第三章 〈三〉 山の禁
『山ノ禁』
デルマたちが、集まっていた場所は、巨石群に程近い大岩の前だった。
遠く東の空をみると、少し薄紫色に変化しているようだった。
風の音なのか、それとも、男たちの囁き続ける声なのか、黒い男の人影は誰も微動だにしないまま、囁き続けるような音だけがなっていた。
声の主は、デルマだった。
「では、それをお前たちは、里のものに禁じたまま、山で仕事をしていたというのか」
うなだれるような声とともに、責め立てている声が地面に落ちた。
誰も、返事をしようとしない。それが、帰って真実だと告げていた。
「では、私たちは、いったい何を信じていたというのか。お前たちが、行ってきたことは、山ノ神を愚弄することではないか」
中年の男たちは、うなだれていた。
年長者たちは、そのことに対して、だまったままだった。
「私は、村長に何と申し開きをしたらいいのだ。このことを判断するには、とても」
自分が幼すぎるというのを、ぐっとこらえた。
ダリは、なぐさめるように、デルマの肩をたたくと、こういった。
「誰のせいでもないんですよ。これは。わたしら、山に入る男たちには、これが当たり前のことなのです。あなたは、みたままのことを報告するしかないでしょうな」
悪びれる様子もなくそう語った。デルマは肩をおとしたまま見やった。
村長になれば、この村の全部が見渡せるものだと思っていたが、自分はそんなことにも気づかないほど幼かったということか。
山には、山の世界があり、里には里の世界があると考えてきたが、自分はなんと甘かったことだろう。
村にやってきた誰もが、そのことに気づかずに、生活をして、また山へと入っていく。では、里で待っている女たちは、どうだというのだ?
何も知らず、何も知らされずに、一生を男を待ち続けて終えるというのか?
腹立たしさを感じたが、それを誰に向けたらいいかわからなかった。
デルマは深く息をすうと、絞るように放った。
「もう一度聞く、ここの山の主は、女なのだな?」
長老ダリは、黙ってうなづいた。