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お兄ちゃんは渡さないっ! 7

「……ナさまっ」


 身体を揺すられる感覚に、ファナはゆっくりと目を開いた。


 ルーに上半身を抱えられるように地面に座り込んでいたファナは、心配そうに覗き込んでいたルーの瞳と真っ直ぐに目が合った。


「ファナさまっ!」


 ルーは顔を真っ赤にして、ファナの名を呼んだ。


「おや、ルーじゃないか…元気にしてたか?」


 そう言って、右手で優しくルーの頭を撫でる。


「あれ程私のことは気にするなと言ったのに、どうせ無茶をしたのだろう?全く困った()だよ、お前は」


 それからルーの頭を自分の胸元に抱き寄せると、ギュッと両腕で抱きしめた。


「だって、だって…うわぁーーん」


 ルーはファナの腕の中で、大粒の涙を零しながら大声で泣いた。


 そんなルーの頭をヨシヨシと撫でながら、ファナはケータとハルカに顔を向ける。


「色々と迷惑をかけたんじゃないかい?」


「いえ、ずっとお義母さん想いのいい子でしたよ」


「…そうか」


 優しく微笑むケータを見て、ファナは愛おしそうにルーに視線を戻した。


「私は怒ってるんだからっ!」


 突然真横から声をかけられ、ケータは驚いたように顔を向ける。


 精霊女王が頬を膨らませて立っていた。


「あんな無茶なコトして、ケータくんに何かあったら私…」


 縁なし眼鏡の奥にある涙で潤んだ水色の瞳が、真っ直ぐにケータを見つめている。


 その仕草、雰囲気にケータはハッとなった。


「まさか、サト…」


 しかし精霊女王の右手の人差し指で口元を押さえられ、ケータの言葉はそこで遮られた。


 ~~~


「それではお二人には、私の加護の強い土地に移り住んでもらいます」


 精霊女王がルーとファナに向かって、優しく微笑みかけた。


「どーして私に、何の罰も与えないんですか?」


 ルーが困惑の表情を見せる。


 世界の破滅を目論むミサに加担していた自分を、ルー自身が赦せないようであった。


「私の祝福を受けた魂が、毎日泣きながら助けを求めていたのに、今まで何も出来ませんでした…むしろこんな事しか出来ない私を赦してください」


 そう言って精霊女王は、ルーに向かって深々と頭を下げた。


「そんなっっ!?」


 ルーは慌てて、首を何度も横に振った。しかし精霊女王は頑として頭を上げようとしない。


「ルー」


 そのときファナが、優しく、そして力強い瞳でルーを見つめた。


「お前が自分を赦さないと、この方も自分を赦す事が出来ないみたいだな…どーする?」


 ルーはファナの言葉を噛みしめると、やがてゆっくりと精霊女王に向き直った。


「ご厚意、有り難くお受けします」


「ありがとう」


 やっと頭を上げた精霊女王は、ルーに向かって優しくニッコリ微笑んだ。


「ルリちゃんっっ」


 そのときハルカが声を張り上げた。


「…ニージマハルカ」


 ルーはゆっくりと声の主に顔を向ける。


「あ、よ…良かったね。やっとお義母さんと一緒に暮らせるんだねっ」


「…うん」


 続けてハルカは何かを言おうと口を開いたが、次の言葉が出てこなかった。


「ハルカちゃん、ごめんね。敵に気付かれる前に二人を送り届けたいの」


「え…もう?」


 精霊女王の言葉に、ハルカは焦ったような声を出した。それから再び、ルーに向き直る。


「ルリちゃん、あの…」


「ニージマハルカっ!」


 モジモジするハルカに向けて、ルーは精一杯の笑顔を見せた。


「私たちは友達ですよ、必ずまた会いに来ます!」


「う…うん、絶対だよっ!」


 ハルカもやっと笑顔を見せる。


「じゃ、またね、ルリちゃんっ!」


「はい、また今度っ!」


 そのとき金色の風が3人の姿を包み込み、風と共に消え去った。


 同時に隔離結界が解除され、景色が色を取り戻す。


「元気でね、ルリちゃん。絶対ゼッタイまた会おうねっ!」


 ハルカは薄暗くなった夕焼け空を、いつまでもいつまでも見上げていた。

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