表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/93

第23話 魔王、エルフと会う

 獣人の斥候冒険者であるショコラ。

 彼女を追放した女エルフを泣かすため、リリアは冒険者ギルドにて張り込みをするのであった。


 カランコロン。ドアベルが鳴る。


「来た!」


 タイミングを崩されたことに舌打ちしつつも、リリアは振り返り――その表情が固まった。


「なっ……!」


 冒険者ギルドに入ってきたのは間違いなくエルフの女冒険者だ。

 なるほど。名前を知らなくても、見たらわかるとショコラが言うのも頷ける。


 そのエルフは金髪の片方を編み込み、もう片方をアップバンクからのツーブロック。

 大きく形の良い瞳には黒く濃いアイラインが引かれ、鋭い。

 両耳に細い筒状のピアスを垂らし、派手な革のジャケットを羽織っている。

 治安の悪い街のヤンキー的外見だ。


「あれがエルフじゃと……?」


 魔王は困惑した。二度見した。

 これをエルフと呼ぶには、幻想や夢やそういったものが、全部粉々に砕けてしまいかねない。


「そうエルフ! 悪い耳長女!」


 ショコラは犬歯を剥いて鼻にしわを寄せる。


「あー……どうやら200年の間に、エルフの価値観も大きく変わったようじゃな……」


 無論、間違いである。

 彼女だけが特別なのである。


 この女エルフ冒険者、名前をエレーヌと言う。

 派手な見た目ではあるが、精霊たちを使役する魔法――精霊魔法を操る精霊使いである。

 凹凸が乏しいスレンダーな体型だ。


「あ? なんだアンタら?」


 リリアたちの視線に気づいたようだ。

 あからさまに表情が険しくなり、つま先の向きも変わる。

 見た目通りの、喧嘩を売ろうものなら即買いするタイプだ。

 彼女の後ろには数人の冒険者が続く。

 戦士が2人に神官戦士が1人。

 彼らはカヌレの街を拠点に活動する、Bランク冒険者パーティー『赤い風』だ。

 カツカツカツ! と激しい靴音が止む。


「ファック! 誰かと思ったら犬っころじゃねえか!」


 エレーヌはあからさまに嫌そうな顔をする。


「犬じゃないもん!」


 即座に反論するショコラ。

 しかし、エレーヌは中指を立てて返す。


「うっせぇ! アタシがそう言えばそうなんだよ!」


 暴論だ。道理もへったくれもない暴論だ。

 リリアは瞬時に10通り近くの返しが浮かんだ。

 だが、ショコラはエレーヌの怖い外見と迫力に押されて二の句が継げない。

 涙目でリリアの背に隠れてしまった。弱い。


「のう。もう少し頑張らぬか」


 リリアは言うが、ショコラはぶんぶんと首を横に振る。首が飛んでいきそうだ。


「無理! なんかこわい! あの性悪耳長怖い!」


 なぜか頷く『赤い風』のメンバー。それを見逃すリリアではない。


「仕方がないのぅ」


 小さくため息一つ。

 リリアの所見だとエレーヌの年齢は200を超えたくらい。

 エルフとしてはまだまだ若く、落ち着きの欠片もないのが頷ける。

 要するにイキりたい盛りなのだろう。


「そこのエルフ。謝罪の言葉くらい言ったらどうじゃ?」


 強気に出ることにした。


「あ? なんだって犬女に謝らなきゃなんねーんだよ!」


 エレーヌは顔をしかめて吐き捨てる。


「犬呼ばわりはおぬしの見た目通り、デリカシーに欠ける行為じゃ。それ以上の言葉が必要かや?」


 リリアは挑発する。無論、ワザとだ。

 エレーヌが頭に血が上りやすいタイプと見たリリアは、煽ることで冷静さを消し去ろうと目論んだ。

 狙いは何だというのか?


 ――人の世界でもなんでも、先に手を出したほうが悪い。


 そして、右の頬をぶたれたからと言って左の頬を差し出す必要はない。

 エレーヌが口で言っても聞くタイプではないと初見で見抜いたリリアは、左ストレートを返すつもりなのだ!


「あいにくアタシはそーゆー高尚なものは持ってないんでね」


 へへっと自嘲めいて笑うエレーヌ。

 それから彼女は背後で頷いている『赤い風』のメンバーを蹴っ飛ばした。

 ギロリとリリアを睨みつける。


「とゆーか。てめぇ誰だよ。いきなり口出ししてきやがって」

「ワシかや? ワシはリリアじゃ。あと小娘、名を訊ねる時はまず自分から名乗るが良い」


 エレーヌは名を名乗るつもりもないのか、リリアのことをじろじろと訝しむように見る。

 そして、フードマントの隙間から見えるベルトを、目ざとく見つけた。


「Dランク? けっ。ニュービーかよ」

「ニュービーとは結構。じゃがな、そのニュービーにも劣る三下は山ほどおるぞ。おぬしのような緑ベルトを巻いていたとしてもな」


 喧嘩ならいつでも買ってやると息巻いていたエレーヌだったが、急に冷静さを学んだかのように、


「なるほどな」と一言静かに呟いた。


 エレーヌはリリアのことを指差すと、


「リーダー。こいつ『デスモスキートクラン』をやったヤツだ。ただのニュービーじゃない」


 ――厄介じゃな。

 リリアは心の内で毒づいた。

 見た目とは裏腹に頭が切れるタイプだ。情報収集もぬかりがない。

 リーダーはたしかに後ろにいる戦士なのだろう。

 しかし、実質的にパーティーを引っ張っているのがエレーヌであるのは明白だ。


「ね! こいつヤな奴! だからエルフの森を焼きに行こう!」


 リリアに勇気を貰ったのかショコラがスラングを放つ。

 エルフに対して最も侮辱的発言である!

 何度も言うが、もしエルフが耳にしたならば、たちどころに精霊をけしかけてくるだろう。

 しかしどうだ。エレーヌは涼しい顔をしている。

 これはいったいどういうことか⁉


 エレーヌは鼻で笑った。


「あん? 残念でした! アタシの村はすでに燃えてんだよ!」


 強い! 対エルフ用のスラングがまるで意味をなさない!

 見た目は別として、やはりエルフは四大人族一の聡明さを誇る。

 スラングを言うだけの獣人では勝負にもならない。


「焼き討ちかや?」

「芋焼いてたら延焼した」


 聡明なエルフ?

 そんなものはここにはいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ