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一か月ちょっとの願い  作者: FULLMOON
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妻が急に優しくなった(1)

   妻が急に優しくなった



 勤務を終えた私は、車に乗って帰路を走行している。



夕焼け色の空はやがて藍色に変わり、辺りは夜の訪れに色を変える。



街並みは煌びやかなお店へと姿を変えた。



市街地を抜けて、少し田舎町に私の住む家がある。



行き交う人の数も車もまばらとなっていく。



この曲がり角を曲がれば、家だ。



ふと見ると、曲がり角のガードレールが大きく変形していた。



自動車だろうか、追突した形がそのままになっている。



今日、出勤する時にはもう変形していただろうか。



何の気なしに通り過ぎる。



 家の車庫に車を止める。



この家は、妻と結婚と同時に購入した。



あの当時は家の借金も抱えて、二人で生活できるだろうかと不安があった。



しかし、いつの間にか、もうこんなに年を取っている。



玄関の明かりがぽわっと灯る。



私はその明かりに驚いた。



妻が私の帰りに気がついて明かりを点けてくれたのだろう。



私は玄関の扉の鍵穴に鍵を差して、扉を開ける。



玄関が明るいと、こんなにも鍵穴に鍵を差し込むのが容易になることを初めて知った。



何故なら、家に帰ってきた時、玄関に明かりが点いていることなんて今までなかったからだ。



私の妻は私が帰ってきても玄関に明かりを点けることなんて、結婚以来、一度もなかった。



「ふふ、何か良いことでもあったのだろうか」



私は笑みを溢しながら家に入った。



「おかえり」



妻は私が家に入るやすぐに玄関までお出迎えをする。



「ど、どうした?」



私は妻らしくない行動に動揺する。



お出迎えなんてものはもう諦めていた。



結婚当初は妻にお出迎えをしてもらえるなんていう淡い期待があったが、今は微塵もない。



なので、ここまでされると少し気味が悪い。



「雨降っていたでしょ?」



妻は、「はい」と、私にタオルを渡してきた。



「いや、雨なんて降っていないぞ?」



私は首を傾げて答える。



「…雨降っていないんだ」



妻は視線を下げて、言葉を曇らせた。



「ありがとう、タオル持ってきてくれて」



私は妻からタオルを受け取る。



「うん」



妻がそっと言うと、束の間、パッと顔を上げて、きらきらとした表情で私を見た。



「今日はあなたの好きな料理にしてみました!」



結婚して以来、こんなこと言われたことなんてない。



「本当にどうした? 具合でも悪いのか?」



「何それー、いつもだよ、いつも」



いつもの妻は、優しくなんてない。



世間体としては仲睦まじい夫婦と見られているかもしれないが、家に入ると、とんでもない。



冗談でも言ったならばグーで私の脇腹を狙い、休日でゴロゴロしていれば、足で邪見にする。



怠いー、面倒くさいー、甘いものが食べたいーと私に行っては、買い出し押し付けてくる。



しかし、目の前にいる妻は甲斐甲斐しいというのか、何だか変だ。

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