戦後処理と、最悪の再会
「……どうやら、仕留めたらしいな。いい仕事だったぞ、エイヤ」
まだ洞窟の壁に寄りかかっているエンライトは苦しげに、しかし喜びの溢れる声でエイヤに呼びかけた。
とはいえ、被害も大きい。
とうやらエンライトは壁に激突した際に背骨を損傷してしまったらしく、レティシアの治癒魔法もなかなか追いつかない。
エイヤもマオノットも走り回って息も切れ切れ。
残る中でまともに戦えそうなのはコランくらいのものだろうか。
そんな中、動かぬ体で必死に声を出し、エンライトはすぐ次の指示を出す。
「さて……情けないが、さっさとその竜の逆鱗を取ってこの場を去ろう。可能性の話だが、もしここにまだほかの竜がいたら今度こそ全滅だ。こんなところは早々に立ち去るとしよう」
「それは確かにその通りですがエンライトさん、あなたのケガは思ったより重いです。治療を済ませるにはもう少し時間が……」
そう答えかけたレティシアの声を遮り突然、洞窟の入り口付近から人の声が響いてきた。
「ほう、これはひどい惨状だな」
これへ、はっとして顔を向けた一同は、この場における最悪の事態を見ることになる。
驚くことに、何故か洞窟の入り口にはあのアラフェスが立っていたのである。
しかもその背後には、ゴードンとカーショー、それに見知らぬスーツ姿の魔導士がもう一人、立っていた。
「ちょうど我々もひと仕事を終えて、カムヤクまで向かっていた矢先、たわむれに寄ってみた洞窟を覗いてみれば、まさかお前らがこんなところで仕事にいそしんでいたとはな。いや、良い偶然だ。楽しくなってきたじゃあないか」
言うのに答えアラフェスとともについてきていた三人の魔導士は揃って笑い声をあげる。
すると、コランは正反対に声を荒げる。
「……何のつもりです? アラフェスさま。こちらはようやく依頼された竜を退治し終え、くたくたなんです。そこへいきなり表れて一体なにを……」
瞬間、コランが言葉を言い切るより早く、アラフェスは右手を振るって凍てつく疾風をコラン、そしてマオノットの足元へ噴きかける。
その途端、コランとマオノットの足元はすっかり凍り付き、身動きひとつとれなくなった。
「簡単な話だ。ちょっとした意趣返しだよ。この前は人目もあったから下手なこともできなかったが、ここには我々しかいない。もし仮に、お前ら全員が命を落としても、誰も疑問には思わない……この意味が分かるか?」
そういったが早いか、今度はゴードンが右手を動けなくなったコランに向け、無数の石つぶてをまき散らす。
だが、上半身はどうにか動くコランは必死にその石つぶてを両手の銃で撃ち落とし、身を守る。
とはいえそれも長くは続かないように見えた。
しかも今度はさらにカーショーが、右手から大きな水流を呼び出し、マオノットの顔を目掛けてそれを打ち、彼女の呼吸の自由を奪う。
刹那、これらの蛮行を止めようとアラフェスに向かって走り込んできたエイヤが、早めに危機を感じて弾丸を再装填した銃を撃ち、彼らへ牽制の一撃をくわえようとしたそのとき。
後方で控えていたもう一人の男……白髪の長髪をなびかせる男が、右手で狙い定め、もはや狙うもへったくれもなくなってしまった銃を向けるエイヤに対し、およそ拳大の火球を打ち込んだ。
それを瞬時、反転して壊れた銃身で火球を弾こうとしたエイヤだったが、なんと火球に触れた銃身は一瞬のうちに赤熱して飴のように溶け、ボタリと地面へと落ちてしまった。
「……マジかよ」
思わず声を漏らし、愕然とするエイヤへ向かい、アラフェスは高笑いして答える。
「どうだマナレス、すごいだろう? エズミアの火炎魔法は二等級。鍛え上げられた鉄でさえ、飴細工のように溶かすほどの火力を生み出せる逸材だ! さて、これだけの絶望的な状態になって、お前らはどうするつもりだ?」
言ったのを聞きつつ、まだ身動きが取れないエンライトはどうすればいいかと思考を巡らすが、何も思い浮かばない。
仕方なく、せめてマオノットだけでも助けに向かわねばという覚悟で、まだ感覚の無いその足を動かそうとした、そのとき。
「……降参」
つぶやくよう、小さな声でアラフェスの問いに答えたエイヤは、もはや握り部分しか残っていない銃を手放し、カランという音を立てて地面に落ちるグリップと同時、両手を上げて降伏のポーズを取った。