダーとショコラの中で、とてつもなく嫌な予感が鎌首をもたげた。


「ねぇ。なにするの?」

「いやなに、床を砕いて下に降りたほうが早いなと」


 とんでもないことを言いだすリリア。


「それはさすがにマズいのでは?」


 レイダーの額を汗が一筋流れた。


「崩れるんじゃない?」


 ショコラの尻尾は弱々しく下がっている。


「まぁ見ておれ」


 リリアの手の先に超自然の重力球が生まれた。

 それは球体の形から細長く伸び、まるで刃のような形状となったではないか!


「海と大地を貫き、雷すら刎ねるソードじゃ」


 リリアは重力の刃を躊躇なく地面に突き刺した!

 そして、ぐるりと一周!

 地滑りのような音がカヌレ大ダンジョンに響いた。


 リリアの足下には、人が通れるほどの大きさの穴が穿っていた。

 ダンジョンの地盤を貫通し、くり抜いて道を作るなど前代未聞である。

 魔王が故の圧倒的なチカラであった。


「さて、道は切り開いた。階下へ行くぞ」


 リリアは穴へ魔法の明かりを投げ込むと、手招きした。


 ――危険な香りがした。


 口元を引きつらせたショコラは、レイダーの服の袖をぐいと引っ張る。


「ねぇレイダー」

「なんだ?」

「もしかしてこの人、ヤバい人?」

「今さら気が付いたのか?」

「うん」

「安心しろ。お前はもう逃げられん」


 その言葉には諦めの感情が色濃く表れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ