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3DK  作者: 深澤雅海
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 ハナと私の出会いは最悪だった。

 桜の季節。私は当時付き合っていた男にあるメールを送り、その返信により日曜の午後、レストランの個室に呼び出されていた。

 そこに男によって連れて来られていたのがハナだ。


 自分は結婚していた、こちらが妻だ、とのことである。


 最悪だ。

 聞いた瞬間目の前にあった水の入ったコップを男の方へ思い切り打った。パンチである。

 コップを手に取って中の水をかけるというよくドラマで見るような行動をするほど冷静ではなかった。


 男に、私の他に女がいるというのは薄々気付いてはいた。しかし結婚しているとは思わなかったのだ。


「子供は諦めます」


 私はそれだけ言って立ち上がった。

 頭を下げたまま何かモゴモゴと言う男を無視してそのまま産婦人科に行ったのだ。

 その横でハナがどんな顔をしていたのか私は見ていなかった。




 そして、二週間後の今、ハナは私の家の玄関にトランクひとつ持ち立っている。

 「一緒に住まわせて」と。

 少し涙目で見上げてくる彼女を私は追い出すことができなかった。

 私は昔からこういうの・・・・・に弱いのだ。


 とりあえずリビングに通しお茶を出すことにした。

 私はどんな物事も計画を立ててから行動する。そういう習慣がついていると、突発的な事象に弱い。

 そう、正直どうしていいのか分からなかった。


 キッチンからリビングを見ると、ハナはソファに座りきょろきょろと見回していた。小動物のような可愛い動き方だ。きっちり膝を閉じて座っている姿は育ちがよさそうに見える。

 まあ、あの男と結婚するくらいだから、いいところのお嬢様なんだろうけど。


 お茶を持っていくとハナは丁寧に頭を下げた。

 とりあえず、話をしてみるしかない。ハナの向かいのソファに座る。


「ハナさん、ですよね? どうしてここに?」

「弁護士さんの持ってた書類を色々盗み見て来ました。私にはその後どうなったのか詳しく教えてくれなかったので心配していたんですけど、ちゃんとあの人ちゃんと慰謝料払ったんですね。良かった」

「……」

 なんか、イマイチ話がかみ合ってない気がするのは私が混乱しているせいだろうか?


「私、隆司と別れてきました」

 ハナはハッキリと言った。隆司というのは付き合っていたあの男の事である。

 私のせいで別れたから文句を言いに来たのだろうか? でも別に別れろとか言ってないんですけど。


 あの男のことは私の中ではすでに終わったことだ。

 好きだったから告白されて付き合ったのだけれども、浮気されている気配に段々冷めていって……まあ、客観的には私の方が浮気相手だったんですけど。

 いかにも年下で可愛らしい雰囲気のハナを見た瞬間、ああ本命はこっちなのねと納得したのだ。

 男はいつだって若くて可愛くて胸の大きい女が好きだ。

 弁護士から渡された手紙には私の事が本当に好きだったと書かれていたけれども、嘘くらい簡単だ。


「姓も戻したのでアオキハナになりました。よろしくお願いします!」

 私が黙っているとハナはにこりと笑って頭を下げた。耳の下で二つに結わえられた髪がふわふわと可愛く揺れている。

 青き花とかお洒落な名前だな、と現実逃避しそうな自分を自分で引き留める。ちゃんと考えろ自分。


「ええと、アオキさん」

「ハナでいいですよ!」

「別れるのは私には関係ないからどうでも良いんだけど、どうして私の所に来たの? 文句があるわけでもなさそうだし? 行くところがないわけじゃないでしょ? 実家は?」

 いや行くところがないからって夫の浮気相手の所にくる必要もないんだけど。


 ハナはきゅっと唇を噛み締めた後、数秒で顔を赤くした。

 人間ってこんな短時間でこんなに真っ赤になるんだ。


「リョーコさんが格好良かったので! リョーコさんと一緒に暮らしたいなと思ったんです。ご迷惑なのは重々承知ですが、なんでもしますのでここに置いてください!」

 そう言って勢いよく頭を下げる。

 今時の若い子ってみんなこんななんだろうか。


「ええと、何か実家に帰れない事情が?」

「特に何も!」

 なんじゃそりゃ。

「隆司…さんと何かモメて…?」

「全面的に向こうが悪いので問題なく離婚しています!」

 んんん?

「ええと、申し訳ないんだけど、あなたがここに来る理由が分からないんだけど。私にうらみがあるってわけでも……ない…みたいだし…?」

 なんだか私らしくないしゃべり方になっていて情けない。


 言葉が続かなくなった私にハナはぐっと拳を握りしめて言った。

「違うんです! 単純に! 私が! 格好良い人を好きなんです!!」

「……………………」

「男女問わず!」

「だんじょとわず」

「男女問わず!」

 そう強く言った後恥ずかし気に俯き、ちらりと私を見る。


 確かに私は「格好良い」「クールだ」とよく言われる。

 バレンタインも周囲の男より貰っているし、学生時代もラブレターは毎日のように貰っていた。


 そしてあの男も男としては最低ではあるが高学歴で育ちも良く見た目は格好いい。

 格好良い人が好き、という言葉は本当なんだろうと思った。


「お家賃も払いますし! 家事もします! 一緒に暮らさせてください!」


 暮らさせてくださいって言葉変じゃない? と心の中でツッコんだものの、私の口は何も発してくれなかった。

 混乱のあまり。

 完全に考える力をなくしていた。


 ハナは頭を下げたまま上目遣いで私を見た。

 ああダメだ、私は昔からこういうのに弱いのだ。


 私は昔から、

 可愛いものに弱い・・・・・・・・のだ。


 ハナの髪の長さはセミロング以下でお好きな長さを想像してください。コテで巻いてくるくるにさせた後カントリースタイルにしています。

 リョーコは髪型に詳しくないので「なんか(すごく)かわいい髪型」としか思っていません。

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