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第26話 魔王、エルフの元へ跳べ

 森がその牙を剥いた。

 冒険者パーティー『赤い風』はBランクパーティーである。

 Bランクであるから、トロールすら容易く倒せる力量がある。

 ブラウニ山ならまだしもブラウニの森ごときで撤退など、本来ならありえない。


「けが人! 大丈夫なの⁉」

「おぬしら、どうした?」


 ショコラは素っ頓狂な声を上げ、リリアは怪訝な顔で訊ねる。


 本来ならありえない。


 しかし、現に無傷なものは誰もいない。

 リーダーと神官戦士は至る所に傷を負っている。

 神官戦士にいたっては法衣すら来ていない。逃げる際に邪魔と判断したのだろう。

 2人とも継戦はできそうに見えない。

 特にひどいのはリーダーの肩を借りている戦士だ。

 服にべったりと付いた血の量からして、どう見ても深手だ。


「悪いことは言わない! 早く引き返すんだ!」


 血を吐くようなとは、まさにこの時のリーダーのことを言う。

 リリアはゆっくりとリーダーの前へと出る。

 そして、薄い笑みを浮かべて一言返す。


「なぜ?」


 リーダーは一瞬言いよどんだ。

 しかしすぐに顔を真っ赤にして、


「なぜって……言わねばわからないのか?」


 突如として背後で爆音が轟いた。

 音の広がり方から、さほど離れてはいない。

 誰かが応戦しているのだ。

 そして『赤い風』は4人パーティーである。

 リリアは再び尋ねる。


「あの性悪耳長女は?」


 無論、彼らに問うのは残酷な質問だと彼女自身もわかっている。

 リーダーはリリアの視線から逃げるかのように顔を背けると、


「ブラウニの森の異常……あれはオーガだ」


 オーガとは身の丈3メートルを超え、強靭な筋肉をもった人食い鬼だ。

 徒党を組んだり、武装をしたり、極めて凶暴だが頭も回る戦闘狂である。

 Bランク冒険者パーティーが相手できるモンスターではない。

 トロールとは違うのだ。

 そして、先の大戦では魔王軍の先兵として大いに暴れ――その数を減らしたとされる。


「うちのパーティーでは彼女が一番強い。だから……」


 つまり殿(しんがり)となったというわけだ。


「なるほどな」


 地の底から響くような声に、リーダーはぞくりと背筋を震わせた。

 目の前にいるフードマントを被った少女から発せられた声をとは、到底思えなかった。


「あやつ、碌でもないエルフかと思えば、なかなかどうして肝が据わっているではないか」


 リリアはカカッと快活に笑った。

 そして振り返り、レイダーを見る。


「レイダーよ。ワシはあのエルフをショコラに謝らせねばならん」

「はい」

「死なせるわけにはいかん」

「はい」

「少し様子を見てくる。おぬしはショコラとこやつら負傷者の面倒を見るのじゃ」

「ですが、エルフの元へはどうやって?」

「耳長は精霊使いじゃろ? この距離なら居場所くらい手に取るようにわかるわ」


 リリアはフードを捲り上げ、素顔を晒した。

 金細工のような長い髪が風に揺れる。

 真っ赤な舌で上唇を舐める。

 リリアはおもむろに両手を合わせた。

 すると、その中心に小さな重力球が生まれた。

 それは光すら飲み込む漆黒。

 リリアはその重力球を手で包むように――握った!


 眩い閃光。


 そして、気が付けばリリアの姿はもうその場になかった。

 ただ焼けたプラズマのような臭いが微かに漂う。


 何が起こったのか。

 いや、リリアが何を起したのか把握できず皆が呆然とする。

 一番先に我に返ったのはレイダーだ。


「しまった……転移魔法か⁉」


 レイダーはキッとショコラに鋭い視線を送る。

 いくらレイダーとて空間を渡った相手に追いつけるはずがない。

 しかし、獣人であり斥候冒険者であるならまた別だ。


「ショコラ! お前も行け! 姫様が応戦する隙にエルフを連れて戻ってこい!」

「わ、わかった!」


 超常の光景に混乱しつつもショコラは指示通りに走った。

 文字通り風が如き速度。

 彼女の背中は、鬱蒼と生い茂る木々の向こうに消えて見えなくなった。


「他人を守りながら全力など出せん。姫様、無茶はするなよ」


 レイダーは苦々しげな表情でつぶやく。

 本当なら自分が行くべきだというのに、けが人の御守とは……。


「か、彼女はいったい……」


 リーダーはようやく我に返ったようだ。

 説明を求めるようにレイダーを見る。


(説明だと? そんなものできるはずがないだろう!)


 まったく、不用意に人間レベル以上の魔法を見せるべきではない。

 これではカモフラージュ用の指輪がまるで意味を成していないか。

 さてどう説明したものか。

 レイダーはため息をつくと、


「他言無用でお願いしたい。彼女はさる王家の傍流でして、魔法の英才教育を――」



◆◆◆



 炎が弾けた。


 轟音と熱風に、驚いた小鳥たちが我先にと飛び立つ。

 ブラウニの森の不自然に開けた場所。

 そこには火炎と死が暴れる地獄が如き光景が広がっていた。

 炭化した木々が倒れ、炭化した葉が舞い、炭化したゴブリンが崩れ落ちた!


「ファック!」


 エレーヌは金髪を翻し、拳を突き出した。

 頭上を旋回していた火の精霊が動きに合わせて、炎の奔流となり相手を焼き尽くす。


『グェ!』


 奔流に飲まれたゴブリンは、あっという間に火達磨となる。

 苦悶の呻き声を上げながらその場でのたうちまわり、やがて静かになった。


「ざまあ見やがれクソ野郎がッ!」


 エレーヌを半個包囲するように囲んでいるのはゴブリン。

 その数30!

 ゴブリンだけではない。

 さらにホブゴブリンやオークもいるのだ!


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