魔導士とマナレス、その立ち位置
町にたどり着いてみると、思ったより整然とした……加えて正常な生活感がある街並みにエイヤは不思議な既視感を感じていた。
いや、実際に彼が生活していた元の世界で住んでいた街並みとは大きく違うのだが。
ただ、たまにテレビなどで見るヨーロッパの、昔ながらの街並みにそれはとても似ていたのである。
赤い切妻屋根に漆喰で固められた白い壁の、二階建てや三階建ての建物が辺りそこら中に、広い中央のきっちり整えられた石畳の道の左右へ立ち並び、食料品店や雑貨屋、酒場らしきものも目に付く。
ところによっては小さな市も開かれており、見慣れぬ野菜や果実などが並んでいる。
まさにヨーロッパの某国の街並みに極めてよく似ていると感じた。
ただし、そんな建物の前方に広がった市の中には、鎧や盾、長槍や剣に加えてリボルバー式の銃器などが売られている状況は、ぱっと見の印象こそヨーロッパの街並みを想起させたが、明らかにそれらとは異質な文化を醸し出していた。
特に、異質なのはそうした街並み以上に広い道の前方へ立つ白い塔。
その建造物だけが生活感のある街並みの雰囲気を完全にぶち壊している。
そこだけがこの平凡な街並みに溶け込むことなく、ひどく浮いているように見えるのである。
と、さらに進んだ先で急にレティシアが顔を向けた。
ちょうど広く白い階段の前。塔への入り口付近に近づいた時のことだった。
「では、すみませんが私はちょっと魔導士ギルドへ仲間を募りに行ってきますので、少しここで待っていてもらえますか?」
「ん? 別に俺らも付き合っていったっていいんだけど?」
「バカかお前は」
レティシアの言葉へ、何も一人で行かなくてもいいんじゃないかという単純な思考で言葉を返したエイヤに向かい、バッサリ切り捨てるような一言をコランが発する。
「私らマナレスが魔導士ギルドに、事前の許可も無しで足を踏み入れられるわけないだろう。ここは心苦しいがレティシアさまお一人に向かっていただくしかない。お前はいい加減でもう少し、自分の立場というものをわきまえろ」
言われて、エイヤは(ああ、またぞろ身分の話かよ……)と、面倒そうな顔をしたが、『郷に入っては郷に従え』の精神を発揮し、ひとりでトコトコと白い塔に向かうレティシアの背中をただ視線で追った。
と、ちょうどレティシアの姿が見えなくなったころ、思えばこれもちょうど良い機会だと考え、エイヤはコランにこの世界での身分制度について聞いてみることにした。
「あのさ、コランさんには変なこと聞くようだと思われるかもだけど……」
「うん?」
「無魔力者って、平たく言うとどういう存在なんだ? 俺は遠くから来たからそういうの、よく分からなくてさ」
「あー……そんなことも知らないでお前、今まで生きてこられたのか……それはそれで幸運だったと思うが……まあ、簡単に言うと、魔力を持ち、その魔力を操れる人間が魔導士と呼ばれるこの国の支配階級だ。対してマナレスはその名の通り、魔力を持たず、魔力を操れないただの人間。私らみたいなのを言う。そして、絶対数の少ない魔導士は我々、絶対数の多いマナレスを魔法の力を背景に支配し、従属させている。と、こういう言い方をすると聞こえは悪くなってしまうが、実際はほとんどの魔導士とマナレスは互いのことについてはほぼ不干渉を通している。魔導士は魔導士の生活、マナレスはマナレスの生活、あまり干渉しないで付き合ってるが、とはいえそこには絶対的な立場の違い……差別が存在するのは事実だ。その証拠に……」
そこまで言ったかと思うや、急にどこかから自分の顔へ向けて飛んできた小さな石つぶてを、頭へ当たる直前でコランは視線も向けずにパシッと片手で受け止める。
途端、遠くから。
「マナレス、マナレス!」
はやし立てるように叫びながら、石を投げてきたローブ姿の子供たちの影が見えた。
「こういう感じだ。魔導士たちは支配階級、私たちマナレスは奴隷階級。そういう事実をよくよく頭に入れて、自分の立場を理解したうえで行動をとるようにするのが、この国で長生きしてゆくために大切な……って、エイヤ?」
語っていたものだが、ふと気づくと隣で座っていたエイヤがいない。
気づくと、エイヤは次から次と石を投げてくる魔導士の子供たちのその石を、訳も無くキャッチし続け、さらに投げてくるよう手をクイクイと示して階段の上に仁王立ちしている。
すると、それまで侮蔑の感情が大半を占めていた子供たちの声は、感嘆の感情に染められ、
「ヘイ! ばっちこいッ!!」
「マナレス、マナレス!」
エイヤの掛け声に合わせて一種、無邪気な感情を表現する声音に代わり、しばらくエイヤは魔導士の子供たちとの一方的なキャッチボールを楽しんでいた。
そして、これには半ばコランも呆れて、
「何してんだ、こいつは……」
そう漏らし、頭を押さえてうつむいてしまった。