#6
それはある日の夜に起きた。
クリスが拐われかけた。
何とか未遂で済んだが、多大なる犠牲を強いられた。
城が一部崩壊。
護衛の騎士が多数死亡。
騎士団、魔導師達へ壊滅的なダメージ。
そして、瀬古トオルが瀕死の重症を負う。
トオルの捨て身でクリスは何とか窮地を脱したものの、代わりにトオルは死にかけていて、周りも似た様な状態。
このままでは魔王どころの話では無い。
筈だったのだが。
召還され世界を渡って来た時に体の構造が書き換えられたのか、はてはクリスの献身的な看病が良かったのか、トオルは一命を取り留めた。
トオルが倒れ、意識を取り戻してから一週間。
「本当にもう、大丈夫なのですか?」
物凄く心配そうな顔でクリスが聞いてくる。
「あぁ、全く問題ない。むしろ以前より力が湧いてくる様な感じがする」
どうなってるんだろう、俺の体は。
まるで某戦闘民族の様だ。
「それでしたら良いのですが…」
「それに俺だけ休む訳にもいかないだろ?城がやられて修復してる最中じゃないか。手伝うよ」
半分は本音だ。
幸いにして何とか助かったが、魔族の襲来で多数の騎士や魔導師達が亡くなった。
喪に伏したいが、まずは城を何とかしないとまた来ないとも限らないし。
「…それでしたら、お願い致します」
そんな俺の気持ちはクリスだって理解しているだろう。
いや、俺以上に痛い程に理解している。
「なぁクリス。俺はとても無力だ」
「…っ、そんな事は…っ」
「判ってる。『今はまだ』無力だ。だが、死に物狂いで修練して、魔王を倒すわ。じゃないとクリスを護って逝った奴等に申し訳ねぇからな」
「………」
「クリス、俺がいた世界の話を聞いてくれないか?今では平和な暮らしだけど75年前に大きな戦争があったんだ。で、俺の国の都市と言う都市が壊滅的な被害を受けて無条件降伏。更に賠償金として多額の金を払わされた。でも俺達は負けなかった。今では5本の指に入る程の経済大国だよ。まぁ他の国はキナ臭い所もあるけど、一応は大きな戦争はないな」
「今は他の国から沢山の観光客がやってくる。俺の国は他国からの文化や食べ物を上手い事アレンジして、しかもオリジナルよりも凄くなって世に出る事が多々ある。それが他国の人達にウケてやってくるみたいでな」
「四季…春・夏・秋・冬がそれぞれハッキリしていて、しかもそれが場所によっては観光客に大ウケだ。春の桜…薄ピンクや白い花が咲く木がとても人気でね、桜の近くで花見をするんだ。桜が無くても黄色い花が絨毯の様に咲き乱れる所もあったりする」
「…お花見ですか」
「あぁ、花見は酒が入るから多少騒がしいが、楽しいぞ。で、夏は暑い」
「…あ、暑いですか?」
「あぁ、暑い。何せ体温よりも暑い。日陰にいないと暑くて倒れるな。夏は太陽に向かって咲く黄色い大きな花がある」
「そんなに大きいのですか?」
「そうだなぁ、クリスよりも大きな花もあるな」
「…そんなお化けみたいな花もあるんですね…」
「お化け言わないの。見た目はお化けっぽくないから。秋は紅葉って言って葉っぱが枯れるんだ。ただ枯れるのではなくて黄色や赤に色づくんだ。これが山一面に広がると景色は最高だな。寺や神社との相性が抜群に良い」
「…ただの枯れ葉なのに、ですか?」
「そう。ただの枯れ葉。なんだけど、俺の国では風情がある、と。最後に冬。地域によっては雪すら積もらない場所もあるし、2階まで積もる場所もある。これも地域によっては風光明媚になる」
「トオル様の国は素晴らしい場所なのですね」
「…う~ん、どうなんだろ?住んでる側からするとあって当たり前な状態だしなぁ。いやまぁ、良い観光地もあるから悪くは無いんだし、他国からも来てるからなぁ…」
「やはり素晴らしい場所ですね」
「…うん、そうだな」
「でさ、逝った奴等の為にも魔王を倒してこの世界を平和にしたいんだ。皆が笑顔で暮らせる為にも、他国へ観光出来る為にも、……」
「…何か仰いました?」
「ん?いや、何も」
これを入れないとタイトルの伏線を回収出来ないもので。