2
スーリッパとは、どことなく中世ヨーロッパ風味のファンタジー世界である。
時は、スーリッパ歴1582年。
サビヌキ自由民主同盟大統領コドモ・ズシ・ドラゴンと、サビアリ帝国皇帝ガリスキー・フォン・サビアリの間で、回転寿司の和約が結ばれた。
これにより、人々は、回転寿司で江戸前以外の寿司を注文しても、糾弾されることはなくった。
お寿司の歴史がまた1ページ。
信長も光秀の前で、燃える本能寺の如き炙りサーモンを食べて、ホクホク顔だ。
「うーん、炙りサーモン、是非もなし!」
「敵は、炙りサーモンにあり!」
話を本筋に戻そう。
スーリッパを揺るがす条約締結の影で、スーリッパの盲腸と呼ばれる、タンチョウ半島に、岸弾正はいた。
ややこしいが、タンチョウ半島に、キシダンジョウがいるのだ。ちなみにタンチョウ半島は、鳥網ツル目ツル科ツル属に属する鶴に似ていると、長屋でも美人と評判のお鶴さんが言ったことから来ている。よけいややこしくなった。
俺は意識を取り戻すと、異世界にいた。
雑木林にいるのだが、地球ではありえないような毒々しい色の花が咲いていたり、よく分からないトカゲらしきものが地面を這う。
俺は父に渡されたメモどおりに歩いていくと、雑木林を抜けて、しばらくしたひらけた土地にぽつんと、3階建てのボロいアパートがある。
「うげえ、これが俺の騎士団?」
父は大金を注ぎ込み、異世界に土地と建物を確保し、騎士団を設立したと言っていたが、目の前にあるのは、三階建てのボロアパート。
それも昭和チックいや、大正ロマンな、玄関があり、お風呂共用、台所共用、トイレ共用の下宿タイプだ。
父は20年前に買った建物を異世界へ転移させたと言っていたが、ボロアパートを転移させることはないだろう。
普通は、核シェルターとか、ちょっとセキュリティーの厳しい建物を転移させろよ。多分、そこまでお金がなかったのだと思うが。
父に渡された鍵を使って、玄関を開ける。
長年使われていなかった家屋特有の、カビくささがする。
「とりあえずは掃除だな」
俺は片っ端から部屋を掃除していく。このボロアパートを中古で買った際に、前の住民が置いていったのか、各部屋によっては、古い電子レンジやタンスなどのちょっとした家具は残っていた。
アパート自体はボロボロだが、建物は大きい。
一階と二階に、3畳半から8畳の広さの部屋が、何部屋もある。部屋の扉には、簡易的な鍵がつけられており、かつてはここに住民が住んだのだろう。
三階、といっても屋根裏部屋のようなものだが、
そこが管理人室として使われていたらしい。
前所有者の残していった私物や、父が運び込んであろう物品が散乱している。父はこのアパートを買ってすぐに異世界に送ったらしいので、ろくに手入れもしていない。
父は海外旅行気分で異世界にいってみるつもりだったらしいが、バブルが崩壊して、それどころではなかったらしい。
そして、思い出した今は、興味がなくなっていて、俺に押し付けてきたというわけだ。
「この部屋の鍵、壊れてるのか?」
掃除を大方済ませた俺は、一階のある部屋の扉が開かずに困っていた。他の部屋の掃除は済んだのに、この部屋の扉が開かない。
「おーい、開けろ」
冗談で言ってみると、本当に開いた。
そして、俺は腰を抜かした。
「ガガガ、骸骨じゃあああああ」
ゾンビか、いや違う。骨だらけのやつは、スケルトンか?何が効くんだ?塩か?鉄砲か?
俺は廊下の壁に立てかけていたほうきを手に取り、フルスイング。
スケルトン仕様のおもちゃは好きだが、本物のスケルトンはお断りだ。
理科の人体標本のような骸骨は、バラバラになって部屋に飛び散る。
「いきなり、何をするんですか。僕が何か悪いことでも」
地面に転がった頭蓋骨が喋る。
「うおおおおお、黄金の右シュートだ!」
俺のサッカー選手としての血が騒ぎ、窓というゴールめがけて、シュートを放つ。まあ、サッカーなんてしたことないが。人類には、サンバの血がプリインストールされているように、サッカー選手の遺伝子もプリインストールされているのだ。
「悪は去った……」
俺は安心して、残った骨をほうきで掃く。
やはり、異世界は怖い。骸骨がいるなんて。日本にはいないからな。
今日は疲れた。初日の作業は、これで終わり。
掃き集めた骨を、庭に撒いて、そのままぐっすり寝た。
初めての慣れない環境で活動したこともあり、とっても疲れていたのでよく寝られた。