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波乱の予感、でも今はまだ

「……すみません、コランにエイヤ。どうやらここでは私たちのパーティーに加わってくれる魔導士はいないようで……」


分かりやすく落胆した声を発しながら塔の中から出てきたレティシアは、残念な結果報告を言い切るより早く、外の様子の明らかな異常に気付き、目を見開いた。


その大きく開いた両の目にはちょうど、特大の吠え声で階段下に転げ落ちたアラフェスと、そんな様子をニヤつきながら見つめているエイヤの姿がまず飛び込んできていた。


瞬間、レティシアが状況を整理する間も無く、地に伏したアラフェスは石畳に打ち付けた腰を左手で撫でつつ、明らかに理性を失っている怒声を上げて残った右手をエイヤに向ける。


「この……マナレス風情がァッッ!!」


言い終わるか終わらないかのうち、アラフェスの右手の先からは数本の、氷柱つららのように鋭利な氷塊が発生し、高速でエイヤ目掛けて飛んできた。


が、エイヤはそんな攻撃を階段に座ったまま、足で段差を横蹴りして滑るように真横へ素早く移動し、避けてみせる。


「あっぶねえなぁ、いきなりテメェ……」


そう悪態をつきつつ、不遜な笑みを浮かべたエイヤだったが、その間に今度は知らぬうち、エイヤの背後へ移動していたゴードンと、もう一人……カーショーと呼ばれた長い黒髪を後ろで結わえているスーツ姿の男二人が同時に、同じよう右手をエイヤの背中へと向けた。


しかしその気配に気づいたエイヤは、すぐさま臨戦態勢を取ろうとした。


だが刹那。


「やめなさいッッ!!」


とびきり大きなレティシアの制止する声が男たちとエイヤの次の行動を止める。


そして慌てて階段を下りてきたレティシアは、アラフェスに向かって大声で問い詰めた。


「何があったというんですかアラフェス! その二人は私の仲間ですよ!? 何か正当な理由があるならともかく、いきなり魔法を用いて攻撃するなんて……あなたが普段から自分で言っていた魔導士としての誇りとやらはどうしたんですかっ!!」


言われ、アラフェスは反論する。


「その誇りゆえの行動だ、レティシア! このマナレスのガキは私の誇りを傷つけた……だから制裁を加えようとしただけだッ! それになんの問題があるッッ!!」


そう自己正当化を語るアラフェスだったが、しかし。


「……それは……本当ですか? コラン」

「いいえ」


一刀両断、コランはアラフェスの言い分を切り捨てる。


「エイヤは犬呼ばわりされたので犬の鳴き真似をしただけです。それ以外は何もしていません。もし、それがアラフェスさまの誇りを傷つけたというなら、むしろそんなことで傷つく誇りとやらは一体どういったものなのか、はなはだ疑問ですね」


言い返され、しかもそれが厳然たる事実なだけに異議を唱えることも出来なくなったアラフェスはただ、歯噛みしてコランを睨みつけることしか出来ない。


そうして。


「そうですか……なら、こちらに非は無いということでよろしいんですね?」

「……」


改めて問い直すレティシアの言葉に、無言でしか返せないアラフェスは怒りで顔を真っ赤にしていたが、そんな彼のことを無視し、


「では、今回は何事も無かったということで納得しましょう。ですが、次はありませんよ? アラフェス。如何な誇りある魔導士といっても、無法を通していいという道理などありませんからね……さあ、コランにエイヤ、行きましょう」


自分の言い分を通してから、レティシアはアラフェスの横をすり抜けてゆく。


そしてそのレティシアの背中を、コランとエイヤは追いかけていった。


ただしその時、


「……これで済んだとは思うなよ、薄汚いマナレスども……」


小声でそうアラフェスはコランとエイヤに伝え、小麦色の短髪をした、いかつい男と長い黒髪を結わえた男の名をそれぞれ呼ぶと、階段を踏みしめて言う。


「ゴードン! カーショー! 行くぞッッ!!」


相成って結局、この場は広い階段中に響くような声を残し、アラフェスたちは塔の中に消えていった。

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