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隆司という男はどういう男かというと、そつのないイケメンである。
私の勤める文具会社の親会社から出向してきた男。業績の伸び悩む所へのテコ入れだろうか。詳しくは知らない。
実家は世田谷の方で親が資産家という噂を聞いたことがある。本人からそういう話は聞いたことはないけれど、身に着けているもの全てが高級品だったから金持ちであることは確かだ。隆司が毎日腕に着けていた時計の値段をネットで検索したら100万円近かったのを覚えている。
しかも営業部でどんどん契約を取り付けていくわけだから、社内の話題をかっさらうのにそう時間はかからなかった。
そんな注目の隆司に当時私は全く興味がなかった。すでに30歳になっていた私は、見た目20代半ば(実際は一つ下)の彼は「なんか営業部に来た子がすごいらしい。さすが親会社」程度の認識だった。
社内には女子力の高い綺麗で若くてかわいい女の子がいっぱいいるのだ。その子たちが憧れているイケメンは自分とは関係ない世界のものだった。
営業部の隆司と企画部の私が知り合うのはそんなに難しいことじゃない。
有名なイラストレーターとのコラボ商品を企画した時だったと思う。
今から思うと、全く隆司に興味がなかった私が、彼から見たら新鮮だったんだろう。
男の人から優しくされる、という体験をあまりしたことがなかった私は、まんまと罠に落ちたのだ。
社内の男が皆「あいつなら大丈夫だろ」という扱いをしてくるの中のただ一人の「女の子なんだから」という扱い。
あの頃は単純に嬉しかった。今は……バカだったな、と思う。
一緒に取引先に行ったり、帰り道一緒になったり、そんなことを繰り返しているうちに休日も一緒に出掛けるようになっていつの間にか恋人関係になっていたのだ。告白なんてない。
だから、妻だ、とハナを連れてきた時も、私に会った時点ですでに結婚していたんだろうと思っていた。
浮気されていたことに気付いていて放置した私もいけないのだろうか。
でも……
いや、私がいけないんだろう。
私の中には前からコンプレックスがあって、そう、結局私は勝てないのだ。
可愛い顔で、胸が大きくて、若い女の子。
男はみんなそんな女が好きだ。
私がひとつも持っていない、そんな要素が。
甘いに匂いに目を開ける。いつの間にかソファで眠ってしまっていた。
「起こしちゃいました?」
ハナが向かいのソファでパウンドケーキを食べていた。甘い匂いはそれだ。
「お皿とか勝手に使っちゃいました。その他にも、色々お部屋見せてもらったんですけど、このマンション、リョーコさんが買ったんですか?」
「まさか。母のをもらったんだよ。うちは母子家庭で子供の頃からここに住んでたけど、私が23の時に結婚相手と住むからここはあげるって」
一般的に子供が家を出るものだろうが、私の家は親の方が家を出て行ったのだ。
母が買った頃は新築だったのかもしれないが、今はもう古い建物だ。若いハナの目にはあまりいい物件には見えないのかもしれない。
そんなハナの目の前のケーキを美味しそうだな、と思っていたら横に置いてあった箱から一切れお皿に移して私の前に置いてくれた。ちゃんと私の分も用意していたらしい。お礼を言って頂く。
クルミやナッツが入っていて美味しかった。
「どうですか?」
ハナが上目遣いで見てくる。可愛い子の上目遣いは殺人的に可愛い。
「美味しい」
「良かった! 甘すぎるかなとも思ったんですけど。お口に合ったなら良かったです」
「もしかして、ハナが作ったの?」
「はい!」
これはまた理想の女子だね。
「和食が得意って言ってたのに、お菓子も得意なんだね」
「お菓子は仕事として作っていたので、それなりの味になるように勉強したんです」
「……仕事?」
「家で作ってカフェとか小さいレストランとかに卸してたんです。内職みたいな感じで」
自営業じゃないですか。
「それは、すごいね。自分でお店を開こうとか思わなかったの?」
「お店を開くのに必要な資格は持ってるんですけど、ひとりでやっていく自信もなくて、かといって人を雇うのも面倒で、結局卸すという形になったんです。そんなにたくさん作れないから、そんなに収入はないですよ。あ、ここでは作りません! 卸してたお店の方にはしばらくお休みするって連絡済みです! ご心配なく!」
結構ハイスペック女子だった。
大した資格も持っていない私とは雲泥の差だ。
そこが結婚できるかどうかの分かれ道なのかもしれない。
なんて、ちょっとネガティブになってる。私らしくない。
時計を見たら18時5分だった。ハナが訪ねてきたのが15時過ぎだから、結構寝てしまっていた。
予定より早いが夕食を作ってしまおう、とケーキをさっさと口に運ぶ。
「リョーコさん!」
ハナが身を乗り出してきた。髪が揺れて可愛い。
「私、もっとリョーコさんのことを知りたいし、私の事も知って欲しいです!」
初恋の中学生か!
「今日だけじゃなくて一緒に住みたいです。もっとお話ししませんか?」
コテンと首を傾げる。あざといな!
だから弱いんだって、こういう可愛い生き物。
「……夕食作りながらでも良ければ…」
「はい! ぜひ! よかったぁ!」
すごく嬉しそうなハナを見て、まあ、嫌な思いをしたら即追い出せばいいか、と。
そう思った。




