第五章 〈3〉 うごいた山
<うごいた山>
ルウアは高くとびあがった瞬間に、木々をぬけて空へぬけた。
さっきここまでやってきたときの景色が眼下にひろがっている。
どこまでも続いている一面の木々。
しかし、そこへあったであろう森の一部がなくなっていた。
確かに、さっきまではそこにあった森。しかし、それがまったくなくなっていて、森があった場所には、別の森が押し寄せたようになり、あたかも最初からそこには何もないかのように、すっぱりとなくなっていた。
まるで、縫い物をしてある部分の模様だけを詰めて無くし、綺麗に縫い上げたようになっていた。
ルウアは、そこにあったはずの森が、なくなり、代わりにさきほどまで少し遠くにあった山の頂がこちらに近づいている様子をみて、震えがとまらなくなった。
オガのところまで戻ると、みたことを話した。
オガや、周りにいたものたちはルウアのみたことをじっと聞いていたが、
「もう、こちらにまで来ていましたか」
というと、静かにうなだれた。
「私は実は、小さい頃に、一度森が動くのをみたことがあります。昨日までそこにあった森が、突如なくなって、平原と化していた。まるで最初からなかったかのように、地面を詰め寄せしたかのようだった。あのときも、この山が動いたことも、たどれば同じことかもしれませんね。」
「どうしてこんなことが起こるのでしょうか?」
「私にもわかりません。でも、まずは私は民を守らなければ。東へ向かってみます。」
そういうと、男衆に声をかけ、女衆に荷造りの呼びかけた。
ルウアはその様子をただ黙って見守っていた。
「俺に何かできることはありますか?」
オガは、ありがとうというと、
「あなたは、あなたの民を守ってください。あなたには、立派なお勤めがあるでしょうから」
というと、短く礼をして、みんなの元へ向かった。
ルウアは、今日みたことを、村の者へ話す気にはなれなかった。山の禁を犯して入った山でみたことを誰に話していいかわからなかった。
しかし、そんなルウアをよく知るものになら話してもかまわないかもしれない。そう思うと、ルウアは、飛び上がった。
まっすぐ進んでいく方向には、やがて、太陽が傾きかけている赤い空が見え出していた。
第六章へつづく




