表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/93

第21話 魔王、勧誘する

 カヌレの街、ボンボン区の通りは少々手狭だ。

 木造にもかかわらず3~4階建ての集合住宅がずらりと並ぶせいだ。

 おかげで得も言われぬ圧迫感がある。

 遠くで地響きがした。

 おそらく集合住宅のうち、古いどれかが荷重に耐えきれず倒壊したのだろう。

 違法と合法とを反復横跳びする手抜き建築物に、人を詰め込むのだから仕方がない。

 ボンボン区ではよくある光景だ。

 ニュースですら流れない。


「いつかは声を掛けようと思っていた。ダンジョンに挑む以上、斥候あるいは盗賊は必要だ」


 そんな集合住宅の1つ、オオキイシッポ荘の階段を上がりながら、レイダーは話を切り出した。


「経験を積んだ冒険者でなければ、森歩きは止めた方がいいからな。敵はモンスターだけではない。地形や自然もまた相手となる。だからこそ、森に入るなら斥候や盗賊とパーティを組むのが一番だ」

「なるほど。そういえば200年前、勇者も盗賊を連れておったわ」


 一段遅れてリリアが続く。

 階段がギシギシと鳴り、全身完全金属鎧なら抜けてしまいそうだ。

 家賃に比例して造りも甘くなる。

 オオキイシッポ荘はそこそこ安い物件と見受ける。


「危険や錠を察知して、こちらが不利にならない状況を作る。実際、戦いの腕よりも状況が勝敗を分けることが多い。特に姫様の重力制御魔法は、広範囲攻撃過ぎて森の中では使いにくいと見受ける」


 リリアはふと横をみた。階段の壁には小さなチラシが貼られている。

 薬草。『値下げ交渉OK』50%オフ。

 おそらくただの薬草ではないのだろう。


「で、今から会うのがその斥候と?」

「そう。名前をショコラ。俺の古い知り合いだ」

「そ奴も冒険者かや?」

「そうだ。冒険者で、レンジャー能力に秀でている。腕は俺が保証する」


 レイダーの足が止まった。


「そやつが?」

「ここにいる」


 オオキイシッポ荘3階の角部屋。

 簡単に蹴破れそうな気のドアには、几帳面にも表札がかかっている。


『ショコラ・マキアート』


 独特な筆跡だ。リリアはなぜか親近感を覚えた。


「ただ、最近ギルドに顔を出していないというのが気になるが……」


 レイダーはドアをノックした。

 返事はない。

 レイダーはしばしの間待ったのち、もう一度ノックする。

 返事はない。


「俺だ」


 返事はない。


「留守かや?」

「いや、人の気配はあるのだが……」


 レイダーは懐に手を突っ込むと、携帯PHS端末(個人用携帯精霊通信器端末)を取り出した。

 これは年間契約した精霊の力によって、声を遠くへ飛ばす装置である。

 SCSとは違い、映像は飛ばせない。

 カヌレほどの大きさの街なら、市民にもある程度は普及している。

 おかげでカヌレの街は精霊が飛び交い過ぎ、精霊魔法が思うように行使できない状況だ。

 リリアが携帯PHS端末を指差し、


「それ、ワシも持っておるがイマイチ使い方がわからん」


 『デスモスキートクラン』から押収した端末である。


「詳しくは後で教える」


 レイダーは番号をプッシュ。

 PPPPPPと精霊が相手の端末を呼び出す音がする。

 ほどなくして、ドアの向こうからも聞こえてきた。PRRRRRR……。

 レイダーが端末を切ると、同じく音が途切れる。

 レイダーとリリアは互いに顔を見合わせた。


「どうやら……家の中にはおるようじゃな」

「そのようだな」


 レイダーはノブを捻るが鍵がかかっている。

 ならばと身をかがめると、懐から今度は鍵を1本取り出した。

 鍵を刺し込み、回す。


 ……ガチャリ。


 なんということか。見事に開いたではないか。


「……おぬし、なぜ鍵など持っておる?」

「話の流れの都合だ」


 妙にフラットな声で投げられた疑問をはぐらかし、レイダーはリビングへ足を踏み入れる。

 カーテンが閉じ切られ、暗い。

 花瓶。食器。ぬいぐるみ。武具一式。

 武具を除き可愛らしい色合いで揃えられている。


 リリアの眉が僅かに動いた。

 家主は女性であることがうかがえる。

 リビング窓際にはベッドがあった。

 そして、その上ではこんもりと毛布が盛り上がっている。

 どうやら家主がそこにいるらしい。


「ショコラ、俺だ」


 もぞもぞと毛布が動き、顔だけが出てきた。

 リリアは目を細めた。おかしそうに口元を緩めると、


「なるほど。獣人かや」


 どことなく人のような犬の顔に、ふわふわの髪の毛が生えている容姿を想像してもらいたい。

 彼女は、こげ茶色の毛並みをした犬の獣人であった。

 歳はおそらく20も半ばくらいか。


「言ってなかったか?」

「知らなんだ」


 リリアはレイダーを小突くが、特に気にした様子もない。

 ショコラは寝起き眼でレイダーを見ると、


「あ、レイダー。戻ってたんだ」


 ふにゃふにゃとした喋り方だ。

 コボルトと違い、目をこする手はこげ茶色の毛が生えているとはいえ人間のそれだ。


「ああ、最近な」

「お金返してね」

「近々な。それよりも仕事だ」


 途端にショコラの頭が毛布の中へと引っ込んだ。


「やだ」


 そう一言だけ返して毛布は沈黙する。

 時折、毛布がもぞもぞと動くのみ。


「いや、仕事なんだが……」

「やだもん」


 拒絶。明確な拒絶だ。

 レイダーは困ったように肩をすくめた。何が何だかさっぱりだ。

 リリアは仕方がないと言わんばかりに前へ出ると、


「おぬしショコラと申すか?」


 再び顔を出すショコラ。驚いた様子で、


「隣の人、誰?」


 今ようやくリリアの存在に気が付いたらしい。

 本当にこやつ斥候か? リリアは喉元まで上がった言葉を堪える。


「ワシはリリアじゃ。最近冒険者になったばかりで、言うなればレイダーの上司じゃな」

「ふーん。小さいのに?」


 獣人とは基本こんな感じである。いちいち否定していたら話が前に進まない。

 忍耐だ。忍耐あるのみだ。


「ワシらは森へ行かねばならんのじゃ。そこでおぬしの力を借りたい」


 ショコラはあからさまに嫌そうな顔をした!


「ギルドに行きたくない」

「まあそう言うでない。そもそも、いったいなぜギルドに行きたくないのかや?」

「……」


 ショコラは再び毛布の中に顔を引っ込めた。

 しかし、そこで諦めるような魔王ではない。ベッドの端に座ると穏やかな声で話しかける。


「ずっと毛布でくるまっておるわけにはいかんぞ。腹は減るし、金は稼がねばならん。まずは理由を話してみせよ」


 その声に魔力が僅かに乗っていることに気が付いた者は、当の本人を除いていないだろう。

 リリアの説得のおかげか、躊躇いがちにショコラは口を開けた。


「……パーティを追放された」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ