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「ひゃっはー!水も食料も豊富にあるじゃねえかああ」

「うひょ、不用心にも限度があるぜえええ!」

「おら!お前たち、さっさと運べ!よく働いたヤツには、食料三日分をやるぞ!」

「「「おおっ!」」」

 モヒカン集団が、水や食料の入った荷物を運んでいく。

 げへへへと下品な笑いを浮かべている。

 あたかも無法地帯の様相を呈している。



「団長、ここに置いておくぜ!」

「ひゃっは、外に荷物を出しっぱなしは不用心なんだぜえええ!」

「いつ俺たちみたいな連中が、奪いにくるのか分かんねえ。せいぜい気をつけるんだなあ」

 モヒカン集団は、俺が置き忘れていた食料の入った荷物を、管理人室まで、わざわざ運んできてくれた。

「ごくろうさん。お礼に缶詰あげるよ」

 岸が彼らに缶詰をあげると、飛び跳ねるように喜んで部屋に戻っていく。素直でいい子や。

 モヒカン集団は、絶対見た目で損していると、思わずにいられない。

 前回の女魔法剣士率いる襲撃に参加した、雇われ冒険者集団はそのままアパートに住み着いた。

 俺は敵の家に住んで大丈夫なのかと聞いたが、彼ら曰く、襲撃に参加したことで契約は果たされているので、問題ないそうだ。

 俺としても、戦力不足を補うために、彼らを住まわせている。もちろん、家賃は払ってもらっているが。

 一階の8畳の部屋は、一月5万リッパで貸し出しているのだが、この周辺相場に比べると安いらしい。モヒカンズも、お得なアパートを見つけた感覚で、引っ越してきた。

 住み着いたモヒカンズは、二部屋に別れてルームシェアをしている。屈強な男たちが部屋にぎゅうぎゅう詰めで暮らしている。正直、クサい。

 骨蔵さんとしては、彼らにも時代劇にハマって欲しかったらしいが、布教は失敗した。彼らは、時代劇ではなく、世紀末系のフィクションにはまりっている。

 よほど彼らの好みに刺さったのか、時折、管理人室に、荒廃した世界系フィクションのビデオを借りにくる。

 外見に反して、大変礼儀正しい。

 ダンジョンマスター兼大家さんの俺としては、色物が二人続いたので、見た目はともかく精神的にはまともな住人が入居してくれて素直に嬉しい。

 

 ダンジョン防衛は、今のところ問題なく進んでいる。アパートの収支についても、モヒカンズが加入したことで、多少は黒字が出るようになった。

 たまに、生まれたてのダンジョンコア目当てで侵入してくる二流冒険者がいるが、大抵はモヒカンズにボコられている。身ぐるみを剥がされて、玄関前に放り出されている姿をよく見る。モヒカンズは、敵には容赦なく世紀末している。

 ダンジョンは弱肉強食なのだ。

 モヒカンズが不在の際には、買い物とキャッチボールの時以外は、部屋に引きこもって時代劇を観ている浮田さんが、代わりにボコってくれている。集団モヒカンズを瞬殺しただけあって、そこそこ戦闘力は高い。あくまで、そこそこだが。

 時代劇のいいところで侵入者撃退に呼び出された時の浮田さんは、特に鬼気迫る戦いぶりだ。

 敵を倒した後には、わざと咳き込み、重病アピールも忘れない。

 市中見回り(スーパーの安売り)で、主婦相手に切った張ったしてるの知ってるんだぞ。大抵負けて、半泣きになっているのもな。


 多少、生活に余裕の出た俺は、今日は休むことにした。

ここしばらくはモヒカンズの受け入れ準備やボロアパートの修繕でずっと忙しく休む暇もなかったのだ。

 管理人室のテレビをつける。大昔のダイヤルを回すタイプのテレビだ。管理人室に残っていたものだ。

 日本の番組が映るわけではない。モヒカンズがくれた、スーリッパ用のテレビ受信装置を装備している。異世界のテレビが映るらしい。


「TVの前のみなさん、こんにちは!スーリッパTVのヤモモです。本日はキラト騎士団に来ております!ご存知の方も多いと思われますが、このキラト騎士団は、Aランク17位の名門騎士団です!」

 テレビの画面では、レポーターが、マイクを握って喋っている。日本のテレビと似たような雰囲気だ。

「どーも、ご紹介に預かりましたキラト騎士団で団長を務めております。マークです。普段は前衛を務めています」

 画面にアップで映るのは、マークと名乗るムキムキの汗臭そうな男性だ。でも、名門騎士団の団長らしく、めちゃくちゃ強そうだ。ウチのボロアパートに侵入してきたら、3分でダンジョンコアを破壊されそう。まあ、名門騎士団様は、ボロアパートなんて相手にしないだろう。

「今回、取材させていただいたのは、先日、キラト騎士団が大物ダンジョンの攻略を計画されていると発表した件についてです。具体的な情報を教えていただけるということで」

 TV側とキラト騎士団の間で、打ち合わせは済んでいるようで、手際よく進行していく。

「我らがキラト騎士団は、雷王城の攻略を決定いたしました」

「雷王が相手ですか!いままで多くの騎士や冒険者を返り討ちにしてきたことで有名なあの雷王城を!」

 どうやらダンジョンも、ウチのボロアパートのようなダンジョンもどきと違って、二つ名持ちのところもあるらしい。レポーターがその恐ろしさを解説していく。

 怖いから近づかないよう気をつけておこう。

「雷王といういかにも強そうな二つ名がついていますが、レベルの低いタンチョウ半島での話です。所詮はお山の大将。激戦区で鍛えられたAランクの我が騎士団の前では、相手にもならないでしょう」

 マーク君は、自信たっぷりに宣言する。

 怖い雷王は、同じタンチョウ半島にいるらしい。ますます注意だ。

 ウチの地区はレベルが低いのか。まあ、そちらの方が楽でよかったかな。

 画面の中では、マーク君が自慢の愛剣を抜いて、この剣で雷王を倒してみせると熱弁している。

 レポーターの女性は、内心興味はないのだろうが、表面上は、ふんふんと熱心に話を聞く振りをしながら、情報をマークから引き出している。プロ根性だ。

「最後の質問ですが、マークさんが騎士団に入ってよかったことは?」

「それは市民の安全を守れることですね」

 レポーターは模範解答だけでは、不満のようでもっと深く掘り下げる。

「プライベートでは、騎士団に入って何かよかったことは?彼女さんがいるとか」

「うーん、そこまで調べてますか。今、僕は副団長と付き合ってるんです」

 マーク君の隣にいた騎士がヘルメットをとる。

 そこには、超絶美人でおっぱいの大きなお姉さんがいた。

「副団長のジェリカです。今度、マークと結婚するんです。でも聞いてください、マークったらいろんなところに愛人を」

「あああああっっっっっっっっ!騎士団長はっ!騎士団長はもてるのかあああああああ!岸団長はまったくモテないぞおおおお!!」

 俺は怒りに任せて、テレビの電源スイッチをオフにする。押しボタン式で、力を込めすぎて、取れたボタンが勢いよく岸の顔面に命中した。乱暴してごめんねテレビ君。

 俺は異世界に来たのだ。モテなくてどうする。いや、いままでモテたこともないが、高校デビュウならぬ、異世界デビュウだ。

 騎士団をつくればモテる。

 俺は確信した。あの冴えない脳筋マーク君ですら、モテているのだ。自分も有名騎士団長になれば、バブみ溢れるお姉さんと付き合えること待ったなし。

 なんて簡単なことに気づかなかったのだろう。ダンジョンマスターをしている場合ではない。

 俺は世界一の騎士団長を目指すのだ!


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