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土地神だけど村から追い出されたので魔王に復帰します。  作者: キツネカレー
第3章 突入、カヌレ大ダンジョン
33/93

第33話 魔王、成敗する

 ガナッシュ新王国は、魔王国の跡地に建国された新興国家である。

 禍々しい空模様。

 跳梁跋扈するモンスター。

 殺人触手植物など。

 魔境と呼ばれた面影は、支配領域のあちこちに残っている。

 嘆かわしいことに、国土を増やすため作られた開拓村には教会の祈りは届かない。

 異教の土地神を奉らない限り、遅かれ早かれ村は地獄めいた光景になる。

 そして開拓村の1つが、今まさに邪悪な悪意によって風前の灯火となっていた。


 轟々と燃え盛る家屋。

 血相を変えて逃げる村人。

 そして、松明を持って蹂躙するのは盗賊である。

 カヌレ付近の開拓村で暴れる悪逆非道の暗黒盗賊集団『ブラックシャーク盗賊団』だ。


 家財を持ちだそうとしたせいか、逃げ遅れた村人が(つまづ)いた。

 すぐさま盗賊が獲物を見つけたりと襲い掛かる。

 命乞いの声など聞こえぬといった様子で、村人の背中へと剣を振り上げ――


 その時だった!

 煌く一条の軌跡。

 盗賊の腕には深々とナイフが突き刺さっていた。


「ぐわー!」


 剣を落として痛みに蹲る盗賊。

 その隙に村人は家財を捨てて命からがら逃げだす。

 何事かと周囲にいた盗賊たちがわらわらと集まってきた。

 その数10人!

 盗賊の規模としては中々の人数である。

 さらに見よ!これは投擲目的のナイフだ。

 道具ではない、武器である。

 それに気が付いた、いかにも三下めいた盗賊が声を荒げる。


「くっ、村人じゃねえな! 誰だ⁉ 出て来い!」


 呼応したわけではないが、2人の男が家屋の影から現れた。

 片方はチェインメイルに盾とメイスを持った戦士風の男が、怒りに顔を赤らめていた。もう片方は法衣を羽織った神官と思しき男である。


「非道な盗賊め、村になんてことを!」


 戦士風の男は村の用心棒だ。

 とある冒険でこの村の危機を救って以来、用心棒として住んでいるのだ。

 一方の神官は用心棒ではなく、村で学校を営む先生だ。

 村人たちを逃がすため、用心棒と共に盗賊の前に立ちはだかったのである。


「チッ、用心棒のお出ましか」


 だが、三下の声には焦りはない。


「元冒険者で強かろうとも多勢に無勢だぜ!」


 苦々しく顔を歪める用心棒たち。

 事実だ。

 相手が野犬だったり、ゴブリン程度なら問題ない。

 しかし、相手が人で、さらに集団になると話は別。勝ち目は薄い。


「どうする用心棒さんよう。あんたの《重撃》スキルでやっつけられるか?」


 神官が茶化すように訊いた。


「無理だな。あの時のバケモノ大熊ならなんとかなったが、人数差は覆せない」


 用心棒の返答に、神官はやれやれと肩をすくめた。


「仕方がない。覚悟を決めるか」

「ああ。すまんな」


 2人に悲壮感はない。

 むしろ晴れ晴れと誇らしげであった。

 三下がショートソードの刃に舌を添わせて威圧的に舐める。


「ハハッ。ヒロイックサーガの真似事か? 馬鹿な奴らめ」


 盗賊たちはゲラゲラと下卑た笑いをする。


「仮に俺ら全員を相手できる腕前があったとしても、あんたらは死ぬぜ。うちのボスによってな!」


 他の盗賊たちは左右に分かれて並ぶと一斉にお辞儀する。


「ボス! どーぞ!」


 盗賊団らしからぬ者が悠然と歩み出た。

 頭巾を被って顔を隠し、身体全体をすっぽりと覆うローブを纏った姿はあからさまに怪しげな装い。

 この隠者こそ、彼らブラックシャーク盗賊団のボスである。

 三下は勝ち誇ったように言った。


「聞いて驚くな! ボスは魔族だ! まいったか!」


 魔族とは混沌の神々に祝福を受けた超自然的存在である。

 その強さは圧倒的で、Bランク冒険者では束になっても手も足も出ないほど。

 Aランク、いやSランク冒険者でなければ一対一では敵わない。

 災厄に等しい存在だ。


 だが――


「それがどうした?」


 用心棒の言葉に三下は目を見開いた。


「なにィッ⁉」


 もしや絶望のあまり狂ったのか?

 だがすぐに三下はその考えが誤りだと知る。

 用心棒の瞳に浮かぶのは狂気ではなく、闘志である。


「相手が多勢に無勢でも。ボスが魔族であったとしても。決して勝てない戦いとわかっていても――男は戦わねばならん時がある! 今がその時だ!」


 堂々と、これ以上もない宣戦布告だ。

 ボスの頭巾が震えた。

 嗤っているのだ。

 愚かで矮小で取るに足らない用心棒のことを。


「くくくっ。威勢だけは良いな。よかろう。ならばその決断がどれほど愚かなものか」


 ボスは一旦区切ると、マントの内側から杖を取り出した。

 頭蓋を模した邪悪な杖だ。

 眼窩にはめられた赤石が怪しく輝く。


「人の子よ。魔族の恐ろしさ――我がその身に教えてしんぜよう」

「嘘つけぇぇぇぇッ!」


 言い終わるや否や、突如として一陣の金色の突風が乱入した。

 風切り音!

 捻りの入った右ストレートがボスの顔面に直撃する!


「ぐぇっ!」


 強打とともに吹き飛ばされるボス。

 ワンバウンドからのツーバウンドをして、ごろごろと転がりようやく勢いが止まる。

 その腹をむんずと踏みつけるのは、なんということか! リリアである!

 リリアはボスの頭巾を掴むと一思いにはぎ取った。

 おお! その肌は黒く、耳が長い!


「何が魔族じゃ! ダークエルフの分際で騙りおって!」


 頭巾の下にあったのは、整った顔立ちの女ダークエルフである。

 無論、魔族ではない!


「え、いやちょっとなんでバレて……ひぃ! その声! その言葉遣い! まさか⁉」

「ワシの目を誤魔化せると思うたか! 阿呆め!」


 リリアの手のひらに、超自然的な漆黒の球体が生まれた。

 女ダークエルフの顔に浮かんだのは紛れもなく恐怖の色。


「なんで姫様がこんな所にいてるんですぅ⁉ てか、生きてたんですか⁉」

「うるさい! 細かい話は後だ! 貴様は魔族を騙った罪で拷問じゃ!」

「やめて! お願い許して!」


 女ダークエルフは泣き叫びながら、リリアにずるずると引っ張られていく。


「たすけてーたすけてー……」


 遠くなっていく声。

 やがて打撃音が1回鳴ると、静かになった。

 用心棒と三下はかける言葉も無く、ただ唖然と眺めるばかりであった。

 双方ともに事態が把握できずにいる。


「えーっと……」


 ――どうしよう?


 双方同時に思ったその時であった。


「熱い展開のところ申し訳ない」


 再びの乱入者あり!

 サバイバルカラーの旅人装束の男――レイダーだ。

 マフラーのように巻いたボロ布の先が、超自然的な光を発した。

 すると驚くべきことに、盗賊どもが全員縛られたかのようにその場に倒れ込む。


「詫びにだが、この通り三下どもの身動きは封じた。後は任せる。ではこれにて」


 レイダーは3連跳躍すると、リリアを追うかのように村の外へと去った。

 用心棒はレイダーが去った方向と、魔力の糸で縛られた盗賊を交互に見る。

 未だ混乱から立ち直れていない。

 立ち直れていないけれど――


「村の危機は去った……ってことぉ?」


 炎の臭いを孕んだ風が吹きすさぶ。

 答える者は誰もいなかった。


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