第十章 〈4〉 映されたもの
オババが、映し焚きの準備をするまで、カレアは、フレアの寝巻きの縫い目をほどき、布に戻していた。
燃したとき、焚き火の火があがりやすく燃えやすくなるのだそうだ。
オババは、いろいろな薬草なのか、葉っぱを裏からだしてきて、白い瓶に水を入れて、魔よけの榊の葉を何枚も重ねてしばり、水をつけた。
囲炉裏の焚き火の前に、座布団を置き、そこに座ると、さっきまで長椅子でねていたオババからは想像もできないほど、空気がピンとはったような威圧感が生まれた。
静かに、呪文を唱えだした。
そして、胸の前で、手を何度も組み合わせて、形をつくり、そのたびに、
エイッと声が漏れる。
カレアは、寝巻きを囲炉裏のそばにおいて、自分も右隣の座布団に座った。
オババの長い呪文が続いていた。
オババはフレアの寝巻きを取ると、さっと火に放り込んだ。
一瞬火は弱まったが、その後、油のようなものを放ると、火が強まった。
そして、榊の束に、水をつけ、火の前で、あおぐようにかざしながら、呪文をとなえた。
何度か、「フレア」という言葉が聞こえ、何の言葉かわからない呪文を唱えているのを聞いているうちに、何度目かの榊をもつ手が火の前を通り過ぎた次の瞬間、焚き火の炎を、天井近くまで燃え上がった。
ぼうっと燃えたのは、わずか数秒のことだった。
カレアは目の前にあがった火の中に、一瞬フレアが映ったような気がした。
オババは、眼光で炎をにらむように、その数秒間燃え盛る火柱に集中した。
やがて、火は、元の大きさに戻っていったが、オババの眼光は尚も炎を睨んだままだった。
映し出されたものに、何が映っていたかはカレアからは見えなかった。
しかし、オババの表情が、苦しそうにしているのをみて、事態の重さをうかがった。
元の火に戻り、すべての儀が終わり、何度か榊を火の前でかざして、火の御霊に感謝をのべ、オババは、こちらに向き直った。
水を一杯飲んでから、喉がかれているようで、オババは、すぐに話しはできなかった。
ようやく人心地がつき、オババの顔にも赤みがさしてきたが、口は重く言葉を紡ごうにも、なかなか出てこない様子だった。
「フレアは生きておる」
カレアは、信じていたが、オババの口からその言葉が聞けたことで安堵した。
しかし、次の瞬間、カレアは、耳を疑った。
「だが、今はもう力つきておる。フレアの心の中に別の何かが入ろうとしている」
カレアは総毛だった。
「どういうこと?死にかけているの?」
オババは、かぶりをふり、
「いや。そうじゃない。フレアの肉体は正常だが、彼女の気持ちが弱りをみせ、そこに何かが入ろうとしておるようだ」
「何かとは?」
「それは、わからない。しかし、これは、獣や人ではない。別の何かであり、フレアが招き寄せてしまったのかもしれない」
「それが、入ってしまうとどうなってしますの?」
オババは、うなった。長い唸りだった。
「ワシにもわからない。もし、オオゼで修行をしたツムギであったなら、たとえ気が弱ったとしても、はじく事ができたかもしれぬが、まだ幼く、あやつは、気が優しい。もし入られてしまったら」
パチンと、囲炉裏の火がはじいた。
「手遅れになるかもしれぬ」




