第27話 エルフ、燃やして殺す
エレーヌは燃える瞳に殺意をみなぎらせる。
「くそったれ! アタシの前に出てくんじゃねーよ!」
エレーヌの魔力を喰らい、火の精霊が呼びかけに応える。
大小の火炎の球が、頭上から散弾のようにゴブリン目掛けて降り注ぐ。
火球の直撃を受け、次々と松明のように燃え盛るゴブリン!
断末魔のフルコーラスだ。
だが、燃え尽きたしりから、新たなゴブリンが四方から飛び掛かって来る。
エレーヌは舌打ちした。
さっきからずっとこうだ。
「倒したしりから湧いて出てきやがる!」
エレーヌは視線をゴブリンの包囲網のさらに外へと向ける。
巨大なこん棒を持った人外の偉丈夫が仁王立ちしている。
話には聞いたことがある。
魔王軍の先兵として暴れた恐ろしい人食い鬼の話を。
「なんだってこんな森にオーガがいんだよ! ファック!」
相手がゴブリンを始めとする雑魚ならまだしも、これは勝てない戦いだ。
会敵するなり、仲間の戦士がこん棒の一撃で容易く吹き飛ばされた。
彼はトロールをソロ狩りできるというのに。
Bランクが敵う相手ではない。
そして、エレーヌに波状攻撃を仕掛けるゴブリンたちは、全てオーガの手下である。
オーガの吠え声に合わせて、いきなり森の中から攻撃を仕掛けてきたのだ。
傷ついた仲間を逃すためとはいえ、なんて戦いに首を突っ込んでしまったか。
「それもこれもあの犬女のせいだ!」
エレーヌは悪態を付きつつ、新たな獲物へ視線を向ける。
精霊は一呼吸ついている。
殺気!
横手からゴブリンがこん棒を振り上げて飛び掛かる。
破れかぶれだ!
エレーヌはこん棒攻撃を紙一重で躱すと、その顔面に膝を入れる。
非力なエルフとはいえ飛び掛かりと相まって猛打だ。
ゴブリンはドス黒い血を吹き出しながら、たまらずひっくり返る。
そして頭目掛けてストンピング!
熟れた果物めいてゴブリンの頭が爆ぜた。
「次はだれが燃やされたい⁉ エェ?」
仇とばかりに次はホブゴブリンが突っ込んでくる。
ホブと付くだけあってゴブリンよりもなお体格がいい。
「ああん? てめぇもぶっ殺すッ!」
息を吹き返した精霊を左手に纏わせ――別の精霊の気配!
突如氷の塊が飛来する。
エレーヌは攻撃をキャンセル。炎の壁を生み出し、魔法攻撃を防ぐ。
ゴブリンシャーマンだ!
ゴブリンのくせに精霊使いのチカラに目覚めた小癪なモンスターである。
「ファック! ファック! ファック!」
キレた。
エレーヌは革ジャケットの内から投げナイフを抜いた。
その数3本。
投擲すると、すべてホブゴブリンの膝に突き刺さる。
『GRRR!』
痛みにホブゴブリンの勢いが止まった。
すかさず火の精霊をホブゴブリンへと体当たりさせる。
爆発炎上!
ホブゴブリンは頭のてっぺんから足の先まで真っ黒に炭化した。
その炎と煙を掻き分け、突貫してくる存在あり。
ボロ布で顔を隠したゴブリンアサシンだ!
ゴブリンのくせに背後から奇襲してくる小癪なモンスターである。
粗末なナイフの切っ先をエレーヌに向けた。
その刃先には何かしらの液体が付着している。
毒? あるいは体液?
「要するに当たらなきゃいいんだろ! アレを使えばいいんだろッ!」
それは一瞬の出来事であった!
エレーヌは炎の精霊の支配を解くと、風の精霊を新たに支配する。
火の精霊は至近距離戦闘には向かない。なぜなら術者も燃えてしまうからだ。
バチバチと足先が紫電を帯びた。
「鬱陶しい! 死ねっ!」
紫電を放つ猛烈な蹴りを受け、ゴブリンアサシンは血反吐を吐きながら感電死する!
雷魔法奥義、必殺イナズマキックだ!
トドメと言わんばかりに、エレーヌは未だ紫電を纏う足で無慈悲にストンピングした。
そして、エレーヌはゴブリンシャーマンへと顔を向けた。
鬼の精霊使いの元へと水の精霊が集まるのを感知したからだ。
ゴブリンシャーマンとはいえ所詮はゴブリン。
初級精霊魔法ですら発動に時間がかかる。
今なら無防備。
「焼き尽くしてやるッ!」
エレーヌは火炎の奔流を生み出そうと、火の精霊に呼びかけをし――火の精霊がそっぽを向く。
風の精霊を支配したせいで拗ねたのだ!
「嘘だろおい!」
悲鳴に似た声を上げるエレーヌ。
「待って待って!」
しかし、待てと言われて邪悪な小鬼が待つわけがない。
ゴブリンシャーマンは嘲笑めいて、幾本もの氷柱を生み出した。
そして放つ!
迫る魔法の氷柱。
――ガードが間に合わない!
その時だ!
突如として、甲高い音が響いた。
まるで教会のステンドグラスが割れたかのような――
氷柱の着弾音ではない。
尻餅をつくエレーヌの前方の地面に、黒いナニかが生まれた。
光すら飲み込む漆黒。
暴れる鼓動に突き動かされるまま、エレーヌは呆然と見る。
金色の風が吹いた。
何処に繋がってるやも知れぬ漆黒から、腕組直立不動でせり上がってくる者が1人。
瞳がきらりと輝いた。
不敵な笑みを浮かべるは、魔王である。
「な、なんだよこれ……」
エレーヌの掠れ声を無視し、リリアは左手を前に出した。
前方やや離れた位置に重力障壁が展開。
迫りくる氷柱を全て飲み込み、圧壊させる。
「無論、魔法じゃ」




