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一か月ちょっとの願い  作者: FULLMOON
5/12

妻が急に優しくなった(5)

「あたし、子供ができたの。あなたとの子供」



沢山の本が並ぶ図書館で参考書を探すように、私の頭が、子供って何だろうと探している。



子供という言葉は理解しても、その意味が抜けている。



そしてそれは、私の頭がじんじんと煮立つと同時に意味を処理し始める。



「ん? あなた?」



妻は私の顔の前で掌を仰いでいる。



私の頭が理解した瞬間、胸がぞわぞわと内側から急速に高揚する。



私は興奮した体の制御もできないまま口から言葉が出ていった。



「お、おめでとう!」



私は大いに喜び、思わず、妻を抱擁した。



「よかった。喜んでくれるか心配だったんだ」



妻は微笑んだ。



「当然だよ、喜ぶに決まっている」



「よかった」



妻は視線を下げて、お腹をさする。



「だからね、車を売ってきたの。シートベルトがお腹に良くないって言うし、運転が怖くて」



妻が細く言う。



「それにしても唐突だな。前もって言って欲しかったよ」



私は苦笑いの表情を浮かべて言う。



妻は昔からそうだった。



突然、冷蔵庫が新しくなっていたり、新しいテレビに変わっていたりすることもあった。



包丁やまな板が変わったのは、この間、気がついたが、私の気がつかないことも多いだろう。



そういえば、洋服の匂いも変わったから、柔軟剤も変えたのかな。



しかし、特に気にも留めなかった。



いや、仕事が忙しくて、気に留めている暇がなかった。



妻は時に気分のむらがある。



そのように私は結論付けていた。



ただ、何も言わずに車を売却することには驚いた。



「ごめん。突然のことだったから、私も動揺しちゃって」



妻が言う。



「いや、全然構わないよ。でも、車を売らなくても良かったんじゃないか?」



私は言う。



「ううん、あなたとの子供を大切にしたいの。だからね、子供に良くないっていうのは、絶対に避けたいの。ママが守らなくちゃ」



妻は優しくお腹をさすりながら言う。



その瞳は優しく、しかし、表情は目じりを尖らせて、勇ましさにも似た緊張感があった。



「わかった。私もできる限りのことをする」



私も妻のお腹を一緒にさすった。



どのようにさするのかわからないこともあり、服に触れるか触れないかでそっとさする。



私の口が笑みで緩む。



その表情を見てか、妻も緊張した表情を緩ませる。



「てっきり、浮気をしているのではないか、別れたいというのかと思って、仕事が手につかなかったんだ」



私は苦笑いをして言う。



「そんなことできないよ、だって、あたし、あなたのことが好きだもん」

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