13.JK、母性愛に目覚める?
カナ(奥菜香南絵)は、高校2年生。アニメーション同好会の先輩ユウト(松谷雄途)に本を返すつもりで登校するが、ユウトは現れず、連絡もつかない。帰りのバスで眠りから目を覚ましたカナは、見たこともない異世界に迷い込んでしまう。
突然の異世界サバイバルに戸惑うカナ。そんな彼女の前に現れたのは、大好きなラノベの主人公ペト様(ペトルス・リプシウス)その人だった!
家に戻ると、太陽はもう地平線の向こうに沈みかけている。ミチャは居間に入るなり、ヘナヘナとソファーに倒れ込んだ。よほど疲れていたらしい。
それから、私たち二人に向かってなにやら早口で話し始めたけど、やっぱり一言も理解できない。話してるうちにミチャはだんだん涙ぐみ、ついには大声で泣き出した。
うーん、可愛いすぎるだろ、泣き顔。
さっきの食欲もすごかったけど、ここまで来るのは大変だったんだろうな。よく見ると、腕や脚のあちこちにすり傷があり、ところどころかなり汚れていた。服もけっこうボロボロになっている。でも、実はかなり高級そうな服だ。
「ミチャ、お風呂入る?」
声をかけると泣きやんでキョトンとした顔で私を見るので、ひとまず風呂のお湯をはってあげることにした。入浴剤も何種類かあるから、疲れがとれそうなやつを選ぶ。
「だいぶ疲れてる様子ですね」
ペト様も心配そうに言う。
「相当な距離を歩いてきただけじゃなくて、なにか怖い経験をしたのかもしれません」
「そうですね」
しばらくすると風呂の準備ができた。このままソファにいると、ミチャは眠りこんでしまいそうだ。
「ほら、お風呂でサッパリしようね!」
しぶしぶ起き上がったミチャをバスルームに連行する。バスタブにたまった緑のお湯を見ると、こちらの意図を理解したらしく、うれしそうな顔を見せた。
「どうぞ! ゆっくりつかってね」
そう言って立ち去ろうとすると、グイっと袖をつかまれる。なんか文句を言われたけど、意味はわからない。
「えっと、どうしたのかなぁ?」
悪い予感。
「どうかしましたか?」
隣の部屋からペト様が様子を見にきてくれた。ミチャの手がガッチリ私の袖を捉えている。
「ああ」
「え? ああってなに?」
「これは、カナに一緒に入ってほしいっていうことでしょうね」
ミチャはうれしそうな声をあげる。こいつ、やっぱり日本語わかってるのか?
「ええー!」
「ちょうどいいじゃないですか、カナも入れば」
「うーん。まあ、後で私もとは思ってたけど……」
「では、どうぞ。ご遠慮なく!」
ペト様は隣の部屋に戻っていく。異世界転移二日目にして、異世界人と裸のおつきあい? まあ、それも悪くないか。
「じゃ、一緒に入ろう」
私はササっと服を脱いでバスルームに入ろうとする。と、今度は手をグイっとつかまれた。
「今度はなんなのよ!?」
ミチャは自分の服を指さす。
え? ひょっとして、あなたの服も脱がせてさしあげろと?
「まじか」
裸になっている私を前に、ミチャは平然と立ったままでいる。日本語が話せたら「くるしゅうない」とでも言いそうな雰囲気だ。
しかたないので、お召し物を脱がしてさしあげる。それにしても、これ、どんな布なんだろう? きれいな光沢があって手触りもすごくいい。なんかお姫様みたいだな。わがままそうだし……。
「ムムッ!」
服を洗濯物のカゴに入れて驚く。おい、この発育のよさは、なんだ? 身長的には完全に子どもに見えたけど、身体的には私のほうが子どもに思えてくる。
ええと、きっとこの星の女の子だと、これが標準なんだよね!?
バスルームに入ると、ミチャは案の定湯舟の前で突っ立ったままになった。悪い予感、的中か。まったくめんどくせえやつだ。
バスチェアにミチャを座らせ、ボディスポンジに石鹸をつけた。身体が泡で包まれると、ミチャは気持ちよさそうに目を細めている。
その小さな肩を見ながら、ふと小学生のころをを思い出す。夏や冬の休みになると、きまって田舎のおばあちゃんの家に遊びに行った。従姉のユミちゃんがよくこんな風にスポンジで私の身体を洗ってくれた。懐かしいな。
「今度はこっち向いて」
身体を洗われている間、ミチャはずっとおとなしくしている。なんか妹ができたみたいでうれしい。超絶美少女で身体も私より大人っぽいのは、なんだかなあって思うけど。
「はい、完了! お風呂入っていいよ!」
泡をシャワーで流してあげると、ミチャは湯舟に入った。私も身体を洗う。朝の水浴びだけでも生きかえる心地だったけど、やっぱり温かいお湯のシャワーは気持ちいいな。
にーじげんじゃ おわーらないーの
ここーろのー とぽーろじいー♪
私は、好きなアニソンを鼻歌で歌い出していた。
それにしてもすこし大きめのバスタブにしていてよかった! ミチャの入っている湯舟に私も入るとお湯があふれ出てしまう。勢いよく流れるお湯を見て、ミチャは楽しそうに笑った。
「ミチャの家族はどこにいるのかな?」
自分のことだとわかったせいか、ミチャが私の顔を見上げる。私も異世界に来て家族や友だちと離ればなれだ。
「これからは一緒だね」
「カナ!」
突然、ミチャは私に抱きついてきた。
なにそれ。可愛いんですけど?
この小さな身体で一人ぼっちだったミチャを想像すると、突然いとおしく思えてくる。ああ、十七歳にして母性に目覚めるとは!
「ミチャ!」
うれしそうに頬をすり寄せてくるミチャ。
イージゲンチャ オナーラナイーニョ♪
「え?」
私の耳もとでミチャがメロディーを口ずさんでいた。
「そ、それって、なんの歌かなぁ?」
間違いない。歌詞がなんかおかしくなってるけど、ついさっき私が鼻歌で歌っていたアニソンだ。昨年四月クール放送『俺ギリ』(『俺の嫁の中の人と付き合うのはギリ浮気じゃない』)OPサビメロのところ。
ひょっとして、異世界でも放映してた?
……んなわけないよな。
私が歌ったサビメロのところだけ繰り返しているところを見ると、一回聴いたメロディーを覚えられる才能なのかもしれない。
でも、異世界の女の子が楽しそうにアニソンを歌ってるのは、なんか可愛かった。ミチャは、リズムに合わせて指を動かしている。
いや――動いてるのは、指だけじゃないぞ。
シャンプーの隣においてあった石鹸が、ふわりと浮いた状態のまま、ミチャの指と同じリズムでユラユラと揺れていた。
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