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第24話 魔王、対決する

 エレーヌは拳を握ると、リリアたちのことを威圧的に見下ろす。

 口元から、ちらちらと赤い燐光が漏れる。

 魔力を対価とし、精霊に呼びかけているのだ。


「で、結局なんだ? まどろっこしい話は嫌いだ」


 エレーヌの瞳が敵意に満ちていく。


「つまりアタシとやろうっての?」


 話が通じんやつだ、とリリアが肩をすくめた。


「粗暴がすぎるぞ。ショコラに謝るのじゃ。謝った後でワシがタコ殴りにしてやろう」


 たしなめつつ煽るリリア。

 ここでおっぱじめても構わないという意思表示に他ならない。

 エレーヌのこめかみに青筋が浮かび、精霊が集まり――

 一触即発かと思ったその時であった。


 パンパンと手を叩く音。


「はーい。言い争いはそこまで!」


 ミレットだ。カヌレ冒険者ギルドの受付嬢であるミレットが、仲裁に入ったのだ。

 うんざりした面持ちで割って入ったミレットは話を中止させると、


「エレーヌさん、獣人を侮辱するのもそこまで。さすがに司法が動くわよ」


 さすがのヤンキーエルフも司法には弱いらしい。

 エレーヌは苦虫を数匹まとめて噛んだような顔をする。

 精霊の気配が遠ざかっていく。


「そして、リリアさんも暴れようとしない。建物を壊す気ですか?」


 比喩ではなく本当に壊しかねない。

 村一つ消滅させた瞬間をミレットは見ているのである。

 受付嬢という鉄仮面で毅然とした表情をしているが、内心では半泣きだ。

 魔王に叱責など、正気の沙汰でない。


「んなわけあるまい。あくまで話し合いじゃ。話し合い」


 タコ殴りにすると明言したことをどうやら魔王は忘れているようだ。

 受付カウンターの下で、ミレットは手に浮かんだ汗を拭いた。


「まったく天下の冒険者ギルドで好き放題言ってくれて……あなたたち、冒険者なら冒険者らしく白黒つけるべきとは思いませんか?」

「白黒だぁ?」


 エレーヌは鋭い視線をミレットに向ける。

 魔王のそれと比べれば屁でもない。


「耳にはしているでしょ? 最近、森が穏やかじゃないのを。勝負はブラウニの森の調査。先に原因を突き止めてきたほうの勝ちでどう?」


 提案したのは仲裁案。

 リリアの口角が僅かに上がった。


「ああん? なんでアタシが――」


 なおも食って掛かろうとするエレーヌであったが、その彼女の頭をポンと優しく叩く者がいる。

 『赤い風』のリーダーが前に出た。

 どこか疲れたような表情を浮かべた青年だ。


「おいリーダー! なにしやがる!」

「その話、乗った」

「な⁉」


 目をぱちくりさせるエレーヌ。

 信じられないといった様子だ。

 リーダーはエレーヌが呆気に取られているうちに、話を進める。


「そちらのお嬢さんもOKかな? Dランクでブラウニの森の奥へ行くのは厳しいけど」

「構わんぞ。こっちには有能な斥候がおるからな」


 ニヤリと少女らしくない笑みが浮かんだ。

 リリアはショコラの背を手のひらで叩いて、前へと押しやった。

 本日の主役を立たせるのも魔王の務めである。

 皆の視線を集めたショコラは一瞬身体を硬直させたのち、


「うん!」


 大きくうなずいた。


 勝負はブラウニの森へ異変調査。

 盾と2つの月の紋章のもと、先に特定した者の言い分が認められる。

 落としどころとしては、一番良い結果と言えるだろう。


 とはいえ、勝手に話がまとまったせいで、エレーヌは納得がいかない様子だ。

 怒りの矛先をどこに向けるべきか、と。

 しかし、リーダーは有無を言わさず、エレーヌを外へと連れ出す。


「じゃあ、そういうことで。俺たちは今から向かうとするよ。では」


 『赤い風』がギルドから出て行く。

 中指を立てるエレーヌを最後に、扉が閉まる。


「さすがBランクパーティー。できたリーダーさんね」


 額に浮かんだ汗を拭って、ミレットは一息つく。


「ミレットよ。よくやったぞ」


 リリアは受付カウンターに近寄ると、カカッと快活に笑った。


「よくやったじゃないです! 1つ間違えれば越権行為なんですよ! これで怪我人なんか出たら誰が責任取るのやら……」

「案ずるな。ワシらが勝手にやったことじゃ、ギルドは責を負うこともなかろうて。そして依頼料を払うことなく森の異常も解決できる。WIN・WINじゃ」

「もうやだこの魔王……」


 上機嫌なリリアとは正反対に、ミレットはさめざめと涙する。

 無論、この勝負はミレットの思い付きなどではない。

 話に決着がつかなそうなとき、勝負を切り出せとリリアが予めミレットに命じていたのだ。

 なんたる魔王の策略か。


「くくくっ。さて、わしらも動くとするか」


 出遅れた格好となっているが、もちろん勝機は自分たちが握っている。

 なぜならリリアは森の異変は魔族が原因であると思い込んでいる。

 そして魔族が原因ならば、あのエルフどもが敵う相手ではない。


「結局はワシの1人勝ちよ」


 とはいえ、じっとしているわけにはいかない。

 ある程度後を追う恰好でなければ。

 下手すると、本当に謝罪させる相手がいなくなってしまう。


「おい、レイダーよ」


 リリアは一声も発していない部下を呼ぶ。

 レイダーは不承不承と雑誌から顔を上げた。


「まったく、長々とかかったな」


 さらにレイダーは耳栓を外したではないか!

 なんたる他人行儀!


「で、話はまとまった……あー……うむ」


 リリアとミレットとショコラの眼光を前に、彼は再び雑誌で顔を隠した。

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