第九章 〈4〉 山の神の神殿
<山の神の神殿>
大きな岩壁が目の前に広がり、手前にある水面の光が映し出されて、煌いている。そこは、紫色のアメジストを散らばせたような色をしていた。
その岩肌の方をむいて、使者が座り、皆に頭をたれるようにと合図した。
ルウアたちが、下を向いていると、
水が、ばしゃっと飛沫ををあげるおげて、誰かが水中からでてきたような音が聞こえた。
下を向いているものたちは、それが山の神だと信じた。
すると、驚いたことに、美しい弦楽器のような音色がなった。
山の神が、音を超えて、頭に直接吹き込んできた声のようだった。
「美しい皆のものよ。こうして我が神殿へと来たもうて、なによりぞ。おのがたの力をこの山のために、使いたもうぞ」
声の主は、大きく発光しだした。
あたり一面、岩肌も、大きな力の波が押し寄せたかのように、圧力を感じた。
それは、ただの光ではなかった。
光という言葉を借りた、力の大波だった。
その大波が全身をかけぬけていくとき、力に耐え切れずに、
頭を垂れながらも、ひれ伏してしまうもの。
ぎゅっと目を瞑り、おののいてしまうもの。
歯をくいしばり怖れぬように、ひたすら精神を統一させるものもいた。
ルウアは、そのどれにもはまらず、ただじっと事の成り行きをただ感じていた。大波は、ルウアの全身を貫いたが、心までは貫けなかった。
眉間がうずいているのがわかる。
力の波が終わり、光が消えると、
すると、またバシャンと水の音がして、あたりが静まり返った。
使者は、なおも、静かに頭をたれており、誰一人口を利く者はいなかった。
ルウアは、眉間がかすかに痛んだ。
まるで火傷のようにヒリヒリした。
頭をあげると、使者が、それぞれに向かって、外へ出て行くよう促した。もとの広間に戻ると、皆一様に、一息ついた。
明かりがともされていることに、どこかほっとしていた。
キレアが、聞いた。
「あれ、ルウアのおでこ、どうしたんだよ?」
ルウアが触ると、アザのようなものができている。
「ああ、さっきな」
と言ったきり、詳しいことは言わなかった。その額を、じっとみているものがいた。
「成人の儀が終わりました。これから、皆さんは山の宿営地へ向かいます。洞窟を抜けた外には、案内の人がおりますから、そこへむかってください」
使者がそういうと、一人ずつ部屋から出て行った。
ルウアが部屋を出ようとしたとき、使者が話しかけた。
「あなたは、刻印を押されましたね。その額のアザは、山ノ神に選ばれたものが押される印です」
と言った。
「どういう意味なのですか?」
ルウアが聞くと、使者は微笑んだ。
「あなたの力が見初められたのでしょう」
そういって、おじぎをした。
暗い洞窟から外に出て行くと、朝日が山々を染めていた。
金色に光る太陽が、眩しく、新しい門出にふさわしい朝を告げていた。
第十章につづく




