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一か月ちょっとの願い  作者: FULLMOON
7/12

妻が急に優しくなった(7)

こんなにも妻が全身で喜びを表現することも初めてだった。



どのような食事を食べても、どのような場所に行っても、喜んでいるのか、つまらないのか。



つつましさというのだろうか、妻は自身の感情を表すことを余りしない人だった。



それだけとても嬉しいのだろう。



その喜ぶ妻の姿に私も嬉しい気持ちで高揚するも束の間、罪の念が私を覆った。



この結婚生活の中で、どれだけ妻に寂しい思いをさせてしまっていたのだろう。



私の高揚した気持ちは罪の念によってじわりと冷やされた。



私はインスタントコーヒーをカップに開けて、妻が温めたお湯を注ぐ。



両手で持つカップからじんわりと掌が温まる。



「それでね…」



妻が意気込んだ表情で言う。



「ん?」



私は伺う。



妻はとても言いづらそうにしている。



言葉を選ぶように妻が口を開いた。



「今すぐに、行きたいの」



妻はそっと、一言、一言、置くように言った。



「でも、私は仕事があるし…」



私はカップを口元につけて、コーヒーに言った。



コーヒーの水面はその言葉に揺れ動き、ほろ苦い匂いが立つ。



妻は沈黙した。



揺れ動くコーヒーの水面が私をけしかける。



これまで、妻には沢山の我慢と無理をしてきてもらった。



だからこうして私は夜に帰れば、夕飯があって、着たい時に服が洗ってあった。



使いたい時に使えるように揃っていたのも、妻のお陰だ。



「今すぐ行きたいの!」



妻の激しい口調はコーヒーの水面を大きく揺れ動かした。



リビングの壁に妻の声が跳ね返る。



妻は両手に握りこぶしを作って、俯いている。



その妻の姿に私の意思は固まった。



私は席を立ち、妻の背から抱擁した。



「わかった。行こうか。明日、上司に有給休暇を貰えるか、お願いしてみるよ」



妻の体は固く緊張していた。



「ありがとう」



妻の声は少し震えていた。

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