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土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
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第35話 魔王、昇格する

 冒険者ギルドの扉が勢いよく開かれた。

 列を作る冒険者たちはちらりと視線を向け、また戻す。

 意気揚々と入ってきたのはフードマントを羽織った小柄な少女。

 得意げに胸を張り、小鼻がぴくぴくとひくついている。

 リリアだ。


「ぬはははは。周りの羨望の眼差しが心地よいぞ」


 肩で風を切り、のっしのっしと歩いていく。

 彼女の手にはギルドからの手紙が握られている。

 リリアの冒険者ランクの昇格を伝える手紙である。

 つまり上機嫌なのだ。

 レイダーはさりげなくリリアの隣に並ぶと声を潜めて言う。


「周囲の者はほとんどがCランク以上ですが」

「まったく。人が気分良くしているのだ。いらんことを言うでないわ」


 リリアはジト目でたしなめると、雑多なギルド全体を見渡した。

 お目当ての人物を見つけると、早足で近づく。


「ミレット! ワシが来てやったぞ!」


 リリアは呼び鈴がわりにカウンターをばしばしと叩く。

 カウンターを挟んで少し奥側に立っていたミレットは、慌ててすっ飛んでくる。


「なななななんですか⁉ 宣戦布告ですか⁉」


 両手に書類を抱えたまま、怯えの色が一瞬過ぎる。


「なんだとはなんじゃ。おぬしらがワシを呼びつけたんじゃろ?」


 リリアはカウンターに手紙を置いた。

 切られた蝋には盾と2つの月の紋章。


「まったく。魔王を呼びつけるとは人のくせに生意気じゃのう!」


 言葉とは裏腹に嫌がる様子は全くない。

 どこか落ち着きがなくそわそわとしている。


「あ、なんだ。昇格の件ですか」


 あからさまにミレットは安堵のため息をつく。

 カウンターの下から青色のベルトを取り出した。


「リリアさん、Cランク昇格おめでとうございます」

「うむ。くるしゅうない」


 リリアは白ベルトを外すと代わりに青ベルトを巻いた。

 それからレイダーにこれ見よがしに見せつける。


「さすが姫様。似合っています」

「そうじゃろそうじゃろ!」


 ますますリリアは上機嫌になる。


「いったいどれだけ待ったことか。もう少しで全てを無に帰すところじゃったぞ」


 なんと物騒な発言か。

 ミレットは聞かなかった振りをする。

 ただ「どれだけ待ったことか」と言うところだけは、受付嬢として否定しなくてはならない。

 気乗りしないが。


「なに言ってるんですか。通常よりかなり早い昇格なんですよ」

「ふぁ⁉ これでか? エルフの赤ん坊が成人になるほど待ったぞ」

「そんなわけありません。ブラウニの森での活躍が認められたので早めの昇格です」


 心の中でミレットは付け足す。

 ――私の口添えもありましたけど。


「でも昇格したんだからいいじゃないですか」

「それもそうじゃな」


 納得するリリア。

 ちょろい。

 ミレットとレーダーは双方企むような視線を交えた。


「では新人冒険者さんにCランクの説明をしたいと思います。規則なのでちゃんと聞いてくださいね」

「うむ。わかった」

「Cランクとはつまり、一端の冒険者として認められたということです。これにより今まで受けられなかったような討伐依頼や――ダンジョンへの入場権を得られます」


 詳細は実際に依頼を受けるときに、とミレットは説明を省略する。

 どうせダンジョンに関することしか興味がないと思ってのことだ。


「カヌレ大ダンジョンはギルドによって管理していますが、ダンジョン内は別です。ギルドは一切関与しません。中で行方不明になってもギルドは、捜索隊などは出しません。あくまで自己責任でお願いします」


 厳しいと思うかもしれないが、費用対効果というものがある。

 ギルドとしてはミイラ取りがミイラになる方を防ぎたい。

 それに、ダンジョンで行方不明になるということは死亡と同義語でもある。


「リリアさんなら問題ないかと思いますが、ダンジョンはこことは別世界です。常識は一切通用しませんので、くれぐれもお気を付けください。あと最後に」


 リリアのことを真っすぐ見据えると、ミレットは真剣な面持ちになる。

 さり気ない動作で古びた羊皮紙を1枚見せた。

 そこには『持ち出し不可』『絶対』『写し禁止』など不安を煽る物々しい文字。

 そして『鉄竜騎士団報告書』と題されていた。


「カヌレ大ダンジョンは巨大な地下要塞です。現在判明しているだけでも地下12階。Sランク冒険者パーティー『鉄竜騎士団』のみが到達しています。もっともフロアマスターの前にパーティーは壊滅していますが」


 つまり少なく見積もってもリリアたちは、地下12階より下へ潜らなければならない。

 どんな冒険者も成しえていない前人未到である。

 そこへリリアたちが挑もうとしているのだ。

 リリアは不敵な笑みを浮かべた。


「ミレットよ。ワシを誰だと思っておる?」

「だからです。いくら魔王と言えど地の利は相手にあります。気を付けてくださいね」


 リリア面食らったような表情をした。

 それほどミレットの言葉は意外だった。

 まさかこの魔王が人に心配されるとは、と。


「礼を言う。概ね理解した」


 リリアは『鉄竜騎士団報告書』を返すと、レイダーの方を向いた。


「早速準備に取り掛かる。レイダーよ、諸々を任せたぞ」


 レイダーはうやうやしく頭を垂れた。


「承知しました。ショコラにも連絡を入れます」

「うむ。じゃがショコラへの連絡はワシがするぞ!」


 リリアがポケットから取り出したのは、携帯型PHS端末!

 デフォルメされたウサギのカバーが付けられている流行りの可愛い仕様だ!

 得意げな顔でリリアは携帯型PHS端末をプッシュする。

 なんと滑らかな携帯型PHS端末さばきであることか!

 精霊が声を運ぶ。


「ワシじゃ。うん。うん。広場の銅像前で、うむ。では」


 精霊に礼を言い、通話終了。

 そして、レイダーへドヤ顔をする。

 褒めてほしいのか驚いてほしいのか。

 とにもかくにも、いつの間にか現代に順応している魔王であった。


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